海水浴は勝負の時 その六
「唯久の話が正しいとすれば、こちらにあったのは月だな」
「学生の海水浴に夜はいるのか? 夜間の外出は校則違反だろ」
二人が陸にあがり、もう一つの建物について聞いてみた。
基本構造はこちらと同じらしく、中央には黄色く凸凹の球体があり、一二階はその周囲に部屋がならび、三階は吹き抜け。
違う個所は球体が太陽なのか月なのかと、階段部分と球体に面している部分の温度だ。
こちらは太陽だったのでガラスのある部屋は温かく階段部分は涼しかったが、向こうは逆だったらしい。
「夜は花火とか肝試し用なんじゃない? 唯久くんの言ってた通りならここには先生達の許可が無いと入れないわけだし」
「それにここが年中昼なら、向こうは年中夜なんだし校則的には問題ないでしょ」
「そうなるのか」
思い立ったらいつでも夜に遊べるって考えると、ここって良い所だな。
今度はみんなで花火でもしに来るのも悪くないな。
「海底の不思議もいいけど、今度はこれで遊ばない?」
千歳が手にしたのはバレーのボール。
のんびりしたり頭を使うのもいいけど、やっぱり体を全力で動かすのが一番だ。
ボートが置かれていた場所にバレー用のセット一式があったので、それを使用。
大体の枠組みを作り、ビーチバレーっぽい簡易コートが完成し、二つのチームに分かれる。
チーム分けはさっきの施設に入った通りだ。
「そんじゃ、ルールはそんな感じで始めようぜ」
ちゃんとしたルールなんて知らないので、簡易ルールを作った。
同じ人が二回連続で触るのはダメ。
サーブは交互に打つ。
ニ十五点先取でデュース無し。
点の入り方はバレーのルール通り、審判もいないので際どい時はやり直し。
そんな適当なルールで始めることにした。
そして四か月も魔法の世界に居ながら、まだ俺とクラスメイトに常識の溝があることに気づいていなかった。
「そこまで本気でやるの?」
千歳がそう言った段階でその溝は理解していないとダメだった。
「よし行くぞ」
じゃんけんに勝った大鉄チームからのサーブ。
ボールを上に放り投げてからのジャンプサーブか、吹っ飛ばされないようにしないとな。
ズドン!
「えっ?」
気合いを入れた次の瞬間には、大鉄の打ったサーブは地面にめり込んでいた。
砂浜に埋まりながらも未だにキュルキュルとボールは回転し煙を出している。
「よし!」
茫然としている俺達とは正反対に、大鉄達はハイタッチをしている。
「俺の知ってるバレーじゃない。俺の知ってるバレーって魔法とか使わないし」
二人がキョトンとした様子で俺を見る。
ここで初めて自分の認識が他の皆と食い違っていると理解した。
魔法は使って当然なんだよな、だってそういう場所だもんね。
そう来るならこっちも本気で受けて立つしかないよな。
「今度はこっちも全力だ」
「受けて立つ」
身体能力の書換をし、動体視力、反射神経、腕力、脚力を向上させる。
大鉄を見習い俺もジャンプサーブを選択する。
ボールを宙に放り、わずかな助走でタイミングを合わせる。
ジャストミートだ。
手がボールの感触を捕らえ、全力で打ち抜く。
ボールは高速で回転しながら大鉄めがけて飛んでいく。
当然のように反応する大鉄はボールをしっかり腕で捕え天高く上げる。
「小石!」
「任せて」
短いやり取りをし、大牧はボールの落下地点に移動する。
大牧の上げるボールは魔法を使ったらしく、高くジャンプする大鉄の手に吸い込まれていく。
大鉄が打ち抜く瞬間、俺と目が合った。
取れるものなら取ってみろと語る目に俺は笑って返す。
鈍い音と共に放たれるボールを受け止める。
身体強化していても骨まで響く衝撃を何とか宙に浮かせる。
千歳も大牧同様に、ボールをジャンプする俺の元にトスする。
狙うのはコートの端だ。
俺の手が再びボールの感触を捕らえると、銃声のような音を出してボールが破裂した。
ボールは一応修繕したが、一度ボールが壊れてしまうと歯止めが利かなくなる。
魔法を禁止していないせいもあって、ルール無用の試合になってしまった。
レシーブだけで割れてしまったり、一度触れると取れなくされてしまったり、重さも軽さも材質も軌道もやりたい放題になった。
その結果、バレー対決は俺と大鉄の一騎打ちになってしまった。
点数は二十対二十一。
十点に達したころには女子二人は脱落し、浮き輪に嵌りながら波間を漂い、バカンスを楽しんでいるのに、俺達二人は球技という名の格闘技に熱中している。
相手が書換を行った攻撃を読みながら返球する。
壊れやすい物なら壊れる瞬間に元のボールに戻し、アタックの瞬間に別の材質に変える。
回数をこなすごとに反応は早くなる。
「これならどうだ!」
「ちっ、読み間違ったか」
何とか二十四対二十四の同点にもつれ込む。
次に勝った方が勝ちになる、最後のサーブを大鉄が上げる。
「受けてみろ、増えるサーブ」
大鉄の放った最後のサーブは風にぶれたかと思ったら、複数に分かれる。
「それズルだろ!」
「もちろん全部本物だ。一つでも落とせばお前の負けだ」
「それなら、こっちも今まで使わなかった禁じてだ!」
自分の両手を大きく書き換える。
全てを拾い宙にあげる。
「これで終わりだ!」
全部で六個のボールを地面にたたきつけるために振り下ろ――
「もう時間だから帰ろー」
千歳の言葉に、俺は集中力が切れ巨大化した手が元に戻った。
もちろん小さくなった手ではどのボールに当たることもなく、互いのコートに自由落下したため勝負はお預けになった。
この時大鉄と激しい言い合いになったは言うまでもない。




