海水浴は勝負の時 その一
七月も終わり八月が始まり、私は小石ちゃんに呼ばれてファミレスに呼ばれたファミレスに来た。
お昼前の開店直後のファミレスにはお客も少なくて、小石ちゃんもすぐに見つけることができた。
「よく来てくれた」
小石ちゃんは顔の前で手を組んで真剣な面持ちだ。
座っている席もお店のだいぶ奥まった場所にいる。
「うん。特に予定もないし、海に行く買い物でしょ? これで私が来なかったらビックリだよね」
「今日、君を呼び出したのは我々にとって勝負の時だからである」
結構きついと思うけど、今日はずっとそのテンションで行くのかな?
「買い物だよね?」
「ただの買い物じゃないのだよ! この買い物の結果次第で我々が次のステップに進めるかが掛かっているんだ!」
「お店の中だから叫ぶのはやめようか、他のお客さんに迷惑だから」
店員さんも他の席の人も一斉にこっち注目しちゃってるから。
「胡ノ宮はわかってないね。今日買うのは水着だよ? 夜市に見せる水着。ウォーターウェアだよ?」
水着って英語でウォーターウェアっていうの?
正解がわからないので突っ込んでいいのかもわからない。
でも、唯久くんに見せる水着か。
私も高校生になったし、少し大胆な水着にした方がいいのかな?
「ここを機に、意中の相手との距離を一気に詰めるの。そしてひと夏の経験をしたいんだよ私は」
「その気持ちはわかるけどね」
私も唯久くんとそういう関係にって考えないわけじゃないし、でもそれはまだ怖いっていうのもあるんだよな。
付き合ってるし仲も良好だから焦る必要が無い。
「今、自分は付き合ってるから焦らなくてもいいとか考えてるね」
「うっ……」
そんなに考えてることがわかりやすいかな?
「夜市も男だからね、もし海にスタイルの良い女子が居たら確実に見るよ?」
「っ……!」
「夜市は顔が悪いわけじゃない。その女子が夜市に一目惚れしないとは限らない」
「そ、それは……」
「自慢の体を使って夜市に詰め寄り肌と肌が密着、そのまま物陰に連れていかれそのまま――」
「唯久くんなら断るよ!」
突然声を荒げてしまい、またしても周囲から視線を集めてしまう。
立ち上がった時にテーブルを思いっきり叩いてしまったらしく手の平も痛い。
「そうならないために、男子の視線を自分に向けないといけない。つまりセクシーな水着選びは必須なんだよ」
「そ、そうだね。海は戦場だ」
唯久くんに限ってそんなことはないと思うけど、唯久くんも男だし、欲求に負けちゃう可能性はゼロじゃないんだ。
「それじゃあ、行こうか」
私と小石ちゃんは勝負に出るべく、隣町のモールに足を運ぶ。
†
電車で十分、夏休みで人が込み合っているモールに到着した。
目指すは三階の水着売り場。
海辺を模した内装になっている売り場には、色々な水着が並んでいる。
フリルの着いた可愛い物や、ワンピース型の子供用、どんな人が着るのか気になるほとんど体を隠せない紐の水着が取り揃えられていた。
「何着か見繕って見せ合おう。自分一人で選ぶよりは良い物が選べるはずだよ」
「わかった」
レジャー気分の水着売り場のはずが、戦場に持って行く装備を選ぶ場所に変わってしまう。
無難なのはチューブトップだけど、攻めが足りない。
同じ理由でワンピース型も可愛いけど却下。
やっぱりここはビキニしかないかな、胸はある方だと思うし、そこを強調した方がいいかな。
最近は運動もしているからお腹も変に出てたりしない。
でもあまりにも普通に感じてしまう……。
思い切ってこの紐に挑戦するべきだろうか。
目を閉じて、これを着ている姿を想像する。
必要最低限しか隠れていないこの水着、きっと普通に遊んだりする。
激しい運動をして手を伸ばした拍子に……。
ただの痴女でした。
それを見た唯久くんがドン引きするのが見えました。
唯久くんが「千歳ってそんなの着るの? マジないわー」と言われる幻聴も聞こえてきます。
これは絶対になしだ。
それから無難なチューブトップの水着と黒のビキニ、そして華やかさを出すために青色のパレオが付いた水着を選んだ。
自分のを選んだ私は小石ちゃんを探すと、すぐに見つけることができました。
「小石ちゃん、決まった?」
「決まったよ。これとか最高にセクシー」
そう言って見せてきたのは痴女用の水着、しかもよく見るとパットも入っていないらしく向こう側が透けている気がします。
こんなのは明らかに私達が着ていい水着じゃない。
「返してこようか」
「でもよくない?」
「返して来て」
「はい」
食い下がった小石ちゃんを押し切り何とか元の棚に戻させました。
大鉄くんの性格をちゃんとは知りませんが、硬派で昔気質っぽいのであの水着は印象悪いと思う。
「それならこのビキニでどうだ。みんなが着ているスタンダードだし攻めていると思う」
どうしよう否定はできないけど、小石ちゃんに似合っていない。
布の面積もそれなりにあるし、頭ごなしに否定できる要素が何もない。
でも、明らかに足りていない。
身体測定の時に小石ちゃんの裸を見たけど、明らかな幼児体型。
ビキニだとその体型をカバーできない。
「胡ノ宮の反応で大体わかったよ……、うん、私も知ってたよ……。大丈夫似合わないって言ってくれていいよ……」
私には何も言えない。
「でもこっちなら可愛いし、良いと思うよ」
流石にこの流れでワンピース型を進めることはできず、チューブトップでパンツが付いている水着を渡す。
これなら大鉄くんと一緒に体も動かせるし、露出も多く体型も隠せる。
小石ちゃんの容姿にも合っている水着だと思う。
「うん、そうだね。やっぱり可愛い系の水着だよね」
「小石ちゃんの魅力はその可愛さだからね。そこを前面に押し出せば大鉄くんも小石ちゃんに惚れちゃうよ」
セクシーさを出したい小石ちゃんを説得して、私が選んだ水着を買わせることができた。
小石ちゃんは可愛いのだから、変に奇をてらってセクシーにする必要はない。
私も結局冒険するのはやめ、パレオの付いた水着を買うことにした。
たぶん今の私にもセクシーな水着は着こなせない。
あれはもう少し大人の魅力が付いてきていないと着こなせないんだなと今日分かった。
「水着も買ったし、次は下着だね」
「泊りじゃないよね?」
確か日帰りで夕方には解散の予定だったはずだ。
「解散した後に泊まる可能性があるよ。例えば
「ちょっと部屋に寄って行かないか?」
なんて一言から始まって、そのまま晩御飯を一緒に食べた後に
「終電無くなっちゃった」
「それならこのまま泊って行けばいい」
「襲っちゃダメだよ」
「それは約束できないな」
みたいなことがあるかもしれないんだよ? 下着は必要でしょ?」
「大鉄くんってそんなキャラじゃないでしょ?」
もっとこう侍とか武士って感じの硬派なイメージがある。
そんなナンパなことはしないと思う。
「夏は男を狂わせるんだよ」
「今一番おかしくなってるのは小石ちゃんだからね。まあ、普通に買い物なら付き合うけど」
そのまま下着選びもした。
さっきはそう言ったけど、いつそうなるかを考えたら私も準備くらいはしておいた方がいい気がした。




