海水浴は勝負の時 その二
海水浴当日、唯久くんとの待ち合わせ場所に向かう。
今日は夏っぽくノースリーブのブラウスと、勇気を出して少し短めのスカートで気合いを入れた。
いつもと同じ場所で、楽しそうに行きかう人の波を眺めていると、待っていた人を見つけた。
「悪い、待たせたか?」
「大丈夫。楽しみで早く来ただけだから」
「連絡くれれば俺も早く来たのに」
何となく恋人っぽい会話を楽しみながら学校に向かう。
唯久くんは水着を褒めてくれるかな?
そういうのはあんまり得意じゃなさそうだし、あんまり期待しない方がいいかな。
「千歳の服似合ってるな。夏っぽくていいな」
「うん、ありがとう。唯久くんもカッコいいよ」
唯久くんは私から顔を逸らして、褒めてくれた。
さっきから落ち着きがないと思ったら、きっと褒めるタイミングを見計らっていたのかな。
だから私もお返しに褒めてみる。
照れながら「さんきゅ」という姿が微笑ましい。
学校に着くと、小石ちゃん達はすでに着いていた。
「揃ったなら向かうか」
「今更だけど、鏡の世界で海水浴って帰りどうするんだ? 移動用の魔法なんて使えないぞ」
「唯久、そんなのは簡単だ。走れば着く」
唯久くんの顔が、固まった。
「大鉄くん、嘘はやめようね。帰りは学園行きのバスがあるんだよ」
「バス? 鏡の世界でバスが走ってるのは見たことないけど」
説明が少し難しい。
表の世界で走るバスとの違いもいまいちわからないし、唯久くんは何がわからないのかもわからない。
こういう所はやっぱり一般人と魔法使いで差があるんだよな。
「帰るときにはわかると思うよ」
「まあ、そうだよな」
今ので納得できる辺りはやっぱり才能はある。
魔法のレベルもぐんぐん上がってるし、私も頑張って練習しないとな。
そのまま校舎の中に入ると、昇降口の前に入国管理局と看板が掛けられた見慣れない小屋ができていた。
「俺達って海外に行くのか?」
「学園長の悪ふざけだよ」
唯久くんに答えると、すぐに納得してくれた。
呼び鈴も中に入るドアもないので、仕方なく小屋をノックすると受付のような窓が小屋の壁に突然現れる。
「旅の目的は?」
何に影響されたのか、小さな受付窓から手が伸びてきた。
どうすればいいのかもわからず、全員が困惑している。
「なんだよ。ノリが悪いぞ学生共」
パッと何事もなかったかのように大きな窓が現れ、ようやく学園長は顔を出した。
その大きな窓から見える景色は、私達がこれから行こうとしている海よりも立派な海だった。
エメラルドグリーンの広い海に、ビーチチェアー、ドリンクも完備されていて完璧なまでのバカンスだった。
こんな空間を簡単に作り出せる辺り、学園長は噂通り凄い人なんだと思う。
「それで行先はどこに行くんだ?」
「三番のビーチに夕方の六時くらいまで滞在予定です」
「わかった。バスは準備しとくからその時間までに帰って来いよ」
バカンス気分でもやることはやっているらしく、手元のリストに私達の名前と帰宅時間を記入している。
「千歳、学園長は何してるんだ?」
「監督の先生がいるわけじゃないからね。ああやって鏡の世界に入る人は全部記録されてるの。事件や事故で時間までに帰ってこなかったりしたらすぐに捜索に出られるようにね」
「なるほど」
大鉄くんが説明を全てしてくれたので、あっさりと海への扉を開いてもらえた。
「危険はないだろうけど気をつけて遊んで来い」
学園長に見送られながら私達は扉を潜った。
視界を埋めつくす広いビーチにたどり着いた。
白い砂浜、青い海は穏やかで、波音が心地よく周囲に響いている。
「人が全然いないんだな」
「使う人が学園関係者のみだからね。人に会うことの方が稀だよ」
私もここに来たのは初めてだ。
普通は一般人と同じ海水浴場とかしか行ったこと無いし、お父さん達の学生時代が羨ましかった。
今度実家に帰る時にこの話をしてあげようかな。
「それじゃあ、着替えてここに集合でいいな?」
「更衣室見たいのはあるのか?」
「あるよ」
私が指さした先を見て唯久くんは私に疑いの目を向ける。
その気持ちはわかるんだけどね。
お父さん達に聞いたのと変わっていないから間違いはないと思う。
「あそこで着替えるとか覗かれてもおかしくないだろ」
唯久くんの言いたいことはよくわかる。
どう見ても廃屋だしね。
更衣室として置かれている建物は強風で壊れそうなほどにボロボロな建物。
壁の板は、密着していないしプレハブの方がはるかにマシな見た目をしている。
「でも、あれ中は絶対見えないようになってるんだよ」
「それは嘘だろ」
あっさりと嘘認定されました。
「物は試しだし覗いてみればいい。私と胡ノ宮が入るから。本当に覗けたらラッキーだろ?」
「いいのか?」
「私を見るのはやめて欲しいけど、胡ノ宮のは見てもいいだろ」
「小石ちゃん、私もやめてもらいたいんだけど」
「魔法がかけられているから中に壁があると思ったらわかりやすいと思う」
私を無視して話を進め、納得していないまま更衣室に連れていかれた。
まあ、お母さんもあそこ以上に覗きの心配がない場所はないって言ってたし、大丈夫なんだろうけど、見えていなくても覗かれているというのは落ち着かない。
そんなそわそわしている私とは正反対に小石ちゃんは服をあっさりと脱いだ。
着替えにタオルを使わないあたり、結構大胆だな。
「やっぱり千歳ってスタイルいいね。羨ましい」
「ありがとう。小石ちゃんこそ自分で言うほどスタイル悪くないよ」
幼児体型なのは変わらないけど、少しは変化している。
身体測定の時よりは成長している。
お腹も少しはくびれているし、胸も成長している。
「私は着替え終わったから先行くね」
「うん、ちょっと待とうか」
小石ちゃんの肩を力一杯掴む。
「痛いんだけど何?」
「その水着をいつ買ったの?」
「一緒に買いに行ったじゃん」
「それじゃないのを買ったよね?」
小石ちゃんが着ていたのは、痴女専用水着だった。
こうやって着用している姿を見ると、本当に紐だけだ。
必要最低限以外はすべて紐。
後ろ姿に関しては全裸にしか見えない。
ただでさえ子供にしか見えない小石ちゃんがこんなのを着てしまったら、警察沙汰間違いなしだ。
「あっちよりも、こっちの方が悩殺できるかと」
「そうだね、警察が来るから本当にやめよう。大鉄くんもドン引きだから」
説得の末、何とか一緒に買った水着を着せることに成功した。
「うん、やっぱりさっきのよりこっちの方が似合ってるよ」
ビキニとかの大人っぽい露出の物よりも柄で大人っぽさを出した方が可愛い。
「女子と男子だと感じ方が違うんだよ?」
「少なくともさっきのとこれなら大半はこっちを選ぶし、さっきの水着を選ぶ人について行っちゃダメと思う」
その人は明らかに変態なので。
海に入る前から疲れたけど、私も着替えよう。




