校外学習に行こう その四
「あの……、ごめんなさい……、私のせいで……」
今にも消えてしまいそうなほどにか細い声で、木花は俺に謝って来た。
「木花がこの壁作ったのか?」
「違いますけど……」
「じゃあ、木花のせいじゃないだろ。この壁を作ったやつのせいだ。それか魔法が何でも有なのを知っていたのに向かわせた俺達のせいだ」
俺がそう言うと、木花はまた黙ってしまう。
これはどうすれば壊せるんだろうか?
ドリルでも腕力でも壊せなかったし、後は溶かす?
でも、俺に酸とかバーナーは作れないしな。
天井もこの壁と同じように頑丈で、壊せない。
そのうえ電波も遮断しているらしく、スマホで連絡も取れない。
「木花の魔法ってどんなのなんだ?」
「これです」
打開の策になるかと思って聞いてみたが、差し出されたのは一体の人形だった。
その人形はむくりと起き上がり俺に向かって挨拶をする。
「人形を操る魔法。それも自分のが作った物だけです」
「木花は裁縫とか得意なんだな」
「はい」
うん、話しが続かない。
それは木花の個性なんだろうし、無理に直させる必要もないよな。
でも人形でこの状況を打破できるとは思えないしな。
「ごめんなさい、役に立たない魔法で」
「それはいいよ。結局俺も役に立ってないから」
それにしても三十分はここで閉じ込められてるけど、一向に何も起きないな。
てっきりさっきの奴が襲いに来るかと思っていたけど、未だに姿を見せない。
上で戦ってるのか?
普通はこっちの人数が少ない場所から攻めるもんじゃないのか?
「夜市さん、防犯ブザーを使うのはどうでしょうか?」
「忘れてた」
さっそく防犯ブザーから紐を抜く。
しかし何の反応も起きない。
木花の持っている物も同じようで、何の変化も起きない。
「壊れてんじゃねぇか!」
全力で地面にブザーをたたきつける。
音もならなければ草部先生から連絡が来ることもなかった。
こんなのを渡されてもどうしていいのかわからん。
「この壁のせいでしょうか?」
「そうかもな。電波もシャットアウトしてるみたいだしな」
連絡手段も脱出方法もない。
こうなってしまえば現状は何もできずただ時間が過ぎるのを待つだけだ。
夕方までここで待って、俺達から連絡がないことを心配した草部先生が助けに来てくれるまで待つしかない。
「夜市さん、誰か建物に入ってきました」
小声で話しかけてきた木花の言う通り、二階の入り口の方から足音が聞こえてきた。
すぐに物陰に隠れ、侵入者の姿を覗く。
さっき見た黒いローブの人間。
その周りには三匹の犬らしきものが居た。
唸っているその三匹は、犬にしては歪で、姿が揺らいでいる。
おそらく魔法で作られた犬だろう。
「侵入者諸君、ようこそ私の狩場へ」
変声機を使っているのか、声は機械的な声だ。
流石にこいつが魔法で作られた人間ってわけではないだろう。
犬を作り出しているし、この壁もこいつが作ったのか?
「バウッ!」
犬の一匹がすぐに俺達の場所に向かって吠える。
「捕らえて私の前に連れてきて」
「木花は少し離れててくれ、俺がやる」
体に書換の魔法をかけ、筋肉を増殖させる。
飛んできた犬を殴りつけるが、その犬は一瞬で変化する。
殴りひしゃげたように見えた犬の体は、そのまま折れ曲がり大きな口に変形した。
大口には肉食獣の牙を携え、俺の腕に噛みつく。
ぶちぶちと切れる筋肉を自分の腕から切り捨てる。
そのまま餌として肉を食い終わった大口は、また犬の姿に戻る。
「全員でかかりな。そいつらを殺さずにつれて来い。後で実験に使うから」
後ろにはいまだに動けない木花がいる。
ここで耐えるしかないな。
絶体絶命な今、俺の頭には今の変化がカッコよく感じられた。
犬の形からの変化、あれを俺にも使えないか?
書換たのか? それとも作り出したのか?
「危ない!」
さっきの魔法に集中していたせいで、一匹の犬が飛び込んできたことに気がつくのが遅れてしまう。
俺と犬の間に一体の人形が割り込み、俺の代わりに人形が先に喰われた。
急いで距離を取ると、足元には十体ほどの人形が立っていた。
「ありがとう」
「これくらいしかできません」
「十分すぎるよ」
今のわずかな時間で、俺なりにできることが思いついた。
できるか? なんて俺は何を知っているつもりだったんだろうか。
魔法は何でもできるんなら、俺の頭にあるイメージも必ずうまくいくだろ。
飛びかかって来た犬に、俺は近くに展示されていたカメラを手に取り、全力で振りぬく。
書換の魔法を使い、一台のカメラを巨大なハンマーに書換る。
魔法の犬がどんな姿になっても関係ないほどに大きく、どんなものになっても打ち砕くハンマーをイメージする。
手には何の感触もないが、それでも確かに当ったという感覚は手に残っている。
俺が振りぬき体勢を崩す瞬間を他の二匹は見逃さない。
二匹が同時に俺に向かってくる姿を、俺は冷静に見ていた。
上下にニ十本ずつ生える牙も、蛇に変わろうとしている尾も、熱を帯びる爪も全てはっきりとわかった。
だから俺はハンマーを更に書換る。
変化しても逃げる事の出来ない檻の様な球体をイメージし、二匹を飲み込む。
ゴンと鉄球の檻が地面に落ちる音が響いて、敵の出した魔法の犬は無力化した。
「驚いた。素直に驚いたよ。ここまで急激に動きが変わるとは思ってなかった。思ってなかったから、次は私とやろうか」
不気味な機械音声で向こうは構えた。




