校外学習に行こう その三
校外学習の準備が終わった翌週、一年A組は普段よりも多い荷物を持って教室にやって来た。
出席を取った後に、草部先生が自分の荷物を忘れるというボケをかましたため出発は予定よりも少し遅れはしたが、これから自分達の好きな場所に向かうということで誰もそれに突っ込むことはない。
「お待たせしました。それでは各班の行先は私が開きます」
スポーツテストの時と同様に、教壇の前に現れた扉には番号が振られている。
今回俺達は一班なので、一と書かれた扉の前に集まる。
「それでは、防犯ブザーを全員に配りますので、受け取ってください」
渡されたのは百均でも売っていそうな、卵型の物で先端部分から紐が伸びている。
「見てわかる通り、この紐を引けば音と共に私に連絡が来ます。それを確認次第直接皆さんの元に向かいますので、危険を感じたらすぐに鳴らしてください。それでは最後に一言だけ。皆さんなら何があっても大丈夫だと信じています」
何か怖いことを言われた気がする。
とりあえず出発しないわけにはいかず、一班は東京に向かって出発する。
扉を出て現在地を確認しようと思ったが、ここがどこかわからない。
でも、なんか東京感ある。
ビルに嵌め込まれている無駄に大きなテレビ画面に、田舎だと想像もできない大きなビル群は確かに東京みたいだ。
「ここが東京なのか? スクランブル交差点とかハチ公とかじゃないんだな」
「ここは新宿だからその二つはないかな」
「新宿って、あの二丁目があるところか」
極道とおかまが多い所だ。
「唯久はそういうイメージなんだね。確かに実際客引きとか多いから近づかない方がいいけどね」
元都会民がそういう反応なら、あながち間違っていないらしい。
「鏡の世界だからか、人がいないな」
魔法使いの人口が少ないのもあるんだろうけど、都会ってもっと人が溢れてるもんだと思ってた。
「人がいるのは西新宿方面らしいね」
「新宿って四方に分かれてるの?」
「一応ね。西新宿はオフィス街で、あっちの方だね」
神楽坂の質問に答えた均が指さした方には、テレビなんかでたまに見るビル街がある。
今居る場所よりも落ち着いた雰囲気を感じる。
この辺りも、元の世界ではスーツを着た会社員がたくさん歩いているんだろう。
「目的でもあるし、行ってみようか」
最初にたどり着いたのはどうやら新宿駅だったらしい。
巨大なテレビの反対側に立っている建物には、しっかりと新宿駅と大々的に書かれていた。
そこから均の案内で西新宿を目指す。
大鉄なら頭を低くしないとぶつかりそうなトンネルを抜け、大きな道に出る。
広い道路に高い建物。
田舎者の俺には目が回るほどの大都会だった。
「この辺りに見える建物の中で学園外の魔法使いが生活してるんだって」
「それなら近場から入ってみようよ」
鹿山が、目の前にあった家電量販店の名前が書かれている建物を指さす。
全員それに不満があるわけでもなく、俺達は建物の中に入った。
家電量販店の名前が書かれていたのに、なぜかスポーツ用品や服が売っていることも不思議だが、生活していると説明を受けたはずなのに、中に人の気配を感じない。
「本当にここに人がいるの?」
「そう書いているんだけどね」
均が持っている地図を見ると、そこには確かに人が生活している印が付いている。
この印は学園側が事前に生活範囲や危険性を調べてくれている物で、この印がある場所は安全で友好的な魔法使いがいるらしい。
「ここには一人しか住んでないんじゃない? 外にはたくさんビルもあるんだし、魔法使いの人口を考えたらなくはないよね?」
神楽坂がそう言い、俺達も賛同する。
建物も多いここで複数人が生活するよりも、建物一つに魔法使い一人の方が普通だ、そういう風に考える。
でも、全員の表情にはどこか不安な様子が見て取れた。
「とりあえずここに居ても仕方ないし、もうちょっと探してみない?」
鹿山の一言で、俺達は建物の中を調べることにした。
分かれて調べないのは単純に現状の恐怖心から。
電気関係も正常らしく、長いエスカレーターを使い階を一つずつ登っていく。
商品のディスプレイが多く、物陰も多い、そのせいで物陰に何者かがいる気さえしてしまう。
自分達の足音や、空調が切り替わる音が妙に気になってしまう。
誰も言葉を発さず、周囲を警戒しながら先に進む。
「本当に東京に人っているの?」
「先生がくれた紙にはそう書いてるよ。昼頃には鏡の世界でも人は活動してるってさ」
「誰もみなかったよね?」
急に寒気がしてきた。
よくある怖い話みたいな状況だ。
別世界に迷い込んで、そこで化け物に襲われる。
もちろんここは普段とは違う世界だし、化け物が居てもおかしくない。
ホラーの世界に迷い込んだような気分のまま、三階に向かうため、エスカレーターに乗ると、上の階から降りてくる人とすれ違った。
ローブを着てうつむいた誰かが二階に降りて行った。
「待ってください!」
俺が声をかけてもその人は無視したまま下りていく。
「追いかけよう!」
「木花さん、どっちに行ったか見てて!」
神楽坂と鹿山が叫び、木花も言われるがまま動き出す。
そのまま急いで下りのエスカレーターに駆け降りると、最初に乗った俺以外がエスカレーターに乗ることができなかった。
壁の様な何かに阻まれ、向こうの声はこちらに届かない。
何が起ったかわからないまま、均と千歳が先に行けとジェスチャーする。
今、あっちは四人で俺と木花が孤立している状態だ。
俺は頷いて急いで木花を探しに行く。
木花はすぐに見つかった。
上りのエスカレーターの前で柱に隠れるように待機していた。
「木花、大丈夫か?」
「はい」
見たところ外傷はなさそうだし、大丈夫みたいだな。
「さっきの人はどこに行った?」
「私が見た時にはもう……」
「わかった。一度みんなの元に戻ろう」
分かれたまま動き回るのは危険だと、エスカレーターに向かうと、壁に塞がれていた。
コンクリート様に硬いが、氷の様に滑らかな壁。
当然魔法だよな。
ぶち破ろうと右手に魔法をかける。
右手をドリルに変え、全力で掘り進んでみるが、逆にこっちのドリルが削られる。
どうやらエスカレーターは使用不可らしい。
それから階段もエレベータも確認したが全て封鎖、外につながるドアも封鎖されていた。
俺と木花は二階に閉じ込められたらしい。




