校外学習に行こう その一
スポーツテストも終わり、五月も残り一週間になった。
その時の影響なのか、俺はクラスメイトに絡まられることが多くなった。
魔法の授業の時は、よく勝負を持ちかけられたり、素人の俺に魔法の相談を持ちかけられたりしている。
一か月前まで魔法とは無関係だった俺が、クラスメイトと仲良くなるのは嬉しいが、困ったこともある。
ここ最近千歳と話せていない。
朝から放課後までクラスメイトに話しかけられ、話す時間もほぼ無い。
この日も、魔法の授業中に相談を持ち掛けられていた。
「私のは音を使った魔法なんだけどね。音を書換るか、音を出す道具を作るかが悩みどころなんだよね。二つ使えればいいんだけど、どっちも中途半端で……」
彼女は神楽坂音々。
自分でも言っているが、音を使った魔法が得意で、歌うのも好きらしい。
その隣で一緒に居るのが、鹿山瑠那。
氷の魔法を使うらしく、そのイメージにピッタリの少しクールな印象だけど、中身は面倒見がいい優しい人だと、前に千歳に言われた。
「その相談がなんで俺の所に来るんだ? 俺は魔法初心者だぞ?」
「だからこそだよ。魔法を知らない夜市君だから聞いてるの!」
「要はいじめってことか?」
初心者に専門的な話をして困らせて楽しんでいるってことか?
明るくて裏表が無さそうなのに、そんな趣味の悪いことをしているとは思ってもみなかった。
「違う違う。音々の言い方が悪いわ。私達は魔法に関しては夜市よりも詳しいけど、一般的な知識ってないの」
「魔法使いだからって外界を拒絶してるわけじゃないだろ? 普通に中学までは通ってたんだよな?」
「夜市が通っていた様な学校には通ってない。この学園に通う生徒の大半は、魔法使いの基礎を教える学校に通ってるのよ。だから実は夜市みたいな一般の知識を持っている魔法使いは自分で思っているより貴重な存在なのよ」
そう言われると悪い気はしないかな。
でもそんな中学校があるなんて知らなかったな。
秘匿されてるとかで普段はわからないようにしているのか?
「だからお願い、相談に乗ってくれる?」
神楽坂は、俺との距離を一気に縮め手をギュッと握る。
整った造詣は困った顔になっても守ってやりたいと思ってしまう。
それに神楽坂の手は柔らかくて温かい感触で異性を感じてしまいドキドキしてしまう。
「そういうのはやめなさいって言ってるでしょ。ごめんね、この子の癖なの」
「俺は別に嫌じゃないし」
女子に手を握られるのが嫌いな男子はいないしな。
寧ろ嬉しくてありがとうと言いたいくらいだ。
「この子、妙にスキンシップが激しいけど、誰にでも同じことしてるから勘違いしないでね」
「了解しました」
鼻の下が伸びていたのか、鹿山は俺に睨みを利かせけん制してきた。
この対応に手慣れてそうだな。
よほど苦労してきたんだろうな。
そうと知っているのか、神楽坂は叩かれた頭をさすっている。
「それで、何かないかな? 音にまつわる魔法っぽくない知識」
「いきなり言われても困るんだけどな」
音にまつわる常識ってことだよな?
俺が知ってるのは、窓ガラスが割れるとか、音の正体は振動ですとかだけど……。
そうなると、俺としては道具に頼った方がいい気がするな。
大きな音を出されるのは結構驚くし、複数出して音響砲とかになればカッコいい気がする。
「俺は創造の方に力を入れた方がいいんじゃないかと思う。音って振動だし、音の出る何かを作れば戦隊ものみたいに複数でできればカッコいいし」
俺が一応自分の意見を言うと、二人は不思議そうな顔をした。
もしかして振動だとか言ったのが問題だろうか?
「戦隊ものって何?」
「そっちですか……」
なぜかクラスメイトに戦隊ヒーローの話をしていると、俺のスマホが震えた。
二人に断りを入れスマホを見るとメッセージが届いていた。
差出人は、千歳だった。
『おひるいっしょにたべませんか』
変換ができていないのがなんだか微笑ましい。
機械音痴なりにメッセージを送ることはできるようになったらしいが、変換はまだ難しいのかもしれない。
フリックの上に予測変換は出てるはずなんだけどな……。
千歳に『いいよ』とだけ返信する。
久しぶりに一緒に居られることが嬉しく、俺は頬が緩みながら二人に自分の案を説明した。
†
昼休みになり、千歳が俺の席までやってくる。
「屋上でいいかな?」
「うん」
短い会話をして、二人で屋上に向かう。
少しだけ付き合いたてのカップルの様に感じ、クラスメイトの視線が少し嫌だ。
特に猿弥の視線は殺意全開だった。
「えっと、ごめんね、いきなり呼び出して」
「全然平気。って言うか千歳と話せて、その、俺も嬉しいし」
「そうんなんだ」
「うん」
あれ? 俺と千歳ってなんかこう、もっとこう、あれだよ、気軽に話せる感じじゃなかった? 俺の気のせい? 前からこんな感じだっけ?
こんなに体温上がったっけ? 前から話すのが嬉しかったけど、もう少し普通に話せていた気がするんだけど。
そのまま何も会話がないまま屋上に着いた。
「やべっ、パン買うの忘れてた……」
緊張のあまり、自分が手ぶらなことを忘れていた。
急いで買いに行こうと立ち上がると、俺の手を少し汗ばんだ熱い手が掴んだ。
「私のでよければ、食べますか? 今日は偶然二つあるので」
「はい。食べてもいいのなら」
顔が真っ赤な千歳は、なぜか丁寧な言葉づかいで俺に弁当を差し出して来た。
それを受け取る俺も、おそらく千歳と同じく真っ赤な顔で弁当を受け取る。
今日はこの時期にしては異常なほどに暑いな。
千歳から貰った弁当は全体的に和風な料理が多かった。
煮物と魚、それに少量のサラダが付いている。
旅館の食事の様で、洋食が多い俺からすると、こういうのが美味しそうに見える。
「美味そう」
「簡単な奴だから、味はあんまり期待しないでね」
謙遜する千歳に「いただきます」と手を合わせ、煮物を一口食べる。
大根には鶏肉や出汁の味がしっかりと染みていて凄く美味しい。
鶏肉もパサついていないし柔らかい。
そのまま魚を食べると、サバには脂も乗っていてご飯が進む。
「どうかな?」
「最高。毎日食べたいくらい」
「ならよかった」
そのまま箸が止まらずに俺は千歳の弁当を食い続けた。
「ご馳走様でした。本当に美味かった、ありがとうございます」
「そんなに喜んでもらえて嬉しいよ」
素直に感想を伝えると、千歳もふにゃりと嬉しそうに笑う。
恩返しに弁当箱を洗おうとしたら、やんわりと断られてしまった。
「千歳って一人暮らしだっけ? だから料理が上手いのか?」
「一人暮らしの前にお母さんに仕込まれたの。去年は魔法の練習よりも料理の練習が多かったくらいだよ」
「一人暮らしだと外食が多くなるらしいから、心配してるんだろ」
「それもあるけど、今から練習しておけば、いい男の胃袋を掴めるから練習しろって言われてね」
「そうなんだ」
これはどうとればいいんだろう? 素直に俺の胃袋を掴みに来たって解釈したらいいのか? それとも俺はただの実験台? それとも男扱いされてないってこと?
昼前に話していた神楽坂みたいに、こういうことをするタイプってこともあるんだよな、千歳って結構誰とでも仲良くなれるし……。
「どうかした?」
「えっ、別にどうもしないって。午後に校外学習の班決めやるって言ってたから、どうなるんだろうなと思ってたんだよ」
「そう言ってたね。一緒の班になれるといいね」
そう言う笑顔が凄く可愛い。
そんな可愛い千歳と俺は仲がいい。
それは疑いようはないんだけど、そこから発展することはあるんだろうか?
残りの休み時間はそんなことを考えながら過ぎて行った。




