スポーツテスト その五
「上手く行ったね」
「反則みたいなもんだし、ニ三年になったらたぶん通じないしね」
失格になった人を参加させて目をくらませて、タッチする。
魔法が未熟な一年だから通じた裏技だ。
誰かが人間を成功に作れていたら、先生もそれを警戒しているだけろうけど、俺達が誰一人そんな魔法使えない未熟だったから通じた作戦だった。
「これで、先生が追いかけてきても二分くらいだから逃げ切れるかもね」
「だといいね」
俺が草部先生と戦った家の向かいにある家で、俺達は待ち合わせた。
家の中はカーテンがされ、暗くなっている。
ここだけでは怪しまれるし、周囲の他の家も猿弥がカーテンを閉めてくれている。
これで外から中が見えることはない。
二分くらいならこれで逃げ切れるはずだ。
『二十秒経過。教師は動き始めてください』
草部先生はこのカーテンが掛かっている区域を怪しむだろう。
もしかすれば俺の作戦と思い他に行ってくれるかもしれない。
全部の家を見て回る時間はないはず。
そんな俺の甘い考えを打ち砕く音が聞こえた。
明らかな破壊音がこの周囲一帯に響く。
三人共叫ぼうとする口を塞ぐ。
何が起った誰がやったなんて、わかり切っている。
どうやって逃げるか、そこに思考を切り替えようとするが、それも虚しく終わる。
二度目の破壊音と共に俺達のいる家の二階部分が吹き飛んだ。
消えた天井の代わりに現れた草部先生の姿は、魔王そのものだった。
「見つけました。残り一分ですが、逃げ切る手段はありますか?」
「ありませんが、全力で行きます!」
猿弥は大型のガトリングを構えた。
猿弥の仕事はカーテンを閉めるだけではなく、こういう時のために殺傷能力の高い重火器の準備をしてもらっていた。
大きな重低音を響かせ、ガトリングからは無限の弾を打ち続ける。
もちろん弾の操作は千歳で、命中精度はかなり高い。
でもそれが効かないことも知っている。
俺のイメージを固めるための時間稼ぎ、二人ほど先生に勝てないと思っていない俺が、先生を吹き飛ばすイメージを固めるためのガトリングだ。
「猿弥、代われ!」
「最後の足掻きですか?」
「受けてくれますよね?」
先生が自信を持って頷く。
俺は自分のイメージを乗せ、ありったけの力で拳を突き出す。
パンッと乾いた音が響き、俺の拳は先生の手の平に包まれていた。
「しっかりと思いの乗ったいい攻撃でした。でも、やはり未熟です」
俺が捕まり、すぐに千歳も猿弥も捕まると、九班が全滅したアナウンスが流れる。
そしてそれと同時にタイムアップの鐘が鳴った。
『テスト終了。生存は六班のみとなります、おめでとうございます』
†
テストが終了し俺達は教室に戻った。
これから草部先生の総括があるらしく、俺は怒られるんじゃないかと怯えながら席に座っている。
「まず皆さんお疲れさまでした。そして最後まで残った六班の皆さん、おめでとうございます。書換、創造を上手に使い擬態しながらの潜伏は見事でした。今回は私が目視のみということもあり、この短時間で探すのは難しかったですが、魔法で探されるという想定はしていましたか?」
「そこまで考えていませんでした」
「その辺の偽装工作も上手くできれば、魔法の幅が生まれると思います」
普通は目視を誤魔化せれば何とかなりそうなのに、見た目を完璧に誤魔化せてようやくスタート地点って感じなのか……。
六班は正攻法でニ十分耐え切ったのに、俺達は随分無茶苦茶な手段だよな……。
それからは失格になった班に対しての総評が始まった。
大方の場合は、負けることを意識してしまっていることが問題らしい。
伸び悩む魔法使いの大半がその壁を超えられず、この学校のテストや実習は、その辺りの壁を超えるために、格上と戦わせることが多いらしい。
そこの壁を壊せつつあるのは大鉄達四班と、俺達の前に捕まった八班らしい。
「それでは最後に九班。今回はあなた達が最優秀チームです」
俺達は何を言われるかと思ったが、思いもよらないことを言われてしまった。
「俺達なんですか? 最後まで残ったのは六班ですよね?」
「生き残りの人数も確かに審査対象ですが、先ほどから行っている様に、格上に勝つことを目的にしています。六班も立派ではありますが、自分達を隠すことに重点に置いていて、私を捕らえるという鬼ごっこのルールに反していますからね」
当然の様に言われたその言葉に、クラス全員の動きが止まる。
草部先生を捕らえるための鬼ごっこ?
「先生、これって先生が鬼じゃないんですか?」
「これはお互いが鬼ですよ。私だけが鬼だとしたら、私がタッチされた場合に止まる必要はありますか?」
俺の質問に先生は普通にそう答えた。
そのルールは俺達へのハンデの意味もあると思っていた。
それに、俺達と同じように捕まった場合、先生は一人だから助けてくれる人がいない。
そのための二十秒間の停止だったわけか。
「そんなの、言われないとわかるわけないじゃないですか……」
「九班の悪い所はそこですね。思い切りも良いですし、思いもよらない行動に出る。それは攻め側になれば十分に脅威ですが、守りが致命的に弱いです。こう攻めればこう逃げる。そう考えることはできても、こう逃げればこう攻められとまでは考えられていないように思います。そこに関しては六班と真逆です。」
言われれば思い当たる節しかない。
相手の逃げる事は考えられたけど、相手の攻め方がまだわかっていなかった。
「そういう意味では六班も最高得点ですが、今回は私を楽しませてくれたので、最優秀チームは九班ということにさせてもらいました」
先生が改めてそう宣言すると、クラス中からぱちぱちと拍手が送られ、初めてのテストは終了した。




