スポーツテスト その四
「さて、先生もいなくなったな。みんなちょっと聞いてくれ」
草部先生がどこかに跳んで行ったのを確認して、捕まった全員に声をかける。
「みんなに少しお願いしたいことがあるんだ。ちょっとだけ俺に力を貸してくれないか?」
皆が俺を向いてから俺は問いかける。
全員が首を傾げる中、俺は更に話を続ける。
「このままだと俺達は全滅だ。A組の始まりがそんな情けないスタートでいいのか? 俺達全員で先生の鼻を明かしてやらないか?」
「何をするつもりかわからないが、捕まった私達が何をしても意味はないだろ?」
大牧のもっともな反論に周りも「そうだそうだ」と声を上げる。
「残念だけど、俺にはまだチャンスがあるんだな」
「チームメイトがタッチすればお前は復活できるってことか?」
「流石大鉄、その通りだ」
「仲間はお前を確実に助けることができるのか?」
「そうじゃないと作戦は成功しない」
「わかった。そこまで言うなら俺はお前の作戦に乗ろう」
大鉄が賛成すると大牧も賛成し、二人が賛成すると次々と賛成していく。
こういう時は集団心理ってのは便利だよな。
俺は自分の考えを伝える。
このテストで俺達に何が求められていることかを伝え、そのために俺達は何をしないといけないかを全て伝える。
「それって反則じゃないのか?」
「反則ってのはルールに抵触していることを言うんだぜ。ルールにそんな文言はないだろ?」
均の言葉に屁理屈を返す。
これを草部先生が認めないって言うなら、その時は素直に負けを認めるしかないけどな。
たぶん、草部先生は見逃してくれるはずだ。
レクリエーションを兼ねているはずのこのテスト、それに俺みたいな素人を仲が良いという理由だけで千歳と猿弥のチームに混ぜたこと。
それを考えれば学園がこんな無理難題をテストにするはずはない。
「それで、俺達の役割はわかった。作る物も創造が得意な面々がやってくれている。本当にお前を助けるために二人のどちらかが来るのか?」
「実はすでに来てたりして」
「こんにちは」
俺の胸ポケットの中から小さな千歳が顔を出した。
さっき草部先生と戦っている時も、俺にあの数の銃を操作することはできなかった。そのため、俺の書換の魔法で千歳を小さくして胸ポケットの中から銃を操作してもらった。
流石の草部先生も、俺が本気で戦ったこともありさっきのが作戦だとは思っていない。
本当は、さっきのでタッチ出来れば一番よかったんだけどな。
『三班全員捕獲により失格です』
草部先生が出発してから二分、失格になった三人を両手で抱え、汗一つかかないまま先生は戻って来た。
「談笑も結構ですが、負けた敗因も考えておきなさい。それも勉強の一つですから」
「ええ、ちゃんと考えてますよ。次は必ず先生に勝って見せます」
どこか退屈そうな先生は、俺の言葉に口角をわずかに上げる。
「そうなることを祈っています」
草部先生は再び地面を蹴り、残りのチームを捕まえに行った。
「一番の素人が、何偉そうなこと言ってんだよ」
「素人をそう侮るもんじゃないぞ、これからその素人の作戦で先生に反撃するんだからな」
三班のメンバー、尾道元気は大鉄の言葉を不思議そうに聞いた。
改めて作戦の概要を説明する。
「馬鹿にも程があるだろう」
元気は呆れたように言いながら顔は笑っていた。
元からパリピっぽいし、こういう馬鹿をやるのは嫌いじゃないのだろう。
三班の他のメンバーも先生に一泡吹かせられるならと、快諾した。
†
そして準備が終わり、後は草部先生が戻ってくるのを待つだけになった。
『八班全員捕獲により失格です』
そのアナウンスと共に、草部先生は戻ってくる。
さっきと同じように三人を抱え、コンビニで買い物を終えるように平然と現れる。
そして捕獲者のエリアを見て目を見開く。
「どういうことですか?」
先生の目に映っているのは、十九人の夜市唯久だ。
書換の魔法が使える全員で、捕まっている全員の体を俺に書き換えた。
そして驚愕で動きが鈍ったわずかな隙に、十九人の俺は一斉に攻撃を仕掛ける。
隙ができているからといっても、先生が弱くなるはずはないし、俺達が強くなるわけでもない。
先生は冷静に俺達の攻撃を捌いていく。
いくら圧倒的に強くても、触れらたら終わりなのは知っている。
だからこそ俺達の方が少しばかり有利で、徐々に先生が押され続ける。
そして更に数を増やすため、今しがた捕まった八班の姿も俺と同じに変える。
「ここまでしても、結局は捕獲されているんですよ。私にタッチしても意味はありません」
「そうじゃないと思ってるから、先生は逃げてますよね?」
「九班の姿も見えない、どこかで捕獲から解除していると思ってますよね?」
「だからこそ俺達の攻撃を触れられないように捌いているんですよね?」
同じ声色で別々に言葉を放つと、先生の焦りが見え始めてきた。
本物の夜市唯久に触れらないように、一撃一撃を丁寧にさばかなければいけない先生は、先ほどまでのように涼しい顔ができず額に汗が浮かべる。
時計では終了まで残り三分。
攻撃を続ける十九人の夜市唯久とは別に、タイミングを計り大人しくしている。
そして十九人の一人が先生に腕を掴まれた。
そのタイミングで、俺は先生の腕に飛び移る。
がっちりと先生に捕まり、元の大きさに戻る。
『生徒が教師に触れたことにより二十秒の活動停止です』
「夜市さん? どこから……」
「それは全部終わってからお伝えします。みんなありがとうな」
仕事を終えた俺と千歳は再び町に向かい、隠れている猿弥の元に向かう。




