第九話 傲慢な騎士たちの襲来と、立ち上がる村人たち
公爵家との契約書が届いた翌日、ハベルン村に嵐がやってきた。
ヴァーレン侯爵家の紋章が刻まれた豪奢な馬車が広場に止まり、抜剣した武装騎士が四人降りてくる。そして馬車から、長女のセリーヌ姉様が現れた。
「リーナ、迎えに来たわ。今すぐその泥遊びをやめて、王都に戻りなさい」
声は冷たく、完全に私を見下していた。
「エリザの婚約者が、あなたの薬の利権を欲しがっているの。実家に断りもなく大金を稼ぐなんて生意気よ。その技術と利益、すべて実家に差し出しなさい。大人しく従うなら、屋敷の裏庭に戻るくらいは許してあげるわ」
一か月前なら、震えて泣いていただろう。でも今の私は、足の下に確かな地面を感じていた。
「帰りません、お姉様。ここは私の場所です。私の技術を、あなたたちの強欲のために渡すつもりはありません」
「生意気なことを。騎士たち、捕らえなさい」
騎士たちが一歩踏み出した——その時だった。
「おい、そこの都会の兵隊さんよ。俺たちの命の恩人に気安く触れようとするんじゃねえ!」
ガルド爺さんが、薪割り斧を肩に担いで割って入った。その後ろには、鍬や鎌を持った村人が三十人以上、怒りの形相で集まっていた。
ラルフも進み出て、鋭い声を上げた。
「ヴァーレン侯爵家と言えど、他領の領民に不当に暴力を振るえば領主間の問題になる。それに——」
ラルフは懐から一枚の書状を取り出した。公爵家の蝋印が押された、正式な保護の証書だ。
「リーナ様はハルフレート公爵家と正式な契約を結んでおられる。もし危害を加えれば、あんた方はただじゃ済まない」
騎士たちが、公爵家の名を聞いた瞬間に剣を収めて後退した。
セリーヌ姉様の顔から血の気が引いていく。
「な……公爵家……? 嘘でしょう……?」
「本物の契約書です、お姉様」
私は真っすぐに姉の目を見た。
「私は、この村の絶望を救い、王都の権力者をも動かす錬金術師です。実家で私を縛る鎖は、もうどこにもありません」




