第七話 思い知った喪失。リーナを失った侯爵家の代償
王都、ヴァーレン侯爵邸の空気は最悪だった。
「どうしてこの汚れが落ちないの!」
母親は黒ずんだ台所の壁を見て金切り声を上げていた。高価な魔法洗剤を何本使っても、リーナが「ゴミから煮詰めた」液体のように落ちてくれない。
庭園に目を向ければ、財政を支えていた高級ハーブ「月光草」が根から腐り果てている。手入れの方法を知っているのは、あの子だけだった。
「リーナはどこへ行ったの! あの無能に手入れをさせなさい!」
「お母様、リーナは一か月前に家出を……」
長女のセリーヌが静かに告げると、母親は顔を真っ赤にした。
「あんな無能、どうせ野垂れ死んでいるわ! それよりエリザの婚約よ! 伯爵令息が『財政の傾いた侯爵家との婚姻は結べない。ただし、今都市で噂の奇跡の薬の権利を譲渡してくれるなら考える』と言ってきたのよ!」
そこへ、調査をさせていた使用人が駆け込んできた。
「ほ、報告します! その奇跡の薬を作っている錬金術師の正体が判明しました!……家出されたリーナお嬢様です!」
「な、何ですって……!?」
母親の目に、どす黒い強欲の光が宿った。
「そうか、あの小娘、我が家の知識を盗んで田舎で小銭を稼いでいたのね。セリーヌ、騎士を連れてハベルン村へ行きなさい。あの無能を縛り上げてでも連れ戻し、薬の権利をすべて我が家の名義に書き換えさせるの」
セリーヌは母親の命令に、一瞬だけ悲しげな目を向けたが、「……分かりました」と頭を下げた。




