第三話 実家で「地味」と笑われた知識が、村の枯れた麦畑を救う
頭痛薬の一件で、私は村の古い物置を工房として貸してもらえることになった。
ミアが「ずつうのくすり」と丸っこい字でラベルを書いてくれた。それを見てこっそり泣いた。
しかし休む間もなく、農家のヴァン爺さんが青い顔でやってきた。
「リーナさん、次はこっちを助けてくれ。麦畑が三年前からじわじわ枯れ始めて、今年は全滅の危機なんだ」
連れられて行った畑は、南側の一角が見るも無惨に黄色く枯れ果てていた。隣の畑との境目でぴたりと止まっているのが不自然だった。
私はしゃがんで土を一つまみ取り、指先に乗せてそっと待った。
(……酸い。それも、植物が根腐れを起こすほどの強酸性だ)
南側の森の手前に、黒ずんだ鉄鉱石の岩層がある。
「あの岩層から雨水が鉄分を含んで流れ込み、土壌を急激に酸性化させています。麦が育つわけがありません」
「な、なんだって……! じゃあもうこの畑はダメなのか!?」
「いいえ、やり方はあります」
実家の書斎で「そんな地味な農業研究に何の意味がある」と母に没収された知識が、今、私の頭の中で完璧な答えを組み立てていた。
石灰を撒いて、川べりで摘んだスギナを刻んで混ぜ込む。スギナに含まれるケイ素が土壌の緩衝作用を助ける。さらに端にクローバーの種を蒔いて、根の窒素固定菌に働いてもらう。
ミアが土を運ぶのを手伝ってくれた。途中で転んで泥だらけになっても「まだやる!」と言った。
一週間後、黄色く枯れ果てていた畑に、青々とした芽が一斉に吹き返した。
「戻った……葉の色が戻ったぞ!」
ヴァン爺さんが震える声で叫んで、私の泥だらけの手を両手で握りしめた。
「三年間、毎日毎日、枯れていく畑を見て夜も眠れなかったんだ……。ありがとう、リーナさん。あんたはこの村の救世主だ」
実家で笑われた知識が、この辺境の地で、人々の命と生活を救った。




