第二話 村一番の頭痛持ちと、ハーブ三本の奇跡
五日後の夕暮れ時、馬車はハベルン村に到着した。
村の入口で降りると、泥まみれのズボンを穿いた子どもたちが珍しそうに私を見ていた。
「……あの、村長さんはどこにいますか。ここで錬金術師をやりに来ました」
一番小さな女の子が、目を丸くして私の服を引っ張った。
「錬金術師さん!? うちの村、お医者さんも薬屋さんもいなくて、みんな困ってたの! こっちだよ、ついてきて!」
夕陽の中を駆け出す小さな背中を追いながら、私は胸が熱くなるのを感じた。
誰かに「ついてきて」と言われたのは、生まれて初めてのことだった。
村長のガルド爺さんは、熊のように大きな人だった。日焼けした顔に白いひげ、農具を握り続けてきた大きな手。実家では見たことのない種類の手だった。
「錬金術師、だと? こんな若いお嬢さんがか?」
「はい。都市の派手な魔法使いのようにはいきません。武器も宝石も作れない。でも、病気を治す薬と生活に役立つものなら、今すぐ作れます」
ガルド爺さんはじっと私の目を見つめ、それからニカッと笑った。
「十分だ。お前さんの目は嘘をついとらん。実はこの村は今、大きな悩みを抱えている。俺を含めた村人の多くが、原因不明の激しい頭痛に三年間も苦しんでいるんだ。都市の薬は高すぎて買えん」
「頭痛……。わかりました。三日ください」
翌朝から、私は村の周りの森や丘を駆け回った。
実家では「雑草をいじるな」と捨てられていたハーブたちが、ここでは宝の山だった。
森の入口のフィーバーフュー、丘の上のラベンダー、川沿いのペパーミント。
素材たちが、私に直接語りかけてくる。
このラベンダーは生のまま使ったほうが香りが跳ね上がる。フィーバーフューは茎を捨てて葉だけにすれば雑味が消える。ペパーミントは根に近い部分に油分が一番詰まっている。
誰に教わったわけでもない。ただ、わかる。
実家では誰にも認められなかった、私だけの感覚だ。
三日後、私は濃縮した丸薬をガルド爺さんに手渡した。
「頭痛が始まったら一粒。一時間以内に楽になります」
半信半疑でガルド爺さんがそれを口に放り込む。
五分後、爺さんはガタガタと椅子を鳴らして立ち上がった。
「……消えた。三年間、頭を万力で締め付けられていたような痛みが、嘘みたいに消え去ったぞ……!」
大の大人が、ぽろぽろと涙を流していた。
「ありがとう、リーナ。お前は命の恩人だ」
喉の奥が熱くなった。
お姉様と比べられることもなく、私の名前を呼んで、私の作ったもので、泣いて感謝してくれた。
生まれて初めての、「ありがとう」だった。




