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「お姉様と比べなさい」と言われ続けた私、辺境の村で錬金術師になったら初めて「ありがとう」と言われました  作者: P作


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第一話 夜逃げの馬車と、泥まみれの入門書


 ヴァーレン侯爵家の三女というのは、つまり「三番目」である。

 一番目には、魔法の天才と呼ばれる姉・セリーヌがいた。

 二番目には、社交界の花と称えられる姉・エリザがいた。

 そして三番目の私、リーナには——地味で泥臭いと嘲笑される錬金術師の適性と、それをゴミのように扱う家族がいた。

「リーナ、またそんな泥臭いものを。セリーヌお姉様を見なさい。同じ年のころには第三位魔法まで習得していたのよ。あなたはどうしてそんなに無能で、我が家に泥を塗るようなことばかりするの」

 母の声は、いつも比較と侮蔑から始まった。

 今日も、私の錬金鍋のふちには枯れかけたハーブが三束。台所から失敬してきた、捨てる寸前のものだ。これを煮詰めると、台所の頑固な油汚れが新品のように落ちる液体になる。使用人のマルタさんが「本当に助かります、リーナお嬢様」と涙ぐんでくれるから、私は密かに研究を続けていた。

「これ、すごく役に立っているんですけど」

 勇気を出してそう言った私を、母は冷たい目で一蹴した。

「役立つの? 使用人の真似事が? 侯爵家の娘がそんな薄汚い真似をして、恥ずかしくないのですか。才能も美貌もないなら、せめて大人しく従いなさい」

 私はただ「はい、お母様」と答えて、拳を握りしめながら鍋を隠した。


 十七歳の秋、ヴァーレン侯爵家に縁談が来た。

 相手は東方の辺境、ハベルン村を治める小領主の息子。「辺境の落ちぶれた田舎者」「無能なリーナにお似合いだ」と使用人たちまでが陰でひそひそ笑うのを聞きながら、私は一人、書斎に忍び込んで地図を広げた。

 ハベルン村。王都から馬車で五日。森と畑に囲まれた、人口三百人ほどの小さな村。

 そして——「錬金術師が一人もいない」。

(……ここなら、私の知識が、私だけの力が、誰かの役に立つかもしれない)

 胸に灯った小さな炎を消さないよう、私は地図を見つめた。

 しかし、その縁談すら、私には許されなかった。

「リーナに釣り合う相手じゃないけど、田舎とはいえ領主の息子よ? エリザ、あなたが顔見せだけして、都合よく使ってあげなさい。リーナみたいな無能をあんな辺境にやったら、我が家の恥をまき散らすだけだわ」

 母が姉のエリザと笑い合っているのを、廊下で立ち聞きした。

(私はこの家にいたら一生、自分の名前で呼んでもらえない。誰かの引き立て役の「三番目」のまま、すり潰されて終わるんだ)

 その夜、私は荷物をまとめた。錬金道具一式と、ハーブの種をいくつか、マルタさんが隠して持たせてくれた洗浄液の小瓶、そして使い込んで表紙がぼろぼろになった錬金術の入門書。

 家族への手紙は書かなかった。どうせ読まれずに捨てられるだけだ。

 夜明け前の街道を走る辻馬車に、私は転がり込んだ。

「ハベルン村まで、お願いします」

「五日かかるよ」と御者の老人は振り返りもせず言った。

「構いません」

 馬車が動き出す。屋敷の明かりが遠くなっていく。

 不思議と涙は出なかった。胸の中にあったのは、初めて自分の足で地面を踏みしめたような、奇妙なほど静かで熱い決意だった。

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