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虐げられた令嬢は、天才魔術師の最愛となる~魔術師様、私たちは仮初めの関係ではなかったのですか!?  作者: 魚谷


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7 問題解決

(サマンサがいるなんて)


 彼女は周囲には分からないように、睨みつけてくる。

 アマンダは視線を意識しながら気づかないふりを決め込んだ。


(絶対に成功させなきゃ)


「アマンダ」


 国王に呼びかけられ、はっと我に返る。


「は、はい」

「ディートハルトとはどこで知り合ったんだ?」

「会うというより、一目惚れです。馬車で移動していた時に偶然、見初め、彼女の素性を調べたんです」

「お前が一目惚れ、だと? これまでどんな女性にも目をくれなかったお前が……?」


 国王は唖然とする。


「運命というのはいつどこに転がっているか分からぬものです」


(ディートハルト様、口から出まかせをスラスラと仰るなんて……)


 ディートハルトが息をつくように嘘を並べ立てるのを、アマンダは驚きながら見つめた。


「公爵の口から一目惚れという言葉が聞けるとは……」


 カイニスも信じられないという顔をする。


「アマンダは一目惚れと言われて、承諾したのか……?」

「い、いいえ、ただそれだけではありません。実際にお話しして……私たちの共通点がありましたので」

「共通点?」

「魔法陣です。ディートハルト様は魔法陣の研究を独自に行い、私も父の遺志を継ぐために日々、魔法陣の研究を重ねておりました。私たちは婚約者であると同時に、魔法陣の素晴らしさを世間に広めたいという同じ目的を持った同志、なんです」


 国王は「ほう」と感心したように声を漏らした。


「婚約者として頼もしいか?」

「とても素敵な方です」

「はっはっは。素敵。そうか。ディートハルトは女性嫌いと思っていたが、分からぬものよ。なにか問題があれば臆せずはっきり言え。ディートハルトは朴念仁ゆえ、はっきり言わぬと分からぬところがあるからな」

「……朴念仁だなんてそんな。ディートハルト様のお陰で、とても幸せなんです」


 今の何不自由のない充実した日々をくれたのは、他ならぬ彼なのだから。


「何が一番幸せだ?」

「共に魔法のことについて話すことです」

「ディートハルトと魔法について話すのか……?」

「はい。まだ学生の身分で知識はありませんから、ディートハルト様の博識さについていくのは大変ではあります。しかしそれでも楽しく、とてもかけがえのない時間を送らせていただいております。ディートハルト様の婚約者になれて、本当に幸せです」


 それは嘘いつわりのない本音。


「信じられん。ディートハルトと魔法について話す者など見たことがないぞ。学会の重鎮たち相手にもディートハルトはつまらないという顔を平気でするからな」


 話している内に、馬車が目的地に到着した。

 馬車を護衛する騎士たちは呪いを怖れているせいか表情を強張らせる。


「さて、と……問題を解決できるという話だったが」

「はい」

「お待ち下さい、父上。その前にサマンサに見てもらいましょう」


 カイニスが言った。


「サマンサ、どうする?」

「できるとも。な、サマンサ」


 カイニスにそう言われれば、サマンサは拒否できないだろう。


「……え、あ、はい」


 サマンサからすれば余計なことを言わないでという気分のはず。

 彼女に解決なんてできるはずがない。これまでずっとアマンダを搾取して、偽りの優等生の座に君臨しつづけてきたのだから。


「私は構いません。サマンサが優秀なのは知っておりますから」


 アマンダは一歩引いて、促す。

 サマンサはカイニスに背中を押され、恐る恐るという風に庭園に足を踏み入れる。

 傍から見ても顔色は青白く、表情が引き攣っていた。


「何か感じるかい」


 カイニスが、サマンサに優しく問いかける。


「……何となく、ですが」


 池をゆっくり一周し、庭園の出入り口に戻ってくる。


「何か分かったか?」


 国王の問いかけに、サマンサの目が泳ぐ。

 カイニスが答えを急かすように、「さあ、サマンサ。父上がお尋ねだ」と告げる。


「……だ、誰かが魔法をかけたのかも、しれません」

「魔法? 父上や母上を呪ったと言うことか?」

「殿下、そうはっきり断言できる段階ではありません……なにせ、ただ見て回っただけですから……あぁ……」


 不意にサマンサがその場に崩れ落ちそうになり、カイニスに支えられた。


「平気か!?」

「すみません。意識を集中しすぎて……。殿下、申しわけございません。今日は調子が悪いようで……」

「であれば仕方がないな。無理をさせてすまない」


 素人の三文芝居だ。ため息がでそうになる。


「ディートハルト、アマンダ。ではお前たちの番だ」


 アマンダとディートハルトはマナを誘導するような経路に複数の魔法陣を描く。

 古代語を間違えるわけにはいかない。スペルを入念にチェックをする。


「それが魔法陣か……。遺跡にあるものとはだいぶ印象が違うな」

「あれは風雨にさらされておりますから。これが魔法陣の本来の形です」

「では、魔法陣を起動させます」


 アマンダはしゃがみこみ、魔法陣に手を置き、起動させていく。

 か細い糸のようだった流れのマナが魔法陣に従い、流れを変えた。


「アマンダ、マナの流れは?」

「やりました。澱みが消えています!」


 マナの流れが切り替わる。みるみる澱みが消えていく。

 庭園に足を踏み入れてからずっとつきまとっていた不快感が薄らぐのが、分かった。

 それは国王たちも同様だ。


「さっきまで重苦しかった空気が軽くなった……? ディートハルト、説明をしてくれ」

「説明はアマンダから」

「この庭園は呪われてなどいません。原因は、公園内のオブジェがマナの流れを遮っていたからなんです」

「マナの流れ……?」


 国王たちは理解できないという顔をする。


「私にはマナの流れが見えるんです」

「何と。精霊瞳の持ち主なのか!」

「はい。生き物が近寄ってこなかったのも、放った生き物が短命だったのも、植物が早く枯れてしまうのも、マナが澱んだことによる影響だったんです。マナの澱みは毒のようなものなので。その流れをこの魔法陣で切り替えたのです」

「信じられない話だ。これまでそんな話は聞いたこともなかった……」


 チチチ。


 その時、頭上で鳥の声が聞こえれば、一羽の小鳥が像の上に留まった。

 国王をはじめ、その場に居合わせた者たちが信じられないという顔で目を瞠る。

 時間が経てば経つほど変化は如実に起こった。

 他の鳥の姿や虫の姿も見られる。

 呪われていたはずの庭園に、命が戻り始めたのだ。


「……何をしても駄目だったというのに。魔法陣はこれほどか……。エドガーが熱心に研究した意味が分かった」


 国王が右手を差し出すと、人懐こい鳥が指先に留まる。


「アマンダ。花も枯れたりすることもないのか?」

「はい、陛下。ご安心下さい」

「すぐに花を植え直し、魚も放とう」


 騎士が国王に耳打ちをする。


「……どうやら次の予定が迫ってきたようだ。ではまた会おう、二人とも。アマンダ、今日はよくやってくれた。礼を言うぞ」

「ディートハルト。あなたの婚約者はとても素晴らしいわね。あなたたちの結婚する時が楽しみだわ」


 国王と王妃からお褒めの言葉をいただき、アマンダは頬を上気させるほど、胸の中に喜びが広がった。

 アマンダたちは馬車で去る国王たちを見送った。

 と、アマンダがディートハルトの横顔を盗み見ると、彼は鋭い眼差しをサマンサへ向けていた。


「どうなさったんですか? せっかく、何もかもうまくいったのに……何かご懸念が……?」

「サマンサは、国王陛下たちにすっかり信用されているようだな。あわよくば、お前のことを伝えたいと思っていたが……あの調子では無理そうだ」

「必要ありません」


 アマンダが首を横に振る。


「なぜだ。悔しいとは思わないのか? お前のことを虐げてきた人間が、未来の王妃になろうとしているんだぞ?」

「……それは。良い気持ちはしません」

「ならば」

「確かに当時は辛いし、今もあの時のことを思いだすこともあります。でも今はもう叔父たちのことはどうでも良いと心の底から思えるんです」

「私なら八つ裂きにしても、足りないが」

「ディートハルト様のおかげです」


 アマンダが彼に笑いかけ、同志の証である指輪を見せる。

 ディートハルトは驚いたように目を見開いた。


「あなたがいてくれて、同じ目標に進めている──それがたまらなく有意義で、心が満たされるんです。それ以外の無駄なことなんて気にならなくなってしまうくらいに。……これっておかしいでしょうか……?」

「いや……。お前がそう言うのなら、きっと正しいのだろう」


 アマンダは、自分たちの手によって呪いから解き放たれた庭園を振り返る。

 春の午後の光に照らされ、美しくきらめいていた。


                        ♦


 呪われているとまことしやかに語られていた庭園の問題を、アマンダとディートハルトが魔法陣の力を使って解決したというニュースは、貴族社会を瞬く間に席巻した。

 学校ではその話題で持ちきりになった。


「嘘だろ……。あの問題児が……?」

「でもここのところ、あの子、すごくない? 成績もかなり上がってるし」


 校内を歩けば、そんな会話が聞くともなしに聞こえた。

 ディートハルトが味方でいてくれることがどれだけ嬉しく、心強かったか。

 アマンダは左手の薬指で輝く同志の証を見つめ、そっと口元を緩める。

 そんなこんなで、いつものように登校する。


「あ、お、おはよう、アマンダさん」


 教室に入ると、クラスメートが恐る恐るという風に挨拶をしてくる。


「おはよう」


 他のクラスメートたちも挨拶をしてくれる。

 落第生で落ちこぼれのアマンダの陰口を言う生徒はもういない。

 今はもう授業中にわざわざ教師たちをやりこめたりはしていないけれど、それでもアマンダの優秀さはクラスはもちろん、学校全体の知るところだ。


 一方、サマンサはと言えば、アマンダがいなくなったことで、学業の面でかなりの苦戦を強いられていた。

 気分が優れないと言ったり、王宮での用事を言いわけにして、今が本調子でないことを強調して急場をしのいでいるが、一体いつまでそれが持つのだろう。

 教師から意見を求められても、とんちんかんな回答をしたりすることも多い。


(自業自得よね。これまで自分で何もしてこなかったツケだもの)


 いい気味だとさえ思わない。

 もう彼女はアマンダの世界には存在しないも同然なのだから。


(それより魔法陣のことよ。魔法陣の素晴らしさをみんなに知ってもらわなきゃ……とはいえ、どうしたらそんなことができるのかな)


 確かに今は話題にはなっているが、だからと言って世間の人たちが魔法陣に興味を持ってくれたかと言えば、そうではない。今はあくまで話のネタにしているだけ。

そのうち、別の話題に取って代わられ、魔法陣のことは誰も話題にしなくなるに違いない。


(もっともっと注目をしてもらわないと)


 放課後、アマンダが職員室前を通りがかった時だ。

 学校行事に関する掲示物の中に混じり、朝にはなかった掲示物があることに気付く。


(伝令コンテスト……?)


 騎士団主催らしい。

 現在、使われている魔力を混ぜた餌で知能を高めた伝書鳩に代わる伝令方法を募集しているらしい。


(これだわ!)


 このコンテストで優勝し、騎士団での採用が決定できればきっと、魔法陣を評価する動きが盛り上がるだろう。

 コンテストの開催は来月の半ば。

 あと一ヶ月ほどある。期日としてはぎりぎりかもしれないが、やらない手はない。


(そうと決まれば、アイデアを練らないと!)

作品の続きに興味・関心を持って頂けましたら、ブクマ、★をクリックして頂けますと非常に嬉しいです。

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