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虐げられた令嬢は、天才魔術師の最愛となる~魔術師様、私たちは仮初めの関係ではなかったのですか!?  作者: 魚谷


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19 新たな魔法陣2

 半月が経ち、通信用魔法陣を騎士団本部へ設置する日を迎えた。

 あれから微調整を繰り返し、より良いものに仕上げていた。

 アマンダは馬車で騎士団本部へ。と、騎士団本部前の車寄せには豪奢な四頭立ての馬車が停まっている。


「ディートハルト様、あれ……」

「ああ。四頭立て……陛下だな」

「国王陛下がいらっしゃるなんて聞いていません、よね?」


 ディートハルトは頷く。


「しかしこの国で四頭立てが唯一許されているのは国王陛下だけだ」


 アマンダたちが馬車を降りると、玄関で待ち構えていた騎士が駆け寄ってくる。


「アマンダ様、ディートハルト様、お待ちしておりました。会場へご案内いたします」

「あの、陛下がいらっしゃっているんですか……?」

「そうです。その……我々も突然のことに驚いておりまして……。こちらです」


 騎士に案内されて向かった先では、国王が大勢の供回りを連れ、しつらえられた椅子に深く座っていた。

 アマンダたちは国王の前へ進み出て、挨拶をする。


「おお、ふたりとも、待っていたぞ」

「陛下。なぜこちらに……?」

「騎士団で新型の魔法陣が見られると小耳に挟んでな。ぜひ、この目で見たいと思って駆けつけたのだ。報告だけではとても我慢できないからな。なに、余のことは気にせず、いつも通りにやってくれれば良い」


 国王はにこやかに告げた。


(いつも通りと言われても……)


 不意打ちなこの状況で平然としていろと言うのは、かなり難しい。


「アマンダ、私たちはやるべきことをやれば良い」


 ディートハルトが言う。


「そ、そうですね!」


 騎士団本部の中庭が一番マナの流れが強いということは事前の調査で分かっていたから、アマンダはディートハルトと共に、直径十メートルほどの魔法陣を描く。

 ちなみに十五ヶ所の騎士団支部へはすでにディートハルトの召喚獣で移動し、魔法陣は設置済み。

 アマンダたちが魔法陣を描く様子を、騎士団長をはじめとした幹部の面々だけでなく、一般の騎士たちまで詰めかけ、興味津々に眺めていた。


「なんと魔法陣はそれほどに美しい形をしているのか」


 騎士団の幹部のひとりがぽつりと呟く。


「古代の人々は美しい調和の上に神が宿ると考えていたんです」


 アマンダが開設すると幹部が「なるほど」と頷く。


「魔法陣のことはただ古臭いだけの遺物。詠唱呪文こそ最も優れた魔法の完成形──幼い頃から当たり前のようにそう習ってきましたが……」

「それは詠唱魔法によって権威を得てきた者たちの独善的な考えに過ぎない。彼らからすれば、詠唱魔法に取って代わるものがあっては困るのだろう」

ディートハルトが言うと、幹部たちは「なるほど」と呟く。

と、国王が魔法陣のとある部分に目を留めた。

「十五個の不思議な模様は何だ? それも古代語か?」

「いいえ。ここにある十五個の紋様が、十五ヶ所の騎士団支部に設置してあるそれぞれの魔法陣に対応しているんです。──では、これより魔法陣を起動させますっ」


 アマンダはディートハルトと一緒に魔法陣に魔力を注ぎ、起動させた。

 魔法陣が赤紫色にきらめく。


「おお、なんと美しい輝きだ……!」

「これで魔法陣の準備は完了いたしました。すでにそれぞれの支部には事前にテスト通信を行う旨は告げてありますので、こちらから呼びかけてみます。──こちら、騎士団部。私はアマンダ・シェーンです。十五ヶ所の騎士団支部の皆さん、聞こえましたら、南側にある都市から北に向かって順々に応答してください」


『こちら、アルテリア支部。アマンダ様の声、明快に聞こえます!』


 おお、とその場にいた全員がざわつく。

 声がはっきりと聞こえたのだ。


『コンルード支部。完璧です!』

『セア支部。問題ございません!』

『こちら──』


 無事に全ての支部からの応答が聞こえ、アマンダは無事にうまくいってくれたことにほっと胸を撫でおろした。


「──ではこれにて試験を終了いたします。皆様、お疲れ様でした」


 アマンダはそう魔法陣ごしに全国十五ヶ所の支部の騎士たちに告げ、国王たちに向かって一礼した。


「以上でございます」


 拍手が響き渡る。

 喜色満面の国王は椅子から立ち上がると、近づいてくる。


「アマンダ、ディートハルト。見事だった。改めて魔法陣がこの国のさまざまなことに影響を与えることが分かった。詠唱魔法ではこうはいかぬな」

「そのように言っていただき光栄でございます」

「エドガーが存命であったなら、さぞ誇りに思ったであろう」

「陛下にそう仰っていただき光栄でございます……」


 国王からの言葉に、アマンダは屈託ない笑顔で頷いた。


                          ♦


 サマンサは侯爵家の部屋で意識を集中し、術式を頭の中で展開する。


「聞け、我が声を。光よ、我が前に現れよ!」


 詠唱すると同時に、かかげた両手から魔力が迸る。

 しかしそこから迸る輝きは薄く、みるみる魔力は萎んでいってしまう。


(どうして!)


 思うようにならない魔力に、サマンサは顔を歪め、


「光よ、我が前に現れよ!」


 もう一度詠唱するが、結果は同じで光は最初の勢いを維持することなく、萎んでいってしまう。


「どうしてだ! なぜ、うまくいかん!」


 オーランドの怒声が部屋に響き渡れば、サマンサは震えあがった。

 こんなに激高する父を見るのは初めてだ。

その表情はいつだって出来損ないで役立たずのアマンダに向けられていたはずなのに、はっきりサマンサに向けられていた。

 そして傍らに寄り添う母のクインもまた、その顔にはありありと失望の色を浮かべている。その眼差しは出来損ないでも見るかのよう。


「も、もう一度やりますわ」

「もういい。何度同じことを繰り返す!?」


 オーランドは、傍らに控えるクベット子爵を睨みつけた。


「子爵。お前がついていながら、これはどういうことだ!?」

「侯爵様。術式をもっと簡素なものにすれば……」

「駄目だ! 王太子妃就任の儀で列席者に披露するための魔法だぞ!? アマンダの魔法陣の話はお前も知っているだろう。あいつは小癪にも、騎士団本部と支部の通信を実行する魔法陣を作り、臨席した陛下から絶賛されたという話だぞ!?」

「それは、そうですが……」


 オーランドの言葉が、サマンサのプライドを傷つける。

 すでにその話は学院で知らない者はいないほど噂になっていた。

アマンダの話題を耳にしない日はない。

 国王に認められたアマンダ、次々と新しい魔法陣を生み出しては注目を集めていく。

未来の王太子であるはずのサマンサの影はどんどん薄くなるばかり。


 本来、注目を集め、誰からも敬われるべきなのは自分であるはずなのに。

「侯爵様。現状の術式でもご令嬢ではコントロールできないのです。これ以上、複雑な術式を無理に使おうとすれば、どんな不測の事態が起こるか分かりません……」

「だったら、うまくいくような方策を考えろ! 頭を絞れ! 何のための脳みそだ!? 良いのか? このまま詠唱魔法が廃れるようなことになっても!? 陛下の魔法陣への傾倒ぶりを見ろ。宮廷魔術師に古代遺跡の調査を命じ、魔法

陣研究まで始まっているのだぞ!? サマンサが見事な詠唱魔法を使いこなせれば状況は変わる!」


 クベットは強く迫られ、「方法がないわけでは」と言う。


「もったいぶらずに教えろ。どうすれば良い!?」

「純度の高い魔石を用いて、お嬢様の中の魔力を強制的に活性化させるのです。そうすれば今よりは複雑な術式を扱えるのではないかと……」

「良き方法があるではないか! なぜそれをもっと早く言わない! すぐに用意させる!」

「しかしこの方法も万能ではございません……。無理やり魔力を高めるものなので、お嬢様の体に大きな負担が……」

「それがどうした?」

サマンサは父の冷淡な言葉に、はっとして顔を上げた。

「儀式の間だけ持てば良い。そうだろう、サマンサ」

「そうよ。儀式さえ乗りこえられればそれで良いのよ。多少の無理くらい、どうにかできるでしょう。サマンサ?」


 両親が揃って、サマンサを見つめる。

 その目には『自分たちに従え』と無言の圧力が窺えた。

そしてそれに抗う術をサマンサは持たなかった。


「も、もちろんですわ!」


 サマンサは内心に芽生えた恐れと不安を振り払うように大きく頷いた。

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