18 新しい魔法陣
数日後、通信魔法陣の設置の話し合いの為に、アマンダとディートハルトは騎士団本部へ招待された。
会議室には騎士団長をはじめとした幹部たちが勢揃いしていた。
「皆様、初めまして。アマンダ・シェーンと申します」
幹部たちは全員が立ち上がり、出迎えてくれる。
「では早速、お話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか」
アマンダが言うと、幹部の一人が立ち上がった。
「はい。各地の騎士団支部と騎士団本部を魔法陣で結んでいただきたいと思っております」
「支部はどれくらいあるのですか?」
「十五ヶ所です。アマンダ様のご負担も考えて、実際に魔法陣を描くのはこちらでやらせていただきます。アマンダ様にはマナの流れを読んでいただき、最適な設置箇所を見定めていただければと……」
アマンダは、配られた紙に目を落とす。
「この計画ですが、修正が必要かと思います」
「どのような……?」
「全ての支部と連絡を取るということは騎士団本部に、十五個の通信用魔法陣を設置する、ということになります。しかし魔法陣を設置できるに相応しいマナ溜まりは簡単に見つかるとも限りません」
「ではどうしたら……?」
「実は考えがあります。十五ヶ所の通信用魔法陣からの連絡を受ける魔法陣を一つに集約できないかと考えています」
「それをするとなるとかなり大きな魔法陣が必要になるな」
ディートハルトの言葉に、アマンダは同意する。
「かなり大きな魔法陣を描く必要があると思います。しかし十五個の通信用魔法陣より、一つの魔法陣で十五ヶ所の支部と連絡が取れたほうが、各地の状況を把握しやすいかと思います」
「だがそんな魔法陣は描いたことがないだろう」
「はい。でもそうしたほうが良いと思うんです」
「もちろんそういうことができれば、我々としてもありがたいのですが……。アマンダ嬢に全てお任せいたします」
「ありがとうございます」
騎士団本部を辞去したアマンダは、前を歩くディートハルトの背中をちらりと見やる。
「あの、ディートハルト様……?」
「何だ?」
彼は背中を向けたまま言う。声には不機嫌さが滲んでいる。
「……ディートハルト様にご迷惑がかからないようにいたしますので」
不意にディートハルトが立ち止まったかと思うと、振り返った。
「迷惑? まさか一人でやるつもりか?」
「え? あ、はい……」
「そんなことを許すと思っているのか? また倒れたらどうするつもりだ? 当然、手伝うに決まっているだろう」
「無理はしないで下さい。ディートハルト様が騎士団の方々に腹を立てていらっしゃるのは分かっています。騎士団に協力することを選んだのは私ですから、ご迷惑をおかけするわけには……」
「腹なんて立てていない」
不機嫌さを隠さないディートハルトは言った。とてもそうは見えない。
「……お前が心配なだけだ。魔法陣に賭ける情熱は分かっているが、集中しすぎると平気で無茶をするからな。食事も睡眠も休憩もしっかり取れ。そうでなければ作業は許さない」
「わ、分かりました」
「私が休めと言ったら四の五の言わず休め。分かったか?」
「はい。ディートハルト様の指示に従います」
「それなら、帰宅次第、魔法陣について役立ちそうな資料収集に当たろう」
「はいっ!」
♦
アマンダたちは屋敷に戻ると、ディートハルトと共に資料に当たった。
「理屈の上ではどれだけ大きくとも、マナさえあれば魔法陣は動くはずです。ただ、いたずらに大きくするよりも、もっと効率的にマナを使えるほうが……」
アマンダは試しに公爵家の庭で一つの円につき、三つの記号を加えたものを書き記す。それぞれの記号は、騎士団支部に設置するであろう十五個の魔法陣に対応させたものだ。
「これだったら五つの円で済むかもしれません」
「早速、試そう」
公爵家の使用人に手伝ってもらい、それぞれの使用人に魔法陣から声をかけてもらう。
「ではお願いします!」
アマンダが言うと、メイドたちが魔法陣から声をかけてくれる。
『聞こ……え……か? ちゅ……係……ミラー……す』
声は確かに聞こえるが、まるで何かが干渉でもするかのように、雑音にまみれてうまく聞こえない。
それは一人ではなく、他のメイドたちも同様だった。
「……うまくいくと思ったんですが……欲張りすぎてしまったんでしょうか……。これなら十五個の魔法陣を作ったほうが……うーん……」
「ひとまず休憩しよう。戻ってきてから一度も休んでないだろう」
ディートハルトがそう優しく告げてくれる。
「……そうですね」
ディートハルトはメイドにお茶の準備をさせるように言った。
すぐにお茶と、クッキーが用意された。クッキーはさくっとした優しい歯ごたえで、優しい甘みが広がっていく。
「甘さが染みますね」
紅茶とも合っていて、もう一枚もう一枚とつい手が伸びた。
と、視線を感じて顔を上げると、ディートハルトと目が合った。
彼は微笑ましそうに口元を緩めている。
「どうされましたか……?」
「すまない。美味しそうに食べるなと思ってな」
「あ、申しわけございません。私ばっかり食べてしまって……」
「気にしないでくれ。美味しそうに食べているのを見るほうが良い」
「え、あ、はい……」
「ところで魔法陣のことだが、一度に十五個の魔法陣に対応させようとするのではなく、まずは二つから試してみないか?」
「二つから……?」
「最初から完成形を目指すのではなく、まずは二つの魔法陣と同時に通信をはじめるところから進め、うまくいったら、三つ、四つと増やしていったほうが、躓いた時の原因が分かりやすいはずだ。どうだ?」
ディートハルトの言葉に、アマンダは無意識のうちに完成を急がなければと焦っていたことに思い至る。
(そうだわ。焦る必要なんてない。初めて魔法陣を完成させた時のことを思い出して。あれを一つ完成させるのにどれだけの時間をかけた? お父様のメモを解読して、魔法陣に関する知識を少ない資料から解読、類推して……)
ディートハルトの言う通り。初心に帰るべきだ。
焦燥が消えると、心が軽くなった。
「確かにその通りですね。早く結果を出そうと焦りすぎていたのかもしれません」
「焦る必要はない。お前はすごいことをしているんだ。現代に魔法陣をよみがえらせ、そしてそのお陰で、多くの人命を救いもした」
「そ、そう言われると照れてしまいますが。それにこれは私だけの成果ではありません。ディートハルト様がいてくれたから……。休憩もそろそろ終わりにして、始めましょう」
アマンダはディートハルトの意見を参考にしてまずは記号を二つにして試してみると、今度は何の問題もなく通信することができた。
「成功しました!」
「よし、次は……」
と、アマンダはマナの流れに気付く。
(あれ?)
アマンダは魔法陣の一部を壊し、機能を停止させた。
「何をしている?」
「少し気になることがありまして……」
アマンダは壊した部分をもう一度描き直すと、もう一度、魔力を注いで魔法陣を起動させれば、魔法陣の上を流れるマナはまた二つに分かれ、それぞれのマークに吸い寄せられるような動きを見せた。
アマンダは自分が見たマナの動きをディートハルトに報告した。
「……マナがそれぞれの記号に反応しているのか……。さっき失敗した魔法陣の下書きを見せてくれるか?」
「これです」
アマンダはポケットに入れていた下書きを見せた。
「もしかしたら、さっきの失敗は複数のマナが干渉しあっていたがために、うまく噛み合わなかったのかもしれない。例えればそう、毛糸がこんがらがってしまっているように」
「では干渉しあわないようにすれば……?」
「ああ。記号の位置を少しずつずらし、マナが干渉しあわないようにすれば……」
アマンダは早速、ディートハルトの提案を受けて、下書きにペンを走らせた。
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