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虐げられた令嬢は、天才魔術師の最愛となる~魔術師様、私たちは仮初めの関係ではなかったのですか!?  作者: 魚谷


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14/16

14 講義

 アマンダはその日一日、ずっと気を張り詰めながら学校での時間を過ごしていた。

 実は今日、宮廷魔術師たちに魔法陣の講義をする日だったのだ。

 授業が終わり放課後になると、にわかに教室が騒がしくなる。

 教室の戸口に、宮廷魔術師のローブをまとったチアタが教師と一緒に立っていた。


「あれがアマンダですが……本当でしょうか? サマンサさんではなくて?」


 教師はやや戸惑いながら、チアタに説明する。


「アマンダ様で間違いありません。案内、ありがとうございます」


 チアタがこちらへやってくる。


「チアタ様、どうして?」

「もちろん、アマンダ様をお迎えに来たんですよ」


 チアタの言葉に、教室がざわつく。

 宮廷魔術師と言えば誰もが憧れる存在。

それが学校にやってきただけでも驚きなのに、アマンダを迎えに来たと言うのだから驚かないはずがないのだ。


「さあ、行きましょう」

「は、はい」


 アマンダは教師に一礼し、チアタと一緒に教室を出ていった。

道行く生徒たちからの視線がすごい。

しかしチアタはそんな周囲からの視線には無頓着。


「今日はお受けいただいてありがとうございます。宮廷魔術師一同、今日という日を待っていました」

「……うまく説明できるか分かりませんが全力を尽くしますっ」

「力まず、自然体で良いんです。アマンダ様の中にある魔法陣の知識を話してくだされば良いのですから」


 校門には宮廷魔術師の紋章の入った二頭立ての馬車が停まっていた。

 チアタと一緒に乗り込むと、一路、王宮へ。

 道中、世間話をあれやこれやとしてくれたお陰で、王宮に到着する頃には緊張がほぐれていた。

 馬車は衛兵からの検問を受けて敷地を抜けると、宮廷魔術師が働く魔術塔へ。

魔術塔は美しい円柱とシンメトリーが印象的な神殿のような白亜の建物だ。

建物の前にはもう一台の馬車があり、そばにはディートハルトの姿があった。

 公爵として忙しいことは理解しつつも、説明不足なところがあったり、補足説明があった時には手伝って欲しいとお願いして、今回、同席してもらうことになっていたのだ。


「ディートハルト様。今日は無理を言って申しわけございません」

「婚約者の初舞台を見られるんだから、構わない」


 にこりと微笑まれ、アマンダは顔から湯気が出そうなくらい頬を染めた。


「が、頑張ります」

「お二人とも、こちらへ」


 チアタに案内されて大講堂へ向かう。

 座席には数十人の宮廷魔術師たちが勢揃いしていた。

王国の魔法分野の最先端を担う老若男女の眼差しが一斉にアマンダへ向かうと、心臓がドキドキしてしまう。


「あの子が、魔法陣の?」

「学院の学生だが……本当に彼女が?」

「講義をするのは、公爵様ではないのか?」


 ざわざわと魔術師たちの囁きが聞こえる。

 アマンダは魔術師たちに深々と一礼した。


「はじめまして。皆さん。私はアマンダ・シェルと申します。父は、魔法陣の研究をしておりましたエドガー・シェルです。私は父の遺志を継ぎ、古代に使われていた魔法陣を現代に蘇らせるべく、ディートハルト様と試行錯誤を続けてきました」


 アマンダはその場の宮廷魔術師たちに、これまで試作してきた魔法陣について説明する。

 風を起こす魔法陣、マナを一定の方向に誘導する魔法陣、ほぼタイムラグなく遠方と通信するための魔法陣、そして先日の浄化の魔法陣──。

 魔術師たちは真剣な顔で聞き、メモを取っていた。


「魔法陣は同心円と古代語による詩によって構成されます」


 アマンダはその場で簡単な魔法陣を作図して見せる。


「古代語は、出したい効果を意味する古代語の単語を記します。今のところ、私たちが実地で試したことがあるのは三重円までの魔法陣になります。この魔法陣の円を追加していくことで、理論上は魔法陣の効果を増やしていくことが可能だと考えております。もちろん魔法陣が大きくなればなるほど、起動に必要な魔力量は増えていくことにはなりますが。そして魔法陣にとって一番大切なことはマナの流れのある場所に設置しなければ、その魔法陣がどれほど正確に描かれていたとしても起動できない、ということです」


 ちらりと、ディートハルトを見る。彼はうまくいっている、と言うように小さく頷いてくれる。


「魔法陣が最も優れているという点は、魔力さえあれば誰でも使うことができるということです。詠唱魔法は持って生まれた魔力量とセンスにどうしても左右されてしまいます。詠唱魔法は一部の選ばれた人たちの特権と言っても差し支えありませんが、魔法陣は違います。私は魔法陣の技術が広まることで、今以上に、この国、いえ、世界が豊かになっていけるのではないかと考えています。では、試しに皆さんが大きな関心を抱いているであろう、浄化の魔法陣をここで使ってみたいと思います。今この部屋のマナはこのように流れているので、ここに魔法陣を描きます」


 アマンダはチョークを使い、小さな魔法陣を描く。


「チアタさん、お願いします」


 ディートハルトと一緒に立っていたチアタはとある容器を全員に見えるように掲げた。


「ここには、研究目的で採取された魔物によって汚染された土が入っています。汚染度はA級。通常であれば、二、三人程度の宮廷魔術師による浄化魔法が必要になるものです」


 チアタはビンを開封すると、魔法陣の中へ落とす。


「では始めます。起動に難しいことはありません。ただ魔力を注ぐだけで良いんです」


 アマンダは魔法陣に手を置き、魔力を注ぐ。魔法陣がぽうっと鮮やかな緑の輝きを放った直後、土の汚染がたちまち浄化された。


「おお!」


 魔術師たちの目の色が変わり、身を乗り出す人まで現れた。


「皆さんの目にははっきり、土が浄化されたことが見えたと思います。このように魔法陣の描き方、設置方法を知っていれば、効率的に土地の浄化を行うことができるのです。ご静聴、ありがとうございました。質問があれば……」


 その場にいた魔術師全員が手を挙げた。


「マナの流れが必要と言いますが、あなたは一体どうやって流れを読んでいるのですか?」

「私には精霊瞳がありますので、それでマナの流れを読んでいます。今はまだこの特殊な力頼みということになってしまいますが、魔術塔ではさまざまな魔導具の開発を行っているとお聞きしております。技術的にも解決が可能ではないかと思っています」

「あなたは当たり前のように古代語を習得しているようですが、一体どこでそれを? 古代語は失われて久しいはずですが」

「子どもの頃から父の研究を手伝っておりまして、そこで。今でも古代語はさまざまな遺跡から採取することは可能です。まだ体系化はされていないので、独学ということになってしまいますが。それでもこうしてお手本の魔法陣さえあれば、真似をして描いていただければ効果は同じなので、誰もが古代語を習得しなければならないということには必ずしもなりません」

「浄化の魔法陣以外に、実際に今も使われている魔法陣というものはありますか?」

「通信用の魔法陣を、とある商会に頼まれて設置いたしました。その通信はほぼラグがない交信が可能です」


 魔術師たちは隣り合った人たちと魔法陣に対して熱心に話し始める。


「他にご質問は」

「古代語を是非、教えていただきたいっ」

「浄化の魔法陣についてですが!」


 指名されるのを待てないと言わんばかりに我先にと、魔術師たちが口々に発言する。


「みなさん、落ち着いてください。一人ずつお願いします。私が分かる限りの範囲内で質問にはちゃんとお答えいたしますので……!」


 アマンダはそれとなくディートハルトにSOSを送るが、彼は宮廷魔術師たちが魔法陣に興味津々であることに満足しているのか、腕を組んだまま「アマンダ、がんばれ」という顔をしている。

 その時、部屋に騎士が入ってきた。


「大事な会議の最中に失礼いたします。どうかご協力をお願いいたします」

「何があった?」


 ディートハルトが尋ねる。


「先ほどタレットにある騎士団支部より緊急の伝書鳩が届き、鉱山で崩落事故が発生したとのことです」


 タレット。その地名に、アマンダははっとして、ディートハルトを見た。


「他に情報はありませんか!」

「まだ続報を知らせる伝書鳩が届かないので、詳しい状況は分かりません」


 魔術師たちに詰め寄られ、騎士は慌てたように告げる。


「詳しい状況なら分かると思います。コンウォール商会へ行きましょう」


 アマンダは言うと、ディートハルトと騎士、数名の魔術師を伴い、馬車でコンウォール商会へ向かった。

 突然、現れたアマンダたちに商会の面々はぽかんとした顔をした。


「ジョシュア様はいらっしゃいますか?」


 奥から商会のオーナーのジョシュアが現れた。


「これはアマンダ様。どうされたのですか?」

「突然押しかけてしまって申しわけございません。ジョシュア様、鉱山の崩落事故のことはご存じですか?」

「え、ええ……。支社より通信がありましたので」

「魔法陣で現地の情報を知りたくてきたんです。魔法陣を使わせていただいて構いませんか?」

「もちろんですとも」


 アマンダは魔法陣の場所まで行くと、「どなたか聞こえますか。こちら王都のコンウォール商会本店です。鉱山の崩落事故の詳しい状況を教えて下さい」と呼びかければ、すぐに『ひとまず鉱山から怪我人を収容することには成功しましたが、重軽傷を合わせて、百名をくだりません』と声が聞こえた。

 魔法陣から突然、人の声がしたことに、魔術師や騎士たちが驚きに目を瞠った。

 アマンダは周囲の反応に構わず、呼びかける。


「医者の数は間に合っていますか?」

『いいえ。ポーションを始め医療物資が足りません。今、ほうぼう手を尽くして物資をかき集めておりますが……』

「オーナー。ここを事故の緊急対策本部として借りあげたいのですが……」


 騎士が告げると、ジョシュアは「もちろんです」と頷く。

 それから事態はめまぐるしく動く。

 飛行可能な召喚獣を保有している魔術師たちが医療物資をはじめ、医師や現場の騎士を現場へ送り込んだ。


「ディートハルト様もご協力をお願いいたします」

「分かった。アマンダ、お前は屋敷へ戻っていろ」

「……分かりました」


 何かできることがあればと思ったが、召喚獣を持っていないアマンダでは力になれない。大人しく屋敷へ戻ることになった。

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