第9話 まさるが来ない
都心に建つ高級マンション。はるみの家。
広い玄関に、二足の靴が並んでいる。
はるみのきれいな革靴と、あいの揃えられたパンプス。
開く気配がない、静かな玄関ドア。
LDKのダイニングテーブルには、彩り豊かなデパ地下の惣菜が並ぶ。
向かい合って座る、はるみとあい。
はるみが壁掛け時計を見る。
「……初めてだな。まさるが予定通り来ないなんて。」
「うん。連絡もないし、返事もないし、どうしたんだろう……。」
心配そうにスマートフォンの画面を見つめるあい。
はるみもスマートフォンを手に取る。
グループトーク画面には、あいが先ほど送った心配のメッセージが二件。
どちらにも、まさるの『既読』がついている。
はるみが入力し始めた最中、まさるからメッセージが届く。
【メッセージ画面】
<まさる:ごめん。行けない>
はるみの目が釣り上がる。
はるみはすぐに、まさるに発信する。
まさるは出ない。
はるみは発信を切ってメッセージを入力し、すぐに送信する。
【メッセージ画面】
<はるみ:電話に出て>
はるみのメッセージはすぐに『既読』になり、まさるのメッセージが再び届く。
【メッセージ画面】
<まさる:ごめん>
「まさるッ……。」
あいが、小さく悲鳴のようにまさるを呼ぶ。
静まり返る室内に不穏な空気が満ちていく。
はるみの沈黙が重い。
あいは、震えを抑えようとスマートフォンを握りしめる。
メッセージ画面は動かない。
はるみは、微動だにせず黙り込む。
目つきだけが冴えていく。
「……はるみ。」
空気に耐えかねたあいが、縋るように声をかけるが、はるみの耳には届かない。
はるみは画面を見続ける。
あいは小さく震えながらスマートフォンを握り続ける。
緊張で荒くなる呼吸を抑えて、目を潤ませる。
はるみは沈黙を重く冴えらせて、硬直している。
この物語は、「不可侵領域」(はるみ視点)と対になる作品です。
『不可侵領域』はこちら
https://ncode.syosetu.com/n4829me/




