第10話 拒絶
古びた都営団地。まさるの家。
仕事帰りのスーツ姿のまま、玄関の前に立つはるみ。
呼び鈴を鳴らす。
「はーい……。」
玄関ドアを開けたまさるの父親が、はるみを見て笑顔になる。
「やあ、久しぶりだね。忙しかったの?」
はるみは小さく頷く。
「まさる、いますか?」
「ああ、自分の部屋にいるよ。どうぞ入って。」
はるみは、招き入れるまさるの父親に続いて家に入る。
まさるの私室のドアは、開け放たれている。
入り口で腕を組み、ドア枠にもたれて立つはるみ。
室内では、古びた学習机の椅子に腰掛けたまさるが、頑なにうなだれている。
「久しぶり。」
はるみの声が通る。
「──うん。」
「元気してた?」
まさるの相槌に、すかさず言葉を重ねるはるみ。
まさるは沈黙する。
「なんで電話に出ないの?」
沈黙。
「なんで返事を返してくれないの?」
沈黙。
「……何か言えよ、まさる。」
「──ごめん。」
「今日は?この後、何か食いに行こうよ。飯まだだろ?」
はるみのいつもの抑揚を装う誘いに、まさるは沈黙を返す。
「まさる!何か言えよ。」
「飯なら……。あいと行けば……。」
「何でだよ!あいとは、会うとか……。連絡もしてないのに。……ほら、お前がいないから。」
「……うん。」
「一緒に飯を食いに行こうよ。まさるの好きなの食べに行こう?」
はるみは、室内に足を踏み入れる。
わざとズカズカと歩み寄り、まさるの腕を掴む。
まさるは抵抗するように俯いたまま、首を振る。
目を釣り上げるはるみ。
「行こうよ。」
「行かない。」
「なんで!」
「……行きたくないんだ。」
はるみが口元をわなつかせ、まさるの腕を強く引っ張り上げる。
よろめいて立ち上がるまさる。
室外へ引っ張り出そうとするはるみに、足を踏ん張って抵抗するまさる。
はるみの力強さに引きずられながら、まさるは、自分を掴むはるみの手を握る。
「はるみ。」
「何だよ。」
沈黙。
はるみは、まさるの腕を掴んだまま、まさるをぎりっと睨みつける。
まさるははるみの睨みを受けて、目を逸らして俯く。
──沈黙。
はるみは、バッと振り落とすようにまさるの腕を話す。
「まさる。また来るから。絶対来るから!」
子供のような口調で告げたはるみが、逃げるように部屋を出ていく。
この物語は、「不可侵領域」(はるみ視点)と対になる作品です。
『不可侵領域』はこちら
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