第7話 閉じられたドア
夕方の街並みに、少し賑わうコンビニ店。
仕事帰りに、くたびれたスーツ姿のまさるが買い物をしている。
ふいに、近くで女性の笑い声が弾け、思わずまさるは顔を向ける。
「ねーぇ。早く帰ろうよ。」
まさるたちよりも若く、付き合いの長そうなカップル。
特別目立つ風でもないカップルだが、女性の幸せそうに輝く顔と甘えたような目線に、まさるは目を奪われる。
(──!)
まさるは、不意にカップルの女性を『あい』に、男性を『はるみ』に重ねてしまう。
まさるの目が、カップルに釘付けになる。
ポカンとした顔で見続けてしまう。
視線を受けて、カップルが居心地悪そうにその場を離れていく。
まさるは目を逸らし、気まずさと混乱を胸にレジに向かう。
まさるが、コンビニの自動ドアを抜けて歩き出す。
帰宅途中の道の先に、赤ん坊を抱いた女性と、幼児を抱いた男性が、仲睦まじそうに歩いている。
まさるは自然と歩調を合わせ、若い夫婦の少し後ろを続いていく。
「やっと引越しできる。もう、この子の足音がうるさいとか、気を遣わなくていいのね。」
女性はふふっと笑い、幸せそうに夫を見上げる。
(──。)
まさるはその夫婦に、再び『あい』と『はるみ』の姿を重ねてしまう。
まさるは顔を真っ赤に歪めて立ち止まり、俯いて立ち尽くす。
──まさるの脳裏に、あいの『実家の』玄関ドアが浮かぶ。
まさるは、両手の親指で人差し指の爪を押し、ぎりっと震えるほど拳にして握りしめる。
人々は道端で仁王立ちするまさるを、気に留めることなく追い越していく。
まさるは視線の先にある、自分のくたびれた革靴に気付き、ざわつく胸を抑えてゆっくり歩き出す。
怯えた表情を浮かべて、まさるは足取り重く帰っていく。




