第6話 距離
──現在。
はるみの家の客間は、朝の日の光がカーテン越しに溢れている。
ホテルのような、モノトーンで揃えた室内。
セミダブルベッドの上に、あいが背中を丸めて寝ている。
あいは、布団の中で静かに目を開けている。
怯えた目で、張り付いたように動かず、じっとしている。
はるみの私室にも、薄いカーテン越しに朝の光が溢れている。
目を覚ましたはるみは、まさるの布団を覗き、空になっていることを知る。
はるみがLDKに入ると、まさるがコーヒーを淹れていた。
「おはよう。」
はるみは、キッチンの棚からカップを取り出してまさるに差し出す。
「おはよう。俺も飲みたい。」
まさるは自分のコーヒーを半分、はるみのカップに移す。
はるみとまさるはキッチンで立ったまま、コーヒーを飲む。
三十分後。
明るいキッチンに、トーストの香ばしい匂いが広がる。
朝食をテーブルに並べ終えたまさるとはるみが、それぞれ椅子に座った時、ドアが開き、あいがパジャマ姿のまま現れる。
あいは顔色悪く、気が抜けたような笑顔を浮かべている。
「……おはよ。寝坊しちゃった。急いで支度するね。朝ごはん、先に食べてて。」
あいは、まさるとはるみの返事を待たずに、ドアを閉めて立ち去る。
まさるは凍りついたように閉まったドアを見つめ続ける。
はるみは一度だけ視線を向け、言うかどうか迷ったあとで声をかける。
「まさる。とりあえず食べよう。」
朝食を食べ終えたまさるは、片付けも後回しにあいがいる客室に向かう。
ドアを控えめにノックして、一歩下がった場所に立つ。
少し間を置いて聞こえる、あいの小さな返事。
ゆっくりと、──ドアノブを握りしめたまま、細くドアを開けたあいが、既に身支度を済ませた姿を覗かせる。
まさるは、あいと目が合った瞬間、あいの目に泣いていた跡を見て口元を歪める。
あいはまさるの表情に慌てて瞬きで潤んだ目をごまかし、懸念を払うようにまさるに首を振って見せる。
「まさる。大丈夫だから。」
ぎゅうっと、親指で人差し指の爪を押すまさる。
あいが向ける笑顔を受けて、ますます顔を険しくする。
あいはまさるから顔を背けて一度室内に戻り、カバンを手に出てくる。
まさるの前を通り過ぎて小走りに廊下を駆け出し、リビングに顔を覗かせてはるみに告げるあい。
「はるみ。今日はもう出るね。ごめんね!いってきまーす。」
再びまさるの前を足早に通り抜け、あいは玄関に向かう。
「待ってて!家まで送るから!」
靴を履き始めたあいに、まさるは慌てて声をかけて、はるみの私室に忙しなく向かう。
はるみの私室に飛び込み、まさるは手早く着替えて支度を済ませ、カバンを掴む。
はるみが一度だけ、まさるを見る。
言いかけた言葉を飲み込むようにしてから、朝食を片付け始める。
その手が少しだけ遅れてから、ひらひらと振られる。
「いってらっしゃい。」
「片付けごめん!いってきます。」
まさるが玄関に駆けつけると、あいは靴を履いた状態でおとなしく待っていた。
まさるはほっと胸を撫で下ろし、あいと共にマンションを出発する。




