第5話 あいの実家
──あいの大学生時代。
あいの母親の部屋。重く閉じられたカーテンの隙間から、陽の光がか細く部屋に差し込んでる。
締め切った部屋にこもる匂いが、日常的に空気の流れが絶たれていることを物語っている。
あいの母親が、顔を半分隠すほど掛け布団を引き上げて、ベッドに横になっている。
大学生のあいは母親のベッドの横に立ち、父親と対峙している。
「お前がいないと、母さんがダメになるんだ。──親を裏切るのか?」
あいの父親が、じろりと威圧的にあいを睨む。
あいは緊張で体を硬直させながら、チラリと母親を見る。
母親は布団の中で静かに気配を殺し、何も反応しない──。
夜。開け放たれたキッチンの窓から、閑静な住宅街のささやかな生活音が流れ込む。
慣れた手つきで料理をしているあいの後ろに、あいの父親が近すぎる位置で立つ。
「お前は、本当に母さんに似てきたな。」
あいは、背筋を凍り付かせて俯く。
父親が一歩踏み出そうとした時、あいは調理しかけの作業をそのままにキッチンを飛び出し、二階の私室に駆け上がっていく。
洋間の私室に飛び込んだあいは慌ててドアを閉め、内側から鍵を閉める。
──鍵はドアに不釣り合いな後付けのもの。
あいは胸の前で両手をぎゅっと握り合わせる。
不安そうに何度も手を握り直すあいの顔が、恐怖で歪んでいる。
深夜。あいはいつものようにベッド横のスタンドライトを点けたまま眠っている。
ベッドで、背中を丸めて寝ているあい。
「──ッ。」
小さく悲鳴をあげて、あいが目を覚ます。
あいの顔は、寝ながら流した涙で濡れている。
あいは慌てて跳ね起き、涙を手の甲でぬぐいながらドアに駆け寄る。
荒く乱れた呼吸を抑えて、苦しそうに肩を上下させるあい。
目で注意深く見て、手で触って、内側からかけた鍵がかかっていることを確かめていく。
(大丈夫。全部かかってる。)
あいは、さっとドアの前でしゃがみ込み、自分の押し殺した悲鳴を塞ぐように、震える両手を口に当てて泣き出す。




