第4話 お泊まり会 <はるみの家>
──現代。
都心に建つ高級マンション。はるみの家。
照明で明るい玄関に、三足の靴が並んでいる。
はるみのきれいなスニーカーと、まさるのくたびれたスニーカーと、あいの揃えられたパンプス。
玄関から続く、白い大理石の明るい廊下。
床と同じ色のハイドアが、リビングのドアまでいくつも並んでいる。
洒落た内装の、開放的なLDK。
スタイリッシュなキッチンの前に、六人掛けのダイニングテーブルが設置されている。
はるみが、隣の椅子を引いてまさるを呼ぶ。
「まさる!俺の隣に座って。」
あいの小さな笑い声。
はるみがまさるの腕を引っ張り、まさるは素直に隣に腰を下ろす。
テーブルには、卓上コンロの上で煮えた鍋料理。
まさるは鍋料理をよそった小皿を、はるみに差し出す。
「まさる……。肉をいっぱい入れてくれてる。ありがとう!」
まさるに、パアっと大きな笑顔を向けるはるみ。
「あー!美味い!今日は疲れたよ……!」
はるみは勢いよく食べ、情けない顔をする。
あいがはるみの様子に、おかしそうに笑う。
「お疲れ様……ふふ。はるみが頑張り屋なのは、大学生の頃から変わらないね。」
「あいは、いつも一緒にいてくれるようになったよね。まさると、あいに声かけるまで何週間もかかったけど。」
まさるが、鍋料理を小皿によそい、あいに差し出す。
「ありがとう、まさる。あ!……ふふ。お豆腐いっぱい入れてくれたのね。」
「聞いてくれよー。せっかく父さんと違う会社にいるのに、今日も取引先が、父さんの系列のところでさ……。はぁー!」
はるみが、鍛えた大きな肩を小さく丸める。
まさるは、親指で人差し指の爪を押す。
「今日会った人なんて、全員知ってるんだよ。俺が父さんの、社長の息子だ……って。あーあ。」
はるみの話を受けて、あいは眉をひそめる。
「なんで父親って、こんなに私たちが大人になっても……。」
まさるとはるみが、あいの言葉に反応して、あいを見つめる。
「連絡が、きたの?」
まさるの問いに、あいは慌てて首を振る。
「ううん、きてない!……本当は私がしなきゃいけないんだろうけど、とても……出来ない。」
「お母さんが心配なら、俺が電話しようか。」
軽く俯いていたあいが、躊躇うようにまさるを見上げる。
「ううん、いいの。何かあれば、きっと連絡がきているし……。」
「俺が代わりに、様子みてこようか?俺、年配の女性から受けがいいし。」
はるみの言葉に、笑い出すあい。
まさるは、親指で人差し指の爪を押す。
「ありがとう、はるみ。お母さんはもしかして喜ぶかもしれないけど、お父さんが……。それがきっかけで、私に連絡してくるかもって考えると……。」
まさるの目が、あいの表情を探るように動く。
「まだ、怖い。別に何もないんだけどね!──お父さんが苦手なの。それだけ。」
そっと猫背になるあいを、まさるが見続ける。
「何かあれば、俺たちすぐ動くから。何でも言って、あい。」
まさるの向ける視線と、はるみの言葉に、あいが笑顔を返す。
「ありがとう。私、まさるとはるみに出会えて、本当に良かった。二人とも、出会った時からずぅっと優しい!」
パジャマ姿のあいが、スリッパを履いて廊下を歩いている。
玄関近くのハイドアの前で振り返ると、まさるとはるみがリビングからあいを覗いている。
「おやすみなさい。」
あいは明るく手を振って、客間に入って行った。
まさるは、ドアが閉まった後も、客間のドアから目を離せない。
そんなまさるの肘を、はるみがポンと叩く。
「まさる。今日はもう、寝よう。」
はるみの私室。
布団が一組、はるみのベッドの横に敷いてある。
まさるは黙って布団に入り、はるみが電気を消す。
「まさる、おやすみ。」
「おやすみ。」
暗い天井を、まさるは静かに見上げている。
まさるの横顔を見つめていたはるみは、やがて静かにまぶたを閉じる。
深夜。
まさるは、親指で人差し指の爪を押しながら、長いこと天井を見上げ続けた。




