第30話 俺が選んだことだから
深夜。あいの私室。
背中を丸めて横を向き、あいはかけ布団にくるまって寝ている。
まさるは、洗面所でドアを閉め、静かに立つ。
大きく、深呼吸を繰り返す。
まさるはスマートフォンを取り出す。
ヒビ割れた画面を見つめ、意を決してはるみに電話をかける。
コール音が、二回鳴る。
すぐにはるみが通話に出る。
「まさる!」
はるみが、息を弾ませてまさるを呼ぶ。
「──うん。」
「まさる、どうしたの?」
はるみの、驚きと期待が入り混じった声が大きい。
「はるみ。電話したのは……。」
「うん!」
はるみは、話が待ちきれないように相槌を打つ。
「はるみに、謝りたくて……。」
「うん、うん!」
「はるみ、ごめん。また……前みたいに、俺たち……。」
顔をしかめても、まさるの目から涙が出る。
まさるは両足に力を入れて踏ん張る。
「いいよ!」
しゃがみ込むまさる。
「いいよ、まさる! 俺たち、また一緒にいよう!」
「……。」
「まさる。……俺のこと、嫌いになってたの?」
「違うよ!」
受話器の向こうから、はるみの笑い声が聞こえる。
「そっかー!」
「……。」
「いいよ、いいんだよ、まさる。俺、今実家にいてさ。」
「え?」
「父さんの会社で働いてて。マンションも解約済みで。だからしばらくは、まさるとあいの家で会おうな。」
まさるはもどかしそうに立ち上がる。
「はるみ。帰ってこいよ。俺たちのところに。今すぐ。」
「でも……。」
「少しの間は、俺の家で一緒に。狭いけど、それで、それから、はるみ……。」
まさるは言葉を続ける。
「俺と、どこか部屋借りて、二人で一緒に暮らそうよ。」
「今から帰る。」
「う? ……うん。」
「今から、絶対そっちに行くからね、俺。」
「うん。あいの家で待ってる。」
「俺は絶対戻るよ!」
まさるの耳元で、通話が切れる。
この物語は、「不可侵領域」(はるみ視点)と対になる作品です。
『不可侵領域』はこちら
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