第27話 腕の中に
まさるが息を切らせて、静かな住宅街をひたむきに走っている。
「はぁ……! はっ……!」
まさるは、握っていたスマートフォンを耳にあて直し、再び全力で住宅街を駆け抜ける。
「はあ! はあ! ……っぁあ!」
あいの実家の前に辿り着き、足を止めて苦しそうに息をするまさる。
「まさる。」
通話が繋がったままのスマートフォンから、あいが控えめにまさるを呼ぶ。
「今、そっちに行くね。」
疲れ切った顔のまま、まさるはあいの実家を見る。
汗で滲む視界を、乱暴に腕で拭う。
あいの『実家の』玄関ドアが開く。
投げ出すように大きく玄関ドアを開いて、あいが現れる。
あいはそのまま、まさるに向かって、危ないほど躊躇なく飛び込んでいく。
「──あっ!」
まさるはスマートフォンを投げ出して、無我夢中であいを抱き止める。
疾走後の息の荒さが、もう一度キツくなる。
あいはまさるの胸に顔を埋めて、切なそうに眉を寄せてすがる。
「まさる……。」
まさるの耳で、心臓が激しく打ち鳴っている。
視界が脈打ちで揺れ続けている。
まさるはあいの頭を抱えて、口元に押し当てる。
あいの匂いが、まさるの鼻をくすぐる。
「あい。」
ぐらぐらと回る頭の中で、ほっと安堵の息を吐く。
まさるの視界が暗くなる。
ぼやける視界を、まさるは必死で見開く。
「まさる。ごめんなさい、まさる……。」
甘えるように、泣き出すように、あいが繰り返しまさるを呼ぶ。
まさるの手が無意識に、あいの背中を抱いて、引き寄せる。
まさるは初めてあいに触れ、胸が破れそうになる。
「──やぁ。」
非難がましい低い声が、まさるの耳に届く。
まさるの背中に、ぞわりと立つ鳥肌。
「ああ、びっくりした。……まさる君かい。」
下卑た声が、まさるの名を呼んでいる。
まさるは苛立ちに、肩を強張らせる。
全身に緊張が広がって行く。
この物語は、「不可侵領域」(はるみ視点)と対になる作品です。
『不可侵領域』はこちら
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