第22話 あいが閉じたドア
──3人の大学生時代。
賑やかな大学構内。
まさるとはるみが、あいと楽しそうに話している。
歩きかけてまさるにぶつかりかけたあいが、さっと不自然に体を逸らす。
「あ。ごめんなさい……。」
あいは目を伏せて小さく笑顔を作る。
「男の人に触るの、苦手なの……。」
何でもなさそうに、二人の先を歩き出すあい。
夜。あいの実家前の歩道。
まさるに送られてきたあいが、立ち止まる。
「……じゃあ。ここで。」
小さく笑顔を作って、まさると分かれ、あいが実家に帰っていく。
あいが玄関ドアを開ける。
すぐに奥から姿を現す、あいの父親。
あいの肩が、ビクッとすくむ。
「ただいま。……お父さん。」
あいの父親は無言であいに手を伸ばす。
父親の手から逃れるように、あいが肩を逸らそうとする。
「お父さん、……ぃや。」
呟くような小さな声で、あいが父親に懇願する。
あいの様子に、まさるの心臓が跳ねる。
慌てて駆け寄り、閉まりかけた玄関ドアを押さえてあいの背後に立つ。
「こんばんは!」
あいへ伸ばした手を止めて、まさるを睨むあいの父親。
「……俺が、送ってきました。」
まさるもあいの父親から目を逸らさず、二人は無言の睨み合いとなる。
あいは戸惑い、二人をとりなすようにまさるに振り返る。
「まさる! 送ってくれてありがとう。今日はもう帰って……?」
まさるがあいを見る。
「まさる……。ありがとう。」
あいは困ったように目を伏せている。
「……ね? ──お願い。」
あいに促され、まさるは迷いながら、ゆっくり体を引く。
納得がいかないまさるの目の前で、あいの『実家の』玄関ドアが重く閉まる。
まさるは、玄関ドアを睨みつける。
足を踏ん張る。拳を握る。
何も、出てこない。
『……ね? ──お願い。』
困ったように告げたあいが、思い出される。
まさるは、両手の親指で人差し指の爪を、白くなるほど押す。
強く押し続けながら、何度も息を整える。
再び拳を握る。
『ううう……! ああ!』
まさるの脳裏に、少年の時に聞いた、父親の泣き声が思い出される。
『どうしよう。僕ひとりでは、……。』
自分の、子供の頃の想いも蘇ってくる。
まさるはだらりと両手を開いて、あいの『実家の』玄関ドアを見つめる。
(──俺はずっと、ただ立っていただけだ。)
足を重そうに引きずって、まさるは帰っていく。
──現在。
川越街道までの道。
「はっ……。はっ……。はっ……。はっ……。」
まさるは走り続けている。
(あい……。)
この物語は、「不可侵領域」(はるみ視点)と対になる作品です。
『不可侵領域』はこちら
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