第2話 お泊まり会 <あいの家>
──現在。まさるは二十五歳になった。
古い昭和風の、戸建ての貸家。あいの家。
玄関に、三足の靴が並んでいる。
はるみのきれいな革靴と、まさるのくたびれたスニーカー、あいの揃えられたパンプス。
玄関から続く、磨き込まれた古い廊下。
奥の居間からは、はるみとあいの楽しげな笑い声が聞こえる。
ぬくもりのある電球色が、居間を照らしている。畳の上を、あいの素足がゆっくり滑らかに歩いていく。
はるみがちゃぶ台前に腰を下ろし、隣を叩いてまさるを呼ぶ。
「まさる!俺の隣に座って。」
あいの小さな笑い声。
ちゃぶ台には、沢山の家庭料理が並んでいる。まさる、はるみ、そしてあいが、仲良くちゃぶ台を囲んで食事を始める。
あいは、安心しきった無邪気な笑顔で、まさるに小鉢を勧める。
「まさる、これ好きでしょ。」
はるみが、親愛に満ちた笑顔で小鉢を指差す。
「まさる、絶対好きな味だよ。俺さっき食べた!うまいよ、これ。」
まさるは、親指で人差し指の爪を押す。
まさるが小鉢を受け取って頷く。
「ありがとう。」
本心を隠すように、少し猫背になったまさるの背中。ぎこちない小さな笑顔で、まさるは小鉢のおかずを箸をつける。
はるみとあいの、明るく楽しげなお喋りが続く。
まさるは対照的に、寡黙に食事を続けながら、二人の話に耳を傾ける。
はるみとあいは、まさるを中心に話題を続け、「まさる、まさる」と何度も呼びかける。
控えめに、嬉しそうに笑顔で応えるまさる。
まさるの笑顔を、はるみとあいの視線が捉え、二人の目が輝く。
白い湯気があがる浴室。お湯の音が軽やかに鳴る。
湯に浸かったあいの、細い肩と髪をあげた頭を、湯気が柔らかくぼやかしている。
あたたかい色調の壁紙が印象的なキッチンでは、まさるとはるみが夕食の後片付けをしている。
はるみから受け取った食器を、まさるが洗っていく。
明るいお喋りが賑やかしいはるみ。
真面目に相槌を返すまさる。
二人は仲良く片付けを進めていく。
小さなタイル作りの、レトロな洗面台の前では、あいが歯磨きをしている。
居間と続き間になっている和室で、はるみが物を端に寄せる。
まさるが、はるみが空けた場所に、押し入れから出した布団を敷いていく。
あいが、洗面所でドライヤーを使い、髪を乾かしている。
片付け終え、寝床を整えたまさるとはるみが、ちゃぶ台前に座って一息ついている。
はるみはまさるの隣に座り、楽しそうに話を膨らませる。
パジャマ姿のあいが居間に入ってきて、くつろぐ二人に笑顔を向ける。
「お風呂、お先にいただきました。おやすみなさーい。」
まさるとはるみが、それぞれあいに挨拶を返し、のんびりと立ち上がる。
まさるとはるみが、連れ立って浴室に入ってくる。
はるみの楽しげなお喋りが、浴室内にも響く。短く返事を返しながら、まさるは黙々と体を洗う。
あいが、そっと階段の一段目に足を置く。
大切に、一歩ずつ、静かに階段を登っていくあい。
白い湯気があがる浴室。
仲良く狭そうに、湯に浸かるまさるとはるみ。
はるみは機嫌良く歌を歌い、浴室には陽気な明るさが満ちている。
あいが階段を登りきった先には、一室だけの和室。
引き戸を開けると、女性らしいインテリアのあいの部屋。
仲良く並んで、洗面所で歯を磨くまさるとはるみ。
私室のベッドに入るあい。
背中を丸めて横を向き、かけ布団でくるりと自分を包む。
居間と続き間の和室の電気を消すはるみ。
まさるとはるみが、布団に入る。
深夜。
二階の和室には、シンと静けさが満ちている。
小さく口を開き、まぶたを重そうに閉じているあいの寝顔。
一階の和室には、男たち二人の若々しい寝息が響いている。
まっすぐ仰向けになったまさるは、キツく口を結び、深い寝息を立てている。
はるみは、ふんわり開いた両手を挙げ、足を布団に広げてスウスウ寝ている。
暗い玄関に、三人の並んだ靴。
静かな街並みの中。古い戸建の屋根に、大きな明るい月がかかっている。




