第16話 囚われ
古い昭和風の、戸建ての貸家。あいの家。
夜。
静かな二階の私室では、壁掛け時計が小さな音を刻んでいる。
あいはベッドに腰掛け、スマートフォンのグループトーク画面を見ている。
画面には、はるみからまさるへの、熱心なメッセージが溢れている。
あいが瞳を揺らし、スマートフォンを膝の上に置いた時、着信音が鳴り始める。
あいは期待で顔を輝かせ、急いでスマートフォンの画面を見る。
【着信表示】
<あいの父親の名前>
悲鳴を飲み込んで固まるあい。
着信音が、怯えるあいに容赦無く鳴り続ける。
あいは無理やり手を解き、震える指で操作する。
スマートフォンを耳にあてる。
「はい。……はい。ごめんなさい──。」
スピーカーから、あいの父親の声。
「母さんが寂しがっているんだ。帰ってきてくれないか。」
あいは手の甲で口を抑える。
「母さんが泣いてるぞ。……どうして平気でいられるんだ。」
あいの父親は、あいの返事を待たずに話し続ける。
「おまえがそうやって、外で勝手にやってる間に……。」
「……して、誰が一番傷ついてると思ってる。」
「それでも娘か。お前がもっと……なら、……だろう。……で、……。」
あいの父親が、浴びせるようにあいに話を重ね続ける。
あいの耳が拒絶するように、スピーカーから父親の声が遠くなる。
あいは放心気味になりながら、控えめに相槌を打つ。
延々と続く言葉に、抵抗を絡め取られるように、あいは闇い目で相槌を打ち続ける。
この物語は、「不可侵領域」(はるみ視点)と対になる作品です。
『不可侵領域』はこちら
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