第14話 知っているからこそ
──現代。
はるみは廊下で一つ呼吸をして、、ゆっくりとLDKのドアを開く。
はるみの父親が、堂々とした風格でソファに座っている。
はるみを一瞥する父親。
「遅かったな。」
父親のそばに立つ秘書が、はるみにお辞儀をする。
「父さん。どうしたの、急に……。」
はるみは声が震えぬよう、平静を装いながら急いでソファ近くの椅子に座る。
シンとした間。はるみの緊張が高まる。
「……なぜ、母さんに連絡を返さないんだ。」
はるみの父親は、ため息混じりに問いかける。
父親から視線を逸らすはるみ。
「返事をしろ、はるみ。」
はるみは押し黙る。
「……そろそろ、家に帰ってこい。」
パッと顔をあげたはるみが、父親をみる。
「このマンションも解約だ。仕事もやめてこい。付き合っている女がいれば別れてこい。」
父親は試すようにはるみに言い渡す。
「あ、でも、でも、俺……。」
言葉を詰まらせるはるみに、苦しそうに父親はため息をつく。
「なんだ。ちゃんと言え。」
沈黙するはるみ。
「はるみ!」
はるみは俯いて、自分の拳を見下ろし、目を釣り上げる。
再び、はるみは沈黙する。
父親は、はるみを忍耐強く見つめる。
慎重に息子を見定める。
「──わかったな。明日、母さんに絶対に連絡しろ。」
父親は立ち上がり、はるみの背中にせつない視線を注ぐ。
再び厳しく顔を引き締め、父親は堂々と歩き去る。
はるみは、父親が去った玄関ドアの開閉音で、金縛りが解けたように両手で顔を覆う。
「──っ!」
はるみは拳で強く自分の膝を叩く。
この物語は、「不可侵領域」(はるみ視点)と対になる作品です。
『不可侵領域』はこちら
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