職業Ⅴ・⑥ 巨大トカゲ戦
いつもより少々長い話になっておりますが、前回が非常に短かったことの埋め合わせと思っていただければ。
「敵だーー」
慌しい叫び声に俺は起こされた。
まだ薄暗い時間だった
「モンスターだ、みんな逃げろ!!」
こんな孤島だと、モンスターの襲撃も多いらしい。わかってるなら対策して置けよ。
「兵士とかいないのか?」
誰に聞くともなしに言ってみたら、近くにいた島民が答えてくれた。
「こんな孤島に来てくれる兵士なんていないに決まってるだろ!」
そういいながらみんなが同じ方向に走り出した。モンスターが来たのと逆方向だ。
「ドーファンさん!」
「ん?」
「俺がやります!」
「行ってくれるのか」
村長が俺達をみつけて言った。
「わたしもいきます!」
狼少女が即座に反応した。
「よし、行こう!」
「道具類は村にあるのを貸そう。回復薬は好きに使ってくれ!」
四人で村に戻って、倉庫を開けた。山盛りの道具が詰まっていた。
「普段兵士もいないのに、何でこんなに……」
「逃げるだけではだめだと思ってな」
持てるだけの道具をバッグに詰め、村長と船長を避難させてから走る。
持って行った道具は、ポーション、罠、閃光玉、ナイフ、爆弾。相手がどんなモンスターかわからないことには、道具も選びづらい。
「あそこです!」
狼少女が見つけたそのモンスターは……巨大なトカゲの二足歩行型。つまり、いわゆる怪獣だった。
「こんなものがどこに隠れてたんだ!?」
巨大すぎて手の出しようが無い。この村は普段からこんな巨大モンスターに襲われていたのか!?
「まずは閃光玉だ!」
俺は閃光玉をポーチから取り出し、投げる。
「目を閉じろ!」
目を閉じていてもなお強い発光が起こる。
「効いたか?」
一瞬の間目を眩ませたのかと思ったが、すぐに回復した。
「だめか」
狼少女が走り出す。自慢の爪と牙で、直接攻撃する気だ。
「だめだ、まだ敵の正体がつかめてない!」
しかし、その声は彼女に届いていなかった。
巨大トカゲに接近して跳びあがり、爪で引っ掻いた。
切れてはいる。だが、これだけ巨大だと大したダメージにもならないだろう。気にした様子はない。
彼女が諦めずに爪をたてた。
血が飛び散る。こちらにしてみればかなり多い量だが、あちらにしてみればちょっとした傷にしかならないらしい。
直接攻撃が出来ない俺は、その様子を観察していた。
「血が、黒い?」
まさか。あのときの。
俺は巨大注射器を取り出し、駆け込んだ。
「これなら!」
上で攻撃している狼少女が、突然の俺の攻撃に困惑した表情を見せる。
注射器を突き刺し、ピストンを引いた。注射器の使い方としては間違っているが、この際そんなことをきにしてはいられない。
あの時と同じ。黒い雲が出た。
しかし、巨大トカゲの様子は変わらない。量が少なすぎるのか?
すった黒い雲を密閉容器らしきものに捨て、もう一度さす。吸う。
何回も繰り返すが、終わりそうに無い。
巨大トカゲには、気にする様子も無い。
「この方法じゃ、だめか。でもどうすれば」
そのときだった。
「聖なる星よ、偉大なる宇宙よ。我が盟約に従い、その力を振るえ。影力巨大化!」
女性の声だった。よく響く、重いようで、高い、不思議な声だった。
俺の巨大注射器が、怪獣サイズまで巨大化した。
「突き刺せ」
音ではなく、俺の脳に届いた。
巨大化した注射器を、巨大トカゲに突き刺す。
注射器に飛び乗って、ピストンを引いた。
黒い雲が、大量に抜けた。
「ガヮァァ?」
疑問の叫びを上げ、巨大トカゲが消えた。
いや、消えてはいなかった。狼少女の足元に、普通のトカゲがいた。
雲の作用で、巨大化して、凶暴になったのだろうか。
「あの雲、何なんだ」
俺はトカゲを逃がし、後ろを振り返った。そこには、フードを被って、顔が見えなかったが、さっき俺を助けてくれた魔法使いらしき人がいた。
「さっきは助かったよ。ありがとう」
そういうと、彼女が笑ったように感じた。彼女は、影のように消えた。
「謎の魔法使い、か」
彼女のいたところに、転職チケットが落ちていた。
「医師国家試験・免許」の文字が俺の視界に表示される。
「おーい、無事か~~」
モンスターが消えたことを確認した村人たちが戻ってきた。
「よし、戻るか」
俺は狼少女に声をかけて、村に戻っていった。




