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ケータイの着メロが鳴って、あー、なんか聞き覚えのある音……と思っていたら、
「美緒、ごめん、勝手に出るよ?」
と千裕が私の鞄からケータイを取り出した。
「……うん、代わりに……、じゃあ連れてく」
誰と話しているんだろう? そういえば、明日菜の部屋に着いてすぐ、さっちーに言われてマナーモード解除させられたっけ。ぼんやりした頭で思い出す。
「美緒、起きて」
「ちょっとだけ歩くよ?」
私は、明日菜とさっちーに支えられ、明日菜の部屋を出た。
階段を下りて、明日菜の部屋のある建物から二軒先に月極の駐車場がある。その前の路上に白い車が止まっていた。
その車の前に立っているのは。
「ハルくん?」
えーと、なんでハルくんがここに?
「なに驚いてんだろ、この子は」
「記憶が飛んでるんじゃない?」
友人たちの散々な言い草。
「送るって言ってくれてたでしょ?」
ああ、そっか。……って、えええ?!
「病院連れてくほうがいい?」
苦笑しつつハルくんが言った。
「あ、でも保険証もないんで、帰ります」
私が言うと、
「また敬語になってる」
とハルくんは笑いとも非難ともつかないような顔をした。……綺麗な顔は、どんな表情してても綺麗……とか呆けてる場合じゃない。
「美緒、しんどいんでしょ。早く乗って」
さっちーと明日菜が、ハルくんがドアを開けて待っている車の助手席に私を押し込んだ。
「ほら、鞄」
千裕が私の膝の上に鞄を置いた。
「藤崎くん、よろしく」
「ちゃんと家まで送り届けてね」
「りょーかい」
「じゃあ、気をつけて」
バタン。千裕がドアを閉め、ハルくんが運転席に回って。
なんだか、あれよあれよと言う間に。私を乗せて、ハルくんの運転する車が走り出した。
「……シートベルト」
ハルくんが、ちらりと私を見て言う。
ああ、シートベルト!
私がのろのろとベルトを引っ張っていると、信号待ちで車を止めたハルくんが、
「やったげようか?」
とこっちに身を乗り出した。
「いえ! けっこーデス……」
熱に浮かされて熱いのか、ハルくんが近すぎて熱いのか、もうわけがわからない。
ハルくんは、ふっと笑いながら、
「美緒、めちゃくちゃ緊張してる?」
顔と目線を前方に向け直して言った。
「取りあえず、免許取り立て、じゃないから。安心して」
……そういう緊張じゃないんだけど。でも、たぶんハルくんは、気づいてて、すり替えをしてくれている。
「免許、いつ取ったの?」
確か、一年間は初心者マークをつけないといけないはず。
「去年の夏休み」
「って、高校在学中?」
「誕生日過ぎてたからね」
いや、そういう問題じゃなくて、高校三年の夏休みって、予備校通いとかが普通なのでは。
「受験一色っていうのが嫌で、せめてもの抵抗。前半のバイト代つぎ込んで、合宿で最短取得」
ハルくんは簡単に言う。
「この車は?」
「姉貴の。結婚して、たまたまうちの大学の近くに住んでるから、時々借りてる」
そっか。だから、すぐに来てくれたんだ。でも、なんでわざわざ。
「三回も乗り換えするより、車だったら、寝てられるでしょ?」
ああ。千裕たちの話が聞こえてたからかな。
「住所、教えて?」
「え?」
「ナビ、設定するから。そうしたら、美緒、もう休んででいいから」
言われるままに住所を告げて。
ハルくんは、また信号待ちで止まっている間に、手早くナビを設定した。
緊張からほどけると、身体が急速に重くなって来た。確かに、電車は無理だったかな? ハルくんの提案がなかったら、明日菜んちに転がり込んでずっと寝かせてもらうことになってたかも、と思う。
そうして、車の揺れも心地よく、いつのまにか私は助手席で眠っていた。
電車を乗り継いで二時間って距離は、車で高速道路を使っても、それなりの時間がかかる。
なんだかおでこが突然冷たくなって、目を開けると、真ん前にハルくんの心配そうな顔があって。思わず、後ろに引いてドアに後頭部を軽くぶつけてしまった。
「ごめん、起こした?」
あ、冷却シート。貼ってくれたんだ……。
「はい」
と、ハルくんはペットボトルのスポーツドリンクをくれた。
「起きたら、のど乾くかな、と思って。売店入ったら、目に付いたから。ないよりか、マシでしょ?」
「ありがと」
ハルくんは、よく気がつく。
でも、冷却シートをおでこに貼ってもらうなんて、なんだか子どもみたい。
「なに?」
私の、ほんの少しの不機嫌も和らぐ威力抜群の微笑み。
「なんで、こんなにやさしいの?」
「やさしい?」
ハルくんは、なぜか心外そうに聞き返した。
「こういうの、彼女に嫌がられない?」
ハルくんの雰囲気が固くなったからか、言わなくてもいいことを、言ってしまった。
「彼女は、俺のこと、やさしいとは思ってないから」
そう言ってハルくんは、
「動くよ」
シートベルトをつけて。
車は、パーキングを出た。




