禁呪物
二人が岩山をくりぬいて作られた本拠地の砦へと戻る。砦は薄暗く、揺れる松明の灯りが、砦に戻った二人の影を壁に描き出す。
砦の奥へ進む二人の元に、仲間たちが近寄って来た。背の低いもじゃもじゃの赤い髪と髭に埋もれた男たち。彼らはドワーフと呼ばれる種族だ。
「首尾はどうだった?」
男の一人がヨヒアを見上げながら尋ねる。ヨヒアは懐から折りたたまれた紙を取り出すと、それをヒラヒラと見せながら言う。
「敵軍の情報を集めてきました。奥の部屋で説明します」
そう言うとヨヒアは奥の部屋へと足を進めていく。ペレもついて行こうとした時、後ろからペレを呼び止める声が聞こえて来た。
「ペレ!お前、またその杖を使ったのか?」
ペレが振り向くと、そこには杖を突きながら足を引きずる、獣人の姿があった。白と黒の線が交互に縞模様を描く、白虎のような容貌をした大柄な獣人だ。
ペレが背後に錫杖を隠しながら、むくれたような顔をしながら言う。
「ヴァイスには丁度いい杖があるんだから、別にいいでしょ?貴方が持っていても使わないじゃない」
ヴァイスと呼ばれた獣人が、辛そうに足を引きずりながらペレの前までやって来ると、その双眸でペレを見下ろした。ヴァイスは真剣な表情でペレを戒める。
「何度でも言うが、そいつは禁呪物だ。召喚魔法を軽々しく使うな!まったく、うっかり杖の話をしたのが不味かったな……」
ヴァイスは世界に散逸している禁呪物と呼ばれる魔道具を収集している旅人だ。この地で禁呪物である錫杖を手にして帰ろうとしたところ、うっかりヨヒア達とリザードマン一族の戦いに巻き込まれて負傷してしまった。その後はヨヒア達のいる砦に居候する形で看病をされていて今に至る。
ヴァイスが説教を続ける。
「異世界の強者とのやり取りは危険だ。契約を結んで、後から騙されたのが分かり、破滅した者だって多いんだ!」
ペレは赤髪をかき上げながら答える。
「それは騙された方が悪いんじゃないの?私は契約を詰めているから、ちゃんと使えている。実際今だって問題は起きていないじゃない」
ヴァイスが苦々し気にペレが後ろ隠した錫杖を見つめる。少しだけ使っている様子が気になったヴァイスがペレに尋ねる。
「ペレは異世界の誰と契約を結んでいるんだ?」
ペレが口元に人差し指を当てながら答える。
「千手騎士よ。他の連中とも話してみたけど、彼との契約が一番やりやすい。対価には武器をご所望だから、後から騙される要素もないでしょ」
ヴァイスが頭の中で千手騎士の情報を集め始める。
(千手騎士、武器か……)
ヴァイスがペレの顔を見下ろす。燃える炎のような赤髪に、陶器のような肌。少しだけ吊り上がった碧眼が目立つ整った顔は美人と呼んで差し支えないだろう。ヴァイスが伺うようにペレに尋ねる。
「ペレは、契約以外の事で千手騎士と会話したりはするのか?」
ペレは指を下唇に当てながら目を上に逸らし、何かを思い出すような素振りを見せた後で答える。
「全然。契約の話が終わったら、そのまま終わり」
それを聞いたヴァイスが、頭に手を当てながら何かを考え始めた。
考え込んでいるヴァイスを見上げていたペレは、ヴァイスを伺うように見つめた後で、笑顔を浮かべて言う。
「じゃあそういう事で、もう暫く借りておくね!」
そう言うとペレは足早にその場を去っていく。
ヴァイスは「おい、待て!」と言いながら手を伸ばすが、その拍子に怪我をしている足に体重が乗ってしまう。
「ぐふっ!」
ヴァイスは激痛で唸りながら壁にもたれ掛かった。
ペレが奥の部屋に顔を出すと、ヨヒアが偵察で掴んだ情報を説明し終えたところだった。説明を聞いていた砦のリーダーが、腕を組みながら言う。
「よし!次の攻撃先はドテ山の裏にある敵の拠点だ。明朝に出発する。行くぞ、野郎ども!」
リーダーが拳を振り上げると、周りの者達も拳を振り上げて叫び始めた。
リーダーがヨヒアに目を向けて言う。
「ご苦労だったヨヒア。お前はもう休んでいていいぞ!」
ヨヒアは頭を下げて礼を言うと、部屋の出口へと向かって行った。
ヨヒアが部屋の外に出たのを見計らって、待ち構えていたペレがヨヒアに声をかける。
「どうだった?」
ヨヒアは軽く笑みを浮かべながら答える。
「暫く休んでいていいってさ」
それを聞いたペレが嬉しそうな笑みを浮かべて言う。
「だったら、明日は一緒にどこかに行こうよ」
ヨヒアはペレを見つめながら笑顔で言う。
「そうだね。そうしよう」
その言葉を聞いて嬉しくなったペレは、鼻歌を歌いながら自分の部屋に向かって行く。
ヨヒアは出て来た部屋を少しだけ不満げに見返したあとで、自分も部屋へと戻って行った。




