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【中編】炎帝  作者: ikhisa
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貴族

 城の大広間に主だった戦士が集められ、大戦の功績を表彰する授与式が行われている。壁は色とりどりの彩布で飾りつけられ、その鮮やかな色彩が窓から差し込む日の光で明るく照らし出されている。

 鮮やかな部屋の色調とは裏腹に、貴族のために用意された椅子には空席が目立っていた。魔王軍との熾烈な戦いで、多くの貴族がその命を落としたのだ。


 授与式が始まる前に、千手騎士が王座から立ち上がった。それと共にざわついていた大広間が静かになる。

 沈黙が支配した大広間に、神妙な顔をした千手騎士の声が低く響く。

「此度の魔王軍との戦いで、多くの仲間たちがその命を落とした。アルベルト、いつも私と共に戦ってくれた盟友だった。レナード、前例にこだわる男で、私とは度々ぶつかったが、いざと言う時には常に仲間のために率先して行動してくれた。フランツ、彼は学問を愛した男だった。このような形で彼を失ったことはとても悲しい。グエン。彼が居なければ、我々はここまで戦い抜くことは出来なかっただろう。彼らだけでない。ラインハルト、ヴィクトール、ヴァルター……多くの掛け替えのない仲間を、我々は失った。まずは彼らの冥福を祈り、皆と共に黙祷を捧げたい」


 千手騎士はそう言うと、直立して頭をわずかに伏せた。そして右の手の親指の関節を額に当てながら、故人の冥福を祈る。

 大広間に集まった皆も同じように額に親指を当てながら、冥福を祈り始めた。少し離れた壁際には、千手騎士や貴族の妻子たちが胸に右手の手の平を当てて黙祷を行っている。フィオナも千手騎士の斜め後ろで黙祷を捧げていた。

 

 黙祷を捧げている戦士の中には、ヨヒアとその仲間たちも含まれている。あれからヨヒアは千手騎士に仕える騎士となり、共に異世界を渡って来た仲間たちと共に戦い続けた。その激戦で仲間たちの数も半数を割っている。

 ヨヒアは額に親指を付けながら、異世界に骨を埋めた仲間たちの冥福を祈り、彼らの魂が元の世界へ辿り着くことを願った。


 黙祷が終わると、千手騎士が王座に腰を下ろした。王座の近くで進行を務める鳥人が、広間に向けて声を張り上げる。

「それではこれから、この戦いの功績を称える授与式を行う。私に名前を呼ばれた者は前へ!」

 そう言うと手に持った巻物を開きながら、功労者の名前を叫び始めた。


 戦士たちが次々に呼ばれ、千手騎士の座る玉座の前で跪く。進行役がその戦士の功績を読み上げ、功績に見合った恩賞が渡される。それは武器であったり、爵位であったり、土地であったりと様々だ。


 進行役の読み上げる巻物が終わりの方に達したであろう時に、ようやくヨヒアの名前が呼ばれた。ヨヒアは毅然とした表情で胸を張りながら、千手騎士の玉座へと向かって行く。

 周りの者も目線がヨヒアへと向かう。異世界から来た魔族でありながら功多き騎士として、彼の恩賞がどうなるかが多くの者の関心の的であった。

 

 ヨヒアが千手騎士の座る玉座の前で跪いた。進行役が巻物を見ながら、ヨヒアの功績を述べていく。

「ヨヒア。この者は異世界から召喚された魔族であるにも関わらず、その身を我々のために捧げて来た。召喚された直後にも関わらず、魔王軍に挑み、冷静に戦場を分析し、黒竜6と蜘蛛10を仕留めた。その後の戦いでは主君に仕えつつ、魔王軍の最高戦力である八翼竜を仕留めるという武勲を上げている。戦功だけではない。共に来た刀工らによる技術提供が、全軍の武力の底上げにも大きく寄与した。これらの功績を鑑み、彼には爵位と領地を授ける。貴族として更なる働きを期待する!」

 大広間にどよめきが湧いた。これほどまでに素早い立身は前例がない。おまけに彼は異世界から来た魔族なのだ。

 どよめきの一方で、ヨヒアに暖かい目を向ける者達も居る。ここまで戦ってきた仲間たちや、戦場でくつわを並べた戦士たち。そして王座の後ろに立つフィオナが、嬉しそうな目でヨヒアを見つめていた。


 千手騎士が立ち上がると、近くにいた兵から飾り付けられた鞘に納められた剣を受け取る。千手騎士がその剣をヨヒアに授けながら、低く響く声で言う。

「この剣を貴公に授けよう。貴公には今まで以上の奮闘を期待している!」

 ヨヒアが座したまま両手を掲げて、千手騎士から下賜された剣を受け取る。その光景を見たフィオナが拍手を始めると、伝播するように周りの者も拍手を始めていく。大広間は、ヨヒアを祝福する拍手で溢れていった。


 功労式の後は、大祝宴が開かれた。多くの豪華な料理と酒が来訪者たちに振舞われる。

 皆が終戦を祝いながらその盃を空にしていく。今回最も注目を集めたヨヒアと仲間たちは、多くの戦士や貴族たちから祝福されながら、もみくちゃにされていった。


 宴もたけなわとなって来たところで、ヨヒアがコッソリと庭園へと抜け出してきた。月明りの照らす、優雅でありながら未だに戦の痕跡が残る庭園を見つめていたヨヒアの耳に、草を踏む足音が聞こえてくる。

「こんなところに居たのね、ヨヒア。今回の主役の一人なのに、駄目じゃない」

 フィオナの透き通るような声を聞いたヨヒアが、ほろ酔いで少しだけ赤くなった顔をフィオナへと向けた。フィオナの顔も同じように赤くなっている。

 ヨヒアが笑いながら答える。

「凄く歓迎してもらったからね。こっそり休憩に来たんだ。少ししたらまた戻るよ」

 フィオナも笑いながらヨヒアを見上げながら言う。

「でも、凄いわ。貴族だなんて。お父様も喜んでいたわよ」

 ヨヒアは笑みを浮かべながらも、少しだけ酔いが醒めたように言葉を紡ぐ。

「この戦いで多くの人が亡くなったからね。彼らの穴を埋めるためにも、頑張らないといけない」

 事実、ヨヒアの急な立身の大きな理由としては、亡くなった貴族の穴埋めという意味が大きい。魔王軍との戦いの爪痕で、国内の様々なバランスが崩れており、千手騎士としては信頼できる者で固めたかったのだ。

 少し不安げにしているヨヒアを見つめながら、フィオナが優しく声をかける。

「貴方なら出来るわ。お父様が見込んだんですもの。それに、私も、貴方なら出来ると確信している」

 ヨヒアが真っすぐにフィオナを見た。その熱っぽいヨヒアの目線を、フィオナが真っすぐに受け止める。二人の顔は酔いではない理由で紅潮していく。


 二人が見つめ合う最中、フィオナの頭の上がもぞもぞと動き始めた。その長い黒髪の中から、長い耳がピクピクとしながら立ち上がる。ヨヒアが突然立ち上がった耳を少し驚いて見つめると、それに気がついたフィオナが恥ずかしそうにしながら、耳を隠すように両の手を当てた。

「やだ、私ったら、はしたない……」

 目を閉じてますます赤面していくフィオナを見たヨヒアは、もう自分を抑えられなくなった。フィオナを強く抱きしめ、その唇を奪う。フィオナは一瞬だけ驚いた顔をしたが、直ぐにそれを受け入れるように耳を抑えていた手を離して、ヨヒアを抱き返す。

 ヨヒアの接吻の勢いが増すにつれ、フィオナの顔の赤みは増し、耳がしおれたように倒れていく。


 月明りが二人を祝福するように、静かにその姿を照らし出していた。

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