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――私の父は、財界でも有名な実業家だった。
家はお屋敷と呼べる程に広く、お手伝いさんもたくさんいて、何不自由ない中で私は育った。
その経済力のお陰で、私は国立ライゼント学院の財神科に合格した。
卒業後は防衛省に入職してキャリア組になるんだろうなぁ、なんて漠然と考えていた。
父のような商才はないけれど、賜魔術の力で人の役に立つのは嫌いじゃなかったから。
けれど、二年生になってすぐ、私の人生は狂った。
父の会社がある問題を起こし、倒産したのだ。
資産家から一転、父は莫大な負債を抱えることになった。
当然、私の財魔力もなくなり、学院を中退せざるを得なくなった。
家も車もすべて売り払い、私たち家族は極貧生活へと転落した。
まさに、天国から地獄。
私も生活のためにバイトを始めたけれど、労働はおろか家事すらしたことがなかったから、ミスしては叱られる日々を送った。
どうしてこんなことに。
私は何も悪いことをしていないのに。
……ううん。親の財力にあぐらをかいて、何もしてこなかったからこうなったんだ。
強い後悔と自己否定。
身も心もボロボロになって、生きる程に生きる意味を見失っていく。
そんな生活の中で、私が唯一笑顔になれるものがあった。
それは、ホトヤンのユーウォッチチャンネル。
彼の動画はいつも全力で、熱くて、サービス精神旺盛で、とにかく面白かった。
言動の一つ一つに彼の人間性が滲み出ていて、自然と応援したくなった。
年下なのに、お金持ちなわけじゃないのに、自分の力だけで成功を掴んでいく姿から目が離せなくて……
彼のチャンネルを視ている間だけは、辛い現実を忘れることができた。
そして、ある日の配信で、ホトヤンがこんな発表をした。
「実は……あのライゼント学院に合格しました! 来年の春から通いまーす!!」
この時ほど、自分の運命を呪ったことはなかった。
あんなことにならなければ、ホトヤンの先輩になれていたのに。
悔しさに、涙が出た。
……もう一度、学院に戻れたら。
私に賜魔術を使えるだけの財魔力があれば。
その願いが通じたのか、私の元にこんな話が舞い込んできた。
「ある少女の影武者になってほしい。引き受けてくれるなら、君のお父さんが抱える負債をすべて肩代わりしよう。ただし……君自身の名前と顔は、永久に失われることになる」
なんでも私とその少女は背格好がよく似ているらしい。
加えて、その子は春からライゼント学院に入学する。
同じ神律師である点においても、私は影武者としてぴったりの人選だったみたい。
……ホトヤンのいる学院に、同級生として通える。
その上、父の負債がゼロになる。
こんな好条件、飲まないはずがなかった。
ホトヤンに会えるのなら、本当の自分を売ったって構わない。
私にはもう……彼しかいないのだから。
そうして私は、名前を隠し、顔を変え、ある少女の身代わり人形になった。
整形後の痛みに耐えながら、ホトヤンに会えるその時を心待ちにした。
なのに……それなのに。
「実は、ホトヤン…………彼女ができましたー! しかも年上の超美人!! 今回はそんな彼女との初デートをレポしたいと思いまーす!!」
………………………………………………どうして。




