漆黒の兆し
「ぎゃーっ! 超ドラゴン! 思ったよりドラゴン!!」
「ソーマさんたちが賜魔術で強化した打撃は効きませんでした……想像以上に硬いようですわ」
「り、リィトぉ……どーする?」
震えるヒメカの問いを受け、リィトはすぐに指揮を執る。
「クラガノ君、残りの財魔力で障壁を顕現できる? そこに隠れて、ミコシバさんを護ってあげて」
「って、お前らだけで戦う気かよ?!」
「ドラゴンを倒したとしても三人以上生き残らなきゃクリアにはならない。僕がなんとかするよ」
言って、眼鏡のブリッジを押さえるリィト。
その頼もしい姿に、ヒメカはときめきを覚えるのと同時に、貰魔力0で申し訳ないという気持ちが渦巻き、思わず胸を押さえる。
そんなヒメカに、リィトが投げかける。
「ヒメカちゃん、一つお願いしてもいい?」
「ふぇっ?! う、うんっ、もちろん!」
「さっき着陸した場所に置いてきたパラシュートを再利用したい。取ってきてもらえるかな?」
……頼られた。
自分にも、できることがある。
そのことが嬉しくて、ヒメカはこくっと頷く。
「オッケまかして! それまで死なないでよ!」
「善処する」
リィトが笑う。
風で前髪が揺れ、片目が少しだけ見えていた。
リィトは強い。これまでにも、何度も助けてくれた。
だから……ヒメカも、できることを精一杯頑張りたかった。
ズンッ……と音を立てて、ドラゴンが降り立つ。
近くで見ると、ますますの迫力だ。
「行って、ヒメカちゃん!」
「うん!」
ヒメカは森の中を引き返し、猛ダッシュした。
走って走って、先ほどの川のほとりにパラシュートが残ってるのを見つけた。
手繰り寄せ、ひとまとめにし、すぐに抱えてまた引き返す。
「リィト! 取ってきたよ!!」
ヒメカが戻ると、少し離れたところに分厚い壁が立っていた。
恐らく、リィトの指示でホトギが顕現した防壁だ。負傷しているミコと一緒に隠れているらしい。
そんな中、リィトは一人でドラゴンと戦っていた。
爪での攻撃を躱しながら、賜魔術で炎を出すなどしているが、鱗の分厚さゆえか、やはり効いていないようだ。
「ありがとう! こっちに投げて!」
リィトに言われ、ヒメカは持ってきたパラシュートを力いっぱい放り投げた。
リィトはキャッチすると、すぐにそれをドラゴンの足元に投げた。蔓でできたロープが足に絡まり、ドラゴンの動きを封じる。
そこへ、リィトが手を掲げた。
「落ちろ!!」
――ボコォッ!!
ドラゴンの真下の地面に、大穴があく。
ドラゴンは身動きを取れぬまま、その穴に落ちた。
しかし、リィトのサレチカの残数的に、そう深くは掘れなかったのだろう。
ドラゴンは穴から頭を出し、火を吹きながら這い出ようとしていた。
「ヒメカちゃん!」
「はいっ!」
「クラガノ君とミコシバさんに、毒薬と注射器を顕現してもらって! 大型動物にも有効なものを!」
リィトの指示に、ヒメカは納得する。
確かにそれならば、二人の財魔力の残りで顕現できそうだ。
ヒメカは「わかった!」と叫び、駆け出す。
防壁の後ろに行くと、案の定ホトギとミコがいた。
「二人とも! 毒とでっかい注射器を……!」
そう言いかけて……ヒメカは止まる。
二人の様子が、どこかおかしかったから。
ミコは怯えたようにへたり込み、ホトギを見ている。
そして、ホトギは……うなだれていた。
身体から、黒い靄を出して。
「急に呻いて、黒い気体を出し始めたんですの……一体、クラガノさんに何が起きているの……?!」
ミコの言葉を聞きながら、ヒメカは息を飲む。
(……待って。あたし、これ見たコトある。昔、施設のきょうだいがなったのと同じ。こないだ、リィト言ってたよね? この症状は、邪神アメノに喰われかけているんだ、って)
つまり……ホトギは今、邪神アメノに侵蝕され始めているということ。
「ホトヤン! しっかりして!!」
ホトギの肩を掴み揺さぶるが、その顔を見てゾッとする。
彼の目から……真っ黒な涙が溢れていた。
「なんで……好きだって……愛してるって言ったのに……」
ホトギの身体が震える。
声を出す度、口からも靄が漏れる。
「炎上覚悟で、ファンにも公表した……二人で暮らす豪邸も買った……全部、彼女が望んだから……」
墨のような涙を流し、ホトギは震える。
「なのに、どうして……他の男と、あんな…………ツバメ……っ」
「ホトヤンだめっ! 悲しみに囚われないで!!」
このままでは、ホトギが絶望に飲まれてしまう。
邪神アメノが復活するための養分になってしまう。
(早く、リィトに知らせなきゃ……!)
と、ヒメカが駆け出そうとした、刹那。
「う……あああああああああああッ!!!!」
ホトギが、絶叫した。




