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ぎゃるめがっ!!!〜ときめきが魔力になる学園で、魔力ゼロなチョロかわギャルとバディになった話〜  作者: 河津田 眞紀@5/2ゼロラブ第1巻発売!
9.ギャルと競技大会

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マカロンと桜




 学校を出たヒメカは、厚底スニーカーから車輪を出し、スケーターモードに切り替えた。


 もうすっかり五月だ。

 屋上緑地の桜は散ってしまったが、代わりに青々とした新緑が眩しい季節となった。


(あ、そうだ。あのおねーさんのお店、また探してみよっ。何故ならぁ……お給料が入ったから!)


 ヒメカはスケーターで、くるりとターンする。


 ライゼント学院は、アコード省が管轄する国立学校だ。

 そのため、生徒は入学と同時に国家公務員になる。

 毎月給与が出る代わりに、有事の際にはニッポンのために戦力として動員されるのだ。


(でも、あのおねーさんのお店、前に行こうとしたら見つけらんなかったんだよね。そんで、撮影会に行こうとしてるメルりんに会ったんだっけ。たぶん、この道で合ってると思うんだケド……)


「……あっ、あった!」


 今回は、すぐに見つかった。

 ビルの谷間に佇む、鳥かごのような外観の店。

 蔦が絡む窓に、空の青が反射している。


「こんにちはー! やってますかー?」


 店のドアを開けると、前回もらった香水の匂いがふわりと香った。

 棚に並ぶ香水瓶に鉢植え。星のように輝くアクセサリー。

 それらを目にするだけで、ヒメカはわくわくと胸を踊らせた。


「あら、いらっしゃい。しばらくぶりね」


 と、店の奥から店主の女性が現れた。

 相変わらず女神のような爆美女だと思いながら、ヒメカは元気に挨拶する。


「おねーさん久しぶり! こないだは香水の試供品くれてありがと!」

「どういたしまして。その後、例の彼とはどう? うまくいってる?」

「あはは……まぁ、それなりに?」

「今日はどうしたの? 何かお探し?」

「コスメってある? 新しいリップとアイシャドウ欲しくて!」

「それなら、こっちの棚にあるわ」

「ほんとだ! 超可愛い! あと、入浴剤ってあるかな? リフレッシュできそうなヤツ」

「もちろん、あなたが望むものならなんでも。自分用?」

「ううん、こっちはプレゼント。なんか友達が元気なくてさ。疲れてるっぽいから、癒しをあげたくて」

「そう。なら……この入浴剤がおすすめよ」


 女性は、アンティーク調の引き出しから何かを取り出し、ヒメカの手に乗せた。

 マカロンの形した、固形の入浴剤(バスボム)だ。


「わ、可愛い!」

「身体が温まるし、香りにはリラックス効果があるわ」

「これ買うー!」

「ありがとう。他に必要なものはある?」

「んーと……甘いお菓子があれば買いたいかな」


 こちらは、リィト用だ。

 リィトは、学食でパンケーキとワッフルとシフォンケーキを日替わりで注文するほどの甘党である。

 今度、ヒメカの部屋に呼んだ際のお茶菓子として買っておきたかった。


 すると、店主の女性が優美に笑い、


「……ふふ。それは、例の彼用ね?」

「えっ?! なんでわかんの?! おねーさん超能力者?!」

「あなたの顔を見ればわかるわ。……大事なのね、彼のことが」


 胸の内を見透かすような視線に、ヒメカは顔を赤らめ、口を閉ざす。


(うっ……たしかに、リィトのコトは大事だケド……あらためて言われると、ちょっと照れる……っ)


「こ、今度遊ぶ約束したから、お茶菓子にね!」

「なら、このクッキーなんてどう?」


 そう言って女性が差し出したのは、桜の形をしたミニクッキーの詰め合わせだ。包装もピンクに彩られ、実に愛らしい。


「可愛いー! これにするー! あ、友達にもあげたいから二袋ちょーだい!」

「わかったわ。プレゼント用の袋も付けておくわね」


 そうしてヒメカは自分用の化粧品も選び、入浴剤とクッキーと合わせて支払いを済ませた。

 商品を包む女性のしなやかな手つきを眺め、ヒメカは思わず笑みを浮かべる。


「おねーさんのお店って欲しいものなんでも揃うし、まじですごいね!」

「喜んでもらえて嬉しいわ。はい、どうぞ」


 差し出された紙袋にヒメカが「ありがとー!」と手を伸ばすと……女性が、手を重ねてきた。

 そのままそっと握られ、思わずドキッとする。


「えっ?」

「………………」


 女性は何も言わずに、ヒメカのことをじっと見つめている。


 その瞳の色は、まるで夜空だ。

 黒曜石のように黒いけれど、憂いにも似た藍を帯びている。

 肌は雪を思わせる白さで、唇の(あか)が花のように映えていた。


 その唇が、静かに動く。


「……あなたって…………」

「な、なに……?」


 ヒメカを見つめたまま、女性が何かを言いかける。

 しかし、


「……ううん。どこにでもいる、ごく普通の女の子だなって思っただけ」


 にこっと笑って、そんなことを言い放った。

 その言葉に、ヒメカはぱちくりとまばたきをする。


「……それってディス? それとも褒められてる?」

「もちろん褒めているのよ。ちょっと目立つ格好をしているけれど、優しくて素敵な女の子よね」

「えー嬉しー! おねーさんもめっちゃ素敵だよ! 男だったら惚れてた!」

「あら? 私は女の子も大歓迎よ?」

「えっ?! ちょ、まじでドキッとするじゃん!」

「ふふ。……贈り物、喜んでもらえるといいわね」


 ヒメカはドキドキしたまま商品を受け取り、「ありがと!」と短く言って、店を後にした。



 女性の魅力に当てられたのか、頭がクラクラしていた。

 火照った頬を冷ますように、エアスケーターでしばらく走るが、


(……って、そうだ。せっかくならメルりんにも何か買えばよかった! 動画バズっておめでとうのプレゼント! このクッキー可愛いし、もう一袋追加で買っちゃおっと!)


 すぐにUターンして、来た道を戻る。

 ビルとビルの間の暗い路地をスケーターで進み、店を目指す。

 しかし……


「…………あれ?」


 あの女性の店には辿り着かず、ヒメカの足は路地を抜け、反対側の大通りに出てしまった。


 おかしい。今回は絶対に道を間違えていない。

 そう思い、もう一度引き返すが……結果は同じ。


 ……消えてしまった。

 あの店も、店主の女性も。

 残されたのは、ヒメカの手元にある紙袋だけ。


 ヒメカは、ごくっと喉を鳴らす。

 前回もそうだった。道は間違えていないはずなのに、あの店を見つけられなかった。


 もしかすると、あの店は……いや、あの女性は……


「に……人間じゃ、ない……?!」




 * * * *



 

 ――幽霊に妖怪。キツネにタヌキ。

 古来より、ここニッポンには人を化かす怪異の伝説が数多くある。


 あるいは……『神隠し』をはじめとした神による事象も、無きにしも(あら)ず。


(なら、あのおねーさんはどれに当てはまるんだろ……見た目的にはキツネっぽさもあるケド、迷えるギャルを救う美の女神さまって可能性も……)



 などと考えながら、翌日。昼休み。

 ヒメカは入浴剤とクッキーが入った紙袋を手に、学院の廊下を歩いていた。


(ま、バスボムもクッキーもこうして手元に残ってるし、お金を騙し取られたわけじゃないから、いっか! レアな経験ができてラッキーってコトで!)


 と、持ち前の明るさ(能天気さとも言うが)で、昨日遭遇した奇妙な出来事を早くも忘れようとしていた。




 そうして、ヒメカは愛神(ニナヨ)科の教室がある三階から二階へと下り――


「――はい、ホトヤン。これあげる!」


 財神(ミスミ)科の教室を訪ね、ホトギに紙袋を渡した。


「え……オレに?」

「そっ。バスボムとクッキーだよ。ホトヤン、なんか元気ないっぽかったからプレゼント。あ、甘いもの大丈夫だった?」


 突然の贈り物に、ホトギは驚きながら袋の中をあらためる。


「マカロンと、桜……」

「あっ。そのマカロンはバスボムだから食べないでね! 口から泡出ちゃうから! あ、でもユーウォッチャー的には、その方がおもしろ展開になるのかも?」


 などと首を傾げていると……ホトギが、静かに涙を流し始めた。


「って、ホトヤン泣いてる?! ちょ、どしたの?!」

「ごめ……マカロンも桜も、彼女との思い出があるものだったから……ちょっと驚いた」

「まじ? すごい偶然だね! でも、なんで泣くの?」


 ホトギは、一度口を閉ざすと……紙袋を握る手に力を込め、こう答えた。


「……実は最近、彼女とうまくいってないんだ。と言うより、音信不通で」

「え?! ヤバいじゃん!!」

「そうなんだよ。こっちから連絡しても返事がなくて……このまま自然消滅なのかな? って思うと、怖くてさ」

「そっか……だから元気なかったんだね」

「……失いたくないんだ。初めて本気で好きになった人だから。連絡がついたらついたで正式にフラれそうで、最近は何もできなくなってた。けど……これを見て、決心がついたよ」


 ホトギが、顔を上げる。

 そして、ヒメカを真っ直ぐに見据え、


「……彼女に、会いに行く。家の場所は知ってんだ。ちゃんと顔を合わせて、オレのことどう思ってんのか聞いてくるよ」

「すご。ホトヤン、ちょー(おとこ)じゃん!」

「へへっ、そりゃあな。ヒメちゃむがコレくれたから勇気が出たよ。ありがと」


 そう言って、ニッと笑うホトギ。

 どうやら彼を励ますことができたようだと、ヒメカはほっと胸を撫で下ろす。


(っていうか、あのお店のおねーさん、まじですごくない?! ホトヤンの背中押すのに必要なものを選んでくれてたワケでしょ?! やっぱり、神さま的な存在なんじゃ……?!)


 などと考えつつ、ヒメカはホトギの背中をバシッと叩く。


「ホトヤンなら大丈夫だよ! 当たって砕けろ!」

「いや、砕けちゃダメだろ」

「いい報告待ってるからね! がんばっ!!」


 言って、握った拳を差し出す。

 するとホトギも、拳を掲げ、


「おうっ。頑張るわ!」


 笑いながら、拳をこつんとぶつけた。



 

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