想像力の変態
「――やば! ホトヤンの動画、また伸びてんじゃん!」
遊園地デートの日から二週間。
あの日撮影したホトギの動画がチャンネルにアップされたわけだが、その再生数はまもなく200万再生に届きそうであった。
(遊園地のレポもめっちゃ面白いし、なんと言ってもメルりんのライブ演出――まぁ、ホントはツバキ様の賜魔術なんだケド――が話題になって、超バズったんだよね。おかげでメルりんの知名度も爆上がり! 友達としてまじ鼻高い!!)
動画の反響ぶりに、ヒメカは満面の笑みを浮かべる。
そして、目の前にいるホトギに言う。
「メルりんもめっちゃ喜んでたよ! まじでありがとね、ホトヤン!」
「お、おう……」
が、ハイテンションなヒメカとは対照的に、ホトギは浮かない顔をしていた。
ヒメカは首を傾げる。そういえば、ここ数日は動画もアップされていない。ひょっとして、五月病だろうか?
「ちょっと、ヒメツカワさん。そろそろ会議再開の時間でしてよ。スマホはしまってくださる?」
などと考えていたら、ミコに叱られた。
ヒメカたちは今、一週間後に迫った三科合同・賜魔術競技大会の作戦会議のために教室へ集まっていた。いつの間にか、休憩時間が終わっていたらしい。
「ゴメンゴメン。んじゃ、始めよ」
「こほん……では、会議を再開しますわ」
みなが輪になって座り直す。
財神科のホトギ・クラガノ、ミコ・ミコシバ。
健神科のソウマ・ソーマ、ヒグレ・ユサ。
そして、愛神科のリィトとヒメカ。
もう何度も会議をしているため、すっかり顔馴染みである。
「これまでに決まった流れを今一度確認いたします。まず、最初の谷。ここはわたくしが賜魔術で橋を顕現させて突破でよろしいですね? 次に、三つに連なる岩山ですが、健神科のお二人は脚力で、愛神科のお二人は蔓で、わたくしとクラガノさんは顕現させたジェットパックで飛び越える。ここで一つめのチェックポイントがありますわ」
大会の競技フィールドには数箇所のチェックポイントがある。
そこを通過すると、得点が加算されるのだ。
成績のためにも、絶対に押さえておきたいところである。
「ここからは二手に別れての行動になります。雪の急斜面はわたくしと健神科のお二人で進みます。スノーボードを顕現させるので、そちらで下っていただきます。もう一方の川下りは、愛神科のお二人とクラガノさんにお願いします。賜魔術で舟を顕現すれば問題なく下れると思います。ここでそれぞれ下りた先にチェックポイントがありますわ」
「ふむ。ここまでのシミュレーションは完璧だな。問題は、その後……」
「ええ。合流地点にしてゴール直前の、ドラゴンの討伐ですわ」
ソウマが言って、ミコが答える。
「フィールド内で使用できる賜魔術には上限があります。ここまでの道のりでわたくしとクラガノさんはかなりの賜魔術を消費している……ドラゴンの討伐は、必然的に愛神科と健神科のみなさんにお願いする形になるでしょう」
「うん……わたしとソウマの賜魔術には余裕があるから、やっぱりアタッカーになった方がいいと思う。でも……」
「ドラゴン相手にどれだけ物理攻撃が通用するかが読めないんだよなぁ」
ヒグレとソウマが首を捻る。
フィールドの造りに関する情報はあれど、ラスボスであるドラゴンの情報は与えられていないため、すべてにおいて未知数であった。
「何かしらの武器を顕現しようにも、使用可能な賜魔術が足りないんだよな?」
「ええ。銃火器の類いは金額が高すぎて出せませんわ。日本刀や西洋刀も同じく。良くて小型ナイフかナックルが限度でしょう」
「だったら、ミコシバさんとクラガノ君には拘束具を出してもらうのはどうかな?」
そこで、リィトがそう提案した。
相変わらずもっさりな前髪に眼鏡をかけた、控えめなキャラを演じている。
「拘束具というと、ドラゴンの動きを封じるロープのようなものですか?」
「うん。それなら金額的に抑えられるから、賜魔術の上限を超えないよね」
そこで、ソウマが「だが、」と口を挟み、
「動きを封じたところで、攻撃が効かなきゃ意味がないぜ? やっぱ武器がないと……」
「もちろん。ソーマ君とユサさんの武器は、僕が顕現させるよ」
「カミナヅキ君が、わたしたちの武器を……?」
「財神科でもないのに、どうやって?」
そう。リィトは愛神科に属する神律師――自然界に存在するものしか賜魔術で顕現できない。
しかしリィトは、平然と答える。
「自然界には鋼の原料になる鉄鉱石や炭素、それらを溶かすための炎が存在している。これを組み合わせれば、愛神科の僕でも剣を造れるよ」
「組み合わせる、って……口で言うのは簡単ですが、繊細な想像力と桁外れの集中力が必要になりますわ。熟練の神律師ならまだしも、入学したてのあなたにそれができますの?」
「できるよ」
こくっ、と頷き、
「だって、やったことあるから」
リィトは、淡々と答えた。
その台詞に、ヒメカは胸を高鳴らせる。
(さっすがリィト! 賜魔術を応用して剣まで造れるなんて! 入学前から邪神徒と戦ってただけあるわ!)
……が、感心しているのはヒメカだけのようだった。
他の面々は、みな顔をヒクヒクと引き攣らせている。
「そ、想像力だけで剣を一から造るなんて……変態ですわ」
「うん、変態……」
「お前、その想像力を犯罪行為に使うなよ?」
……どうやら、規格外の想像力にドン引きされているらしい。
(あれっ? あたしのバディが変態扱いされてる?! でもごめんっ、擁護できないかも! だって、入学前から戦ってたことは秘密だもんね。安心して、リィト。あたし、みんなにバラしたりしないから! ぐっ!!)
「……親指立ててないで助けてよ」
笑顔でサムズアップするヒメカに、リィトはぼそっと抗議した。
「では……少々変態的な手段ではありますが、武器はカミナヅキさんに錬成していただくことにいたしましょう。ヒメツカワさん」
「なっ、なにっ?」
「あなたは、わたくしとクラガノさんと共に防御のサポートを。わたくしたちが使える賜魔術は残りわずかなはずですから、上手く連携しましょう。よろしいですね?」
「う、うんっ! もち、よろしくってよ!」
(って、結局貰魔力0のまんまだからこのままだと何にもできないんだけどね! まじでどうしよー!!)
笑顔で頷きつつ、ヒメカは内心ダラダラと冷や汗を流した。
方針が固まったところで、リィトがホトギに投げかける。
「なんとかまとまったね。今の案で大丈夫そう? クラガノ君」
その窺うような声色に、ヒメカはホトギが話し合いにまったく参加していなかったことに気付く。
ホトギははっと顔を上げ、慌てて答える。
「あ、ああ、大丈夫だ。手頃なジェットパックがないか、ネットで探しとくぜ」
笑顔を浮かべてはいるが、どこか無理をしているようにぎこちない。
人気の動画クリエイターとしての疲れが溜まっているのだろうかと、ヒメカは心配に思う。
「……と、ちょうど時間ですわね。では、会議はここまで。一週間後はいよいよ本番。みなさん、賜魔術を充分に蓄えた上でしっかりイメージトレーニングをしておいてくださいね」
チャイムが鳴り、競技大会に向けた会議は終了した。
これが最終時限のため、生徒たちはこのまま下校となる。
「ねねっ。リィト、この後ヒマ? そのー……よかったら、またあたしの部屋来ない?」
みなが帰り支度する中、ヒメカがこそっとリィトに尋ねる。
貰魔力を貯めるため、今日こそはリィトにときめきを思い出してもらおうと思ったのだ。
しかしリィトは、声を潜めてこう答える。
「ごめん。今日はこの後、ツバキさんのところに行かなきゃならないんだ」
「ツ……?! えっ、なんで?!」
「先日の遊園地での件で、ちょっとね。どれくらい時間がかかるかわからないから……また今度お邪魔させて」
もしかすると、あの時逃がしたヒゲ面の邪神徒について、何かわかったのだろうか?
気になるところではあったが、賜魔術の使えない自分には情報を共有してもらえないだろうと思い、ヒメカは言葉を飲み込んだ。
「そっか……わかった。んじゃ、また明日!」
リュックを背負い、リィトに手を振る。
こうなったら、自分磨きのために時間使おう。リィトに『キュン』を思い出してもらうために。
そう決意し、教室を出ようとすると、
「……ヒメカちゃん」
不意に、リィトに呼び止められた。
ヒメカは足を止め、振り返る。
「ん? なぁに?」
「……気をつけて帰ってね」
……それだけ?
もしかして、またスケーターで誰かと衝突するのではと思われている?
「もー、だいじょぶだよ。でもありがと。んじゃね!」
リィトに手を振り、ヒメカは教室を後にした。
(リィトってば優しいなぁ。あたしがぜったいに恋心を思い出させてあげるから、待っててね!)




