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ぎゃるめがっ!!!〜ときめきが魔力になる学園で、魔力ゼロなチョロかわギャルとバディになった話〜  作者: 河津田 眞紀@5/2ゼロラブ第1巻発売!
8.メガネと遊園地

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29/50

0.6mmの距離




 ………………って、


「え……ツバキさん?」

「そうっ! だってあんな可愛くてスゴイ技、ツバキ様じゃなきゃできないもん! メルりんのライブを台無しにしないよう、こっそり賜魔術(アコード)を使ってくれたんだよね?! まじ神なんだけど!!」


 ……なるほど、そうくるか。

 斜め上を行く推理に言葉を失っていると、ヒメカがはにかみながら続ける。


「あの時、リィトが『念じろ』って言ってくれたから、あたしもノリで賜魔術(アコード)かませる気がしたんだケド……フツーに考えたら貰魔力(サレチカ)0のあたしにあんなコトできるわけないもんね。たまたまタイミングよくツバキ様が助けてくれたんだって、後で気付いたよ」


 ……違う。

 あれは、間違いなく君の力だ。


「やっぱりツバキ様はすごいなぁ。理事長やって、神律師(ハーモナイザ)のリーダーもやって、悪者退治までしちゃうなんて! 永遠の憧れ……まじでヒーローだよ」


 違うよ。みんなを救ったのは、君なんだ。

 君にはすごい力がある。

 だから……貰魔力(サレチカ)が0であることを恥じないでほしい。


 そんなセリフが喉まで出かかる。

 けど、思い留まる。


 もし、あの闇を払ったのが自分なのだと知ったら……アメノに対抗できる特別な力を持っていることを知ったら、ヒメカは間違いなく喜ぶだろう。

 そして、邪神徒(フェイスフル)との戦いに参加したいと言い出すに違いない。


 もちろん、ツバキさんも最終的にはそうなることを望んでいる。

 だからこそ、僕とバディを組ませたのだから。

 しかし、未だヒメカを正式な仲間には迎えていない。

 そこにはきっと、何かしらの考えがあるのだ。


 そうしたツバキさんの意向を抜きにしても、僕はまだ、ヒメカに本当のことを知ってほしくなかった。


 邪神徒(フェイスフル)との戦いは熾烈だ。

 肉体的な危険はもちろん、精神的な苦痛も伴う。

 奴らの目的は人の絶望を集めること。胸糞悪い事件を目の当たりにすることも多々ある。


 そんな世界に、ヒメカを引き込みたくなかった。

 この純粋な瞳を、無垢な魂を、穢れた現実で曇らせたくはなかった。

 だから……


「……そうだね」


 僕は、笑顔で嘘をつく。


「僕も焦っていたから混乱気味だったけれど……あれはツバキさんの賜魔術(アコード)だったと思う。早めに応援を要請して正解だったよ」

「だよねだよね! あのヒゲ(づら)のおっさんは逃げちゃったケド、それもツバキ様がすぐに捕まえてくれるっしょ! ライブは大成功だったし、まじ最高の一日だった!」


 ……そう。今はこれでいい。

 いずれ本当のことを知る時が来るとしても、今は、これで。


 僕は密かに胸を撫で下ろす。

 と、ヒメカがツンと唇を尖らせ、呟く。


「んまぁ……リィトから『キュン』がもらえてたら、もっともっと最高な一日だったんだケドね」


 ……ああ、そっか。そもそもそれが目的のデートだったね。いろいろありすぎて忘れてた。


「けっこうがんばったんだけどなぁー。けっきょく1キュンももらえず……はぁ、悔し」


 がくっと肩を落とすヒメカ。

 けど、それについてはちょっと思うところがあるよ。


「それを言うなら……僕的には途中でクラガノ君を誘ってほしくなかったんだけど」

「…………え」


 …………あれ。

 僕、何を口走っているんだろう。


「それって…………最後まで二人っきりでデートしたかった、ってコト?」


 ……そんな顔しないでくれ。

 こんな度量が狭いことを言うなんて、僕自身が一番驚いているんだから。


「……そうだよ。だって、デート中に他の男を合流させるなんて……普通に考えたらありえないでしょ?」

「う、たしかに。ごめん、ぜんぜん深く考えてなかった」


 だろうね。

 いや、何だ『だろうね』って。なにを拗ねているんだ僕は。


「……ねぇ、リィト」


 いたたまれなくて目を逸らす僕を、ヒメカが呼ぶ。

 そして、向かいの座席を離れ、すぐ隣に座ると、


「今から……ちょっとでも挽回させてもらえたりしない?」


 なんて、遠慮がちに聞いてくる。

 その困ったような上目遣いが可愛くて……僕は試すように聞き返す。


「挽回って……何をしてくれるの?」

「……リィトは、元カノと観覧車乗ったことある?」


 …………ここでそれを聞かれるとはね。


「……あるよ」

「キスとかした?」

「……した」

「唇に?」

「もちろん」

「その時、『キュン』ってした?」

「どうだろう……忘れたけど、たぶんしたんじゃないかな」

「そっか。じゃあ、あたしもする」


 …………マ?

 って、ヒメカの口調が移った。


 ヒメカは手を伸ばし、僕の眼鏡をそっと取る。

 それから、下ろしている前髪を掻き上げ……僕の瞳を露わにした。


「……最初のキスの授業ん時さ、リィト、言ってたじゃん。唇は身体の中で二番目に皮膚が薄いって。一番薄いのは、どこなの?」


 突然そんなことを聞かれ、僕は「え?」と聞き返す。

 ヒメカは緊張気味に眉を寄せると、僕をじっと見上げて、


「元カノが唇にしたんなら、あたしはもっと薄いトコロにする。リィトに一番近付ける場所にキスしたら……『キュン』ってしてくれるかもしんないから」


 …………何その発想。可愛いな。


「んで? 一番薄いトコって、どこなの?」


 縋り付くように尋ねるヒメカ。

 僕は、ちょっと悔しいような気持ちになって、


「……さぁ、どこだろうね。キスして当ててみてよ」


 なんて、意地悪に答えた。

 ヒメカの顔が、じゅわっと赤くなる。

 整った眉がハの字に下がる。ラメで飾った目が弱々しく揺れる。

 本当に、なんて初心(うぶ)なギャルだろう。


「う、薄いトコ……どこだ……?」


 言いながら、僕の顔をぺたぺた触りまくる。

 さては、ムードってものを知らないな?


「じ、じゃあ……目ぇ、閉じて?」


 蚊の鳴くようなその声に、僕は大人しく従う。


 目を閉じてみて、初めて気付いた。

 自分の鼓動が、少しだけ速くなっていることに。



 ……ツバメに裏切られたあの時、僕の恋心は完全に死んでしまった。

 だから、誰に何をされたって、もうときめくことはない。

 そう確信しているのに……


 もしかしたらもう一度、この心を『キュン』と生き返らせることができるんじゃないか、なんて……少しだけ、期待している自分がいて。



 ヒメカの手が、僕の頬を包む。

 閉じた瞼の向こうに影が落ちる。

 ふわりと香る、知っている匂い。

 思い出したくない記憶が()ぎり、見て見ぬふりをする。


 近付く体温。

 ヒメカは本気だ。

 思わず息を止め、その時を待つ。

 と……



 ――ちゅ……っ。



 彼女の唇が、触れた。

 優しく、遠慮がちに。


 ………………僕の、おでこの真ん中に。



 ……いや、おでこって。

 子どもの寝かしつけじゃないんだから。


「ど? 合ってた?!」


 開いた瞼の先で、わくわく顔のヒメカと出会う。


「むかし壁にぶつかった時、おでこがパッカーンて割れて、血がぶしゃーって出たの! 皮膚が薄いから切れやすいって言われたの思い出してさぁ。正解はおでこっしょ?」


 ………………このギャルめ。


 僕は、ヒメカの手首を掴む。

 そのまま、ぐっと顔を近付けて、


「残念。不正解」

「へっ? ってか、カオ近っ……!」

「正解を教えてあげるから……目、閉じて」


 低く言うと、ヒメカがびくっと震える。

 息がかかりそうな距離でその目を見つめていると……やがて覚悟を決めたように、きゅっと瞼が閉じられた。


 頬にかかるピンクの髪を撫で、耳にかけてやる。

 ぴくんと跳ねるヒメカの身体。

 右手はそのまま肩に、左手は顎に添え、くいっと上を向かせる。


 ……可愛くて無防備なキス顔。

 きっとこれを見たのは、僕が初めてだろう。

 そう思うと、なんだか気分が良かった。



 残念ながら、君では僕にかけられた呪いは解けなかった。

 けど、楽しかったよ。

 君とのデートは、本当に……楽しかった。



 その気持ちを込めて、僕はキスをする。

 優しく、慈しむように。


 人の身体の中で、最も皮膚の薄い場所。

 その正解は、(まぶた)


 グラデーションを描くアイシャドウの上にそっと口付けを落とすと、ヒメカが息を飲むのが聞こえた。

 続けて、『キュン』という電子音。

 僕の貰魔力(サレチカ)が溜まった音だ。


 唇を離しながら、僕は思わず微笑む。


「……君がときめいてどうするの」

「だ、だって……こんなん初めてだし……っ」

「そう。それは光栄だな」

「余裕すぎてむかつくっ……!」


 気付けばゴンドラは、まもなく地上に帰り着こうとしていた。

 僕たちのデートも、いよいよ終わりだ。


「でも…………よかったよ」


 ヒメカが、ぽつりと言う。

 視線で聞き返すと、彼女は照れ臭そうに笑って、



「……初デートの相手が、リィトでよかった。すっごく、楽しかったから。……また来たいな」



 頬を染めながら、そう言った。


 ……流石の僕も認めざるを得ない。

 今の言葉は、素直に嬉しかった。


 だから……


「……うん。僕も楽しかった。……また来ようね」


 約束は嫌いだけれど。

 今だけは……してもいいかもしれないと思えた。



 

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