ライブがはじまる
「――いやー、まさかこんなところで会うとは! なに、二人はデート?」
動画撮影中のホトギに偶然遭遇した僕たちは、シューティングアトラクションを後にし、昼食がてら遊園地内のカフェに入った。
「そっ、デート! つーかホトヤン、遊園地のレポとかもすんだね! まじマルチじゃん!」
「ここだけの話、案件なんだよね。遊園地の宣伝になるからって撮影依頼されてさ」
「へぇー、そういうのもあるんだぁ」
「ほんとは彼女も来る予定だったんだけど、今朝になってドタキャンされちゃって。ま、どっちにしろ顔出ししないからいいんだけど。あ、君らもちゃんと顔にモザイクかけるから安心してね」
ポテトをつまみながら、ホトギが言う。
二ヶ月ほど前、恋人ができたことを動画内で発表したらしいことは僕も知っていた。一部の女性ファンがアンチ化して炎上しているとネットニュースになっていたから。この様子だと、本人は気にしていないようだけれど。
ヒメカはタバスコをたっぷりかけたホットドッグを頬張りながら、ホトギに言う。
「んじゃあさ、この後も一緒に回ろうよ! 一人より三人のが楽しさ伝わるっしょ!」
「まじ? いいの?!」
……なんか、面倒な流れになってきたな。
「あとでアイドルやってる友達のライブがあんの! 同じ学院のコだよ! それも動画で扱えたりしない?」
「え、めっちゃイイじゃん! 撮れ高上がりそう! 運営さんに頼めば撮影許可もらえると思うわ!」
「やばー! 神展開! ホトヤンの動画に映れたらめっちゃ宣伝になるし、メルりん超喜ぶよ!」
嗚呼、トントン拍子に話が決まってしまった。
この二人、どうやら波長が合うらしい。
「リィトもそれでいい? 顔は出ないし、ヤじゃないかな?」
ヒメカが身を乗り出し、僕に聞く。
質問の体を成してはいるが、ノーが出ることなど想定していない様子だ。
「……いいよ。面白いこととか何もできないけど」
「いーのいーの! そこはオレの編集技術で絶対に面白くするから! 二人は普通にデートを楽しんで!」
デート……これ、まだデートと言えるのか?
まぁ、ヒメカが楽しいなら、それでいいか。
――ということで。
その後、僕たちは別のアトラクションに乗ったり、チュロスやソフトクリームを食べたり、もう一度ジェットコースターに乗ってヒメカがグロッキーになったりと、一通り回った。
ヒメカは、ずっと笑ってた。
とても楽しそうだった。
そうしている内に、メルリ・エンジュのライブの時間が近付いてきた。
* * * *
「――やっほーメルりん! やば! 超カワイイ!!」
ライブ前。僕たちは関係者しか入れない控え室を訪れた。
これも、案件で撮影に来ているホトギの権限だ。
「ヒメカ! リィトくんも! 来てくれてありがとう! 聞いたよ。ホトヤンの撮影が入るんでしょ?」
「そーなの! メルりんの魅力を全世界に発信する最高の機会だから、キラッキラに飛ばしてね!!」
アイドルらしい衣装を纏ったメルリの手をヒメカが握る。
メルリは嬉しそうに「うん!」と頷いた。
「り、リィトくんも……ライブ、楽しんでいってね。一番可愛い私を魅せられるよう、がんばるから!」
僕を見つめ、メルリが緊張気味に言う。
その視線に込められた熱量に疑問が残るが、僕は無難に「応援してるね」と答えておいた。
控え室を離れ、観客席へと向かう。
ヒーローショーなどもおこなう屋外ステージで、座席数は五百ほど。
飛び込みで来たらしいカップルや家族連れもいるが、大半はファンらしき人たちで埋まっている。
ソロのローカルアイドルとしてはそれなりに人気があるようだ。
「あっ、ここ空いてるよ! リィト、座ろ!」
右端の通路側の席を指差し、ヒメカが呼ぶ。
僕はそちらに向かいながら、客席の後ろに目を向けた。
ホトギは、最後方の関係者席にいる。
彼の存在が観客にバレたらライブどころではなくなるため、サングラスにマスクで変装したまま撮影に臨むようだ。
開演まであと十分。
このまま残りの席も埋まりそうだと、何気なく会場を見回した――その時。
後方の関係者席の端……階段状になった通路の上に、見覚えのある顔を見つけた。
あれは……先日の、いかがわしい撮影会の主催者。
メルリとヒメカを無理やり連れて行こうとした、あのスーツ姿の男だ。
その側にもう一人、柄の悪いヒゲ面の男がいる。
その顔を見て……僕は全身を緊張させた。
ライゼント学院に入学する前、僕は理事長のツバキさんの指示で邪神徒――邪神アメノの信者たちを捕らえる任に就いていた。
半年ほどでかなりの人数を捕らえたが、中には取り逃した者もいる。
あのヒゲ面男は、逃した内の一人だった。
メルリの撮影会を主催していた男が、邪神徒と繋がっている。
そして今、この会場にいる。
それらが示す可能性を考え、嫌な汗が背中を伝う。
ツバキさんの応援を待つ時間はない。
事が起こる前に、動かなければ……
「……ト。リィト。どうしたの?」
呼びかけられ、はっとなる。
ヒメカが不安げな表情でこちらを見上げていた。
僕は一呼吸置いてから、彼女に耳打ちする。
「……ヒメカちゃん。落ち着いて聞いて。この間、エンジュさんを連れ去ろうとした男が会場にいる。しかも、邪神徒と一緒だ」
「マ?!」
「しっ。たぶん先日の撮影会を反故にした腹いせをしに来たんだ。このライブを妨害して、エンジュさんを絶望させる……そうして発生した負の感情をアメノの餌にするつもりなんだろう」
「え……!」
「僕は今からあの男たちを追う。ヒメカちゃんはここで待ってて」
ヒメカには賜魔術を顕現するための貰魔力がない。
その上、先日あのスーツの男に怖い目に遭わされている。幼少期にアメノの力の片鱗を見て、その恐怖も体感済みだ。
だから、巻き込むつもりはなかった。
せっかくのデートに、嫌な思いをしてほしくなかったから。
けれど……ヒメカは僕を見つめて、
「はぁ?! あたしも行くに決まってんじゃん! だって、あたしらバディだよ?!」
真っ直ぐに、そう言った。
その瞳には恐怖も迷いもまるでなくて……止めたとしてもついてくることが容易に想像できた。
僕の胸に、驚きと嬉しさが混ざったような、妙な感覚が込み上げてくる。
近い言葉を挙げるなら……『心強さ』かもしれない。
「……ありがとう。まずはツバキさんに連絡する。それが済んだら、行動を開始しよう」
ヒメカは頷き、「わかった!」と答えてくれた。




