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笠地蔵~理解不能編~

 昔々あるところに、お爺さんとお婆さんが住んでいました。


 二人の家は現在、金欠状態です。もうすぐお正月がやって来ますが、このままでは餅すら食べられません。


「餅のない正月なんて、卵入れてないラーメンも同然! わしゃ嫌じゃ!」

「ええ、全くですお爺さん! 紅しょうがの入ってない牛丼みたいですよ!」

 微妙な例えを引き合いに出しながら、二人は頭を抱えて嘆きます。なくても割と大丈夫なんじゃないでしょうか。


 しかし、嫌なものは嫌なのです。どうしても正月に餅を食べたいお爺さんは、笠を編んで町へ売りに行く事にしました。


「ほいさっさ、と。……良し出来たっ! これなら売れるわい!」

「素敵ですよお爺さん! これでガッポリウハウハですね!」

 手早く笠を五枚編み上げたお爺さんに、お婆さんは黄色い声援を上げます。取りあえず、笠五枚程度でガッポリウハウハは無理だと思います。


「いざ町へ! 待っておれ、餅!」

「待ってますわ、餅!」


 火打ち石をガンガン打ちまくるお婆さんに見送られ、お爺さんは勢い良く家を飛び出しました。彼の行く手には厳しい寒さと降りしきる雪が待ち構えていました

が、餅の魅力に取り憑かれたお爺さんにとってその程度の障害は屁でもありませんでした。


 風を切り裂き雪を掻き分け、お爺さんは爆走します。視界の片隅を流れるお地蔵様など、意にも介しません。


「はい到着! 笠は要らんかねー!!」

 町に着くなり、声を張り上げます。お爺さんの脳裏には、完売した笠の代わりに餅を抱えた自身の姿が、ありありと映し出されていました。






「何故じゃ……。何故売れんかった……」

 現実は非情でした。結局、一枚も売れなかった笠を背に、お爺さんはトボトボと家路に就いていました。


 凍て付くような吹雪がお爺さんを容赦なく襲い、重く降り積もった雪がお爺さんの歩を阻みます。行きは何とも思わなかった障害が、傷心の今のお爺さんにはとてつもない負担に感じました。


「おや? あれは……」

 お爺さんの足が、はたと止まります。


 そこには、頭に雪の降り積もった六体のお地蔵様が並んでいました。行きにも見掛けていたはずですが、その時は期待に浮き足立っていたため、全く眼中にありませんでした。

 しかし、餅の期待を打ち砕かれ沈み込んだ心に、その光景は不思議と憐憫れんびんを誘うものがありました。


「おお、こんなところで雪を被って寒かろうに……」

 呟き、お爺さんはお地蔵様の頭の雪を払います。


「そうじゃ、売れ残りで悪いが、この笠をお与えしよう」

 背中の包みを解き、お爺さんは自作の笠を取り出しました。


「これらはワシの自信作、どうぞお納め下され」

 そう言って、手始めに一番右のお地蔵様へと、『柔術』と書かれた笠を被せました。


 ええ、『柔術』と書かれた笠です。何だか売れ残った理由が、分かったような気がします。


「それにしても、何故売れんかったんじゃろう……」

 言いながら、次のお地蔵様に『私は佐藤ではありません』と書かれた笠を被せます。


 もう確実に売れ残った理由が分かりました。確かに、佐藤ではないかも知れませんけれども。


「さあさ、これで雪を凌いで下され」

 次のお地蔵様には『クールな私のように』と書かれた笠を被せます。お爺さん、お客に対しコレを町中で被れと言ってたんですか。


「さあ、どうぞ」

 次のお地蔵様には『喧嘩いらっしゃいませ』と書かれた笠を被せます。修羅道を歩んで行きたい人にはおすすめかも知れません。


「どうぞどうぞ」

 次のお地蔵様には『静けさカルマ』と書かれた笠を被せます。もはや、理解は宇宙の彼方へと飛び去って行ってしまいました。


「もう笠がないので、代わりにこの風呂敷をどうぞ」

 最後のお地蔵様には笠を包んでいた風呂敷を頭に結びます。『匂いをかがれるとすぐにプリンセス』と書かれていました。理解が時空の壁すら突破してしまいました。


 何はともあれ、お爺さんは全てのお地蔵様に笠&風呂敷を被せ終わりました。良い事をしたと、お爺さんの気持ちも少しは晴れました。幾分か軽やかな足取りで帰路に就きます。


「お帰りなさいお爺さん! さあ、餅!」

 ハイテンションで迎えたお婆さんに、お爺さんは笠が売れなかった事、帰りにお地蔵様に売れ残った笠を被せてあげた事を説明します。


「……そう言う訳で、正月の餅は諦めてくれ」

「流石は優しいお爺さん! 惚れ直しましたわ!」


 結局、お爺さんをベタ褒めするお婆さんなのでした。






 そして元日の朝。


「……おや? この音はなんじゃ?」

「何でしょうね、お爺さん!」

 何やら玄関先が騒がしいのに気が付き、お爺さんとお婆さんは目を覚ましまし

た。起き掛けから飛ばしているお婆さんでありました。


 首を傾げながらもお爺さんは扉を開けます。そこには――


「おお!? 何じゃ、この大量の餅は!?」

「米俵や飾りもありますよ、お爺さん!!」


 山のように積み重なった米、魚、肉、野菜と言った食材や、正月用の飾り、更には背中側に『I HATE MONDAYS』『PRECISE DWARF BRAVERY』とそれぞれ書かれた、二枚のはんてんが鎮座していました。


 一体、誰が? 疑問に思った二人が辺りを見渡します。すると、


「あ、あれは、この間のお地蔵様達じゃ!!」

 次第に遠ざかって行く、笠を被ったお地蔵様達の後ろ姿が映りました。


「まあまあ! きっと、お地蔵様達が笠のお礼に下さったんですよ!!」

「おお、ありがたやありがたや!!」

 すっかり小さくなったお地蔵様達に向かって、大興奮のお爺さんとお婆さんは手を合わせて感謝をしました。


 その後二人は大喜びで正月の準備を済ませ、念願の餅をたらふく食べる事が出来ましたとさ。


 めでたし、めでたし。






 ――追伸。


 I HATE MONDAYS(僕は月曜が嫌い)

 PRECISE DWARF BRAVERY(正確なドワーフの勇気)


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