三匹の子ブタ~創意工夫編~
※ここから新作です。
昔々あるところに、三匹兄弟の子ブタが住んでいました。
子ブタ兄弟それぞれの名前は、長男は大ブタ丸、次男は中ブタ丸、三男は小ブタ丸です。
これであと一匹猿ブタ丸が居たら、プロのゴルファー的な物語になっていたかも知れません。危ないところでした。
それはともかくとして。
ある日三匹は、自分達の家をそれぞれに建てようと思い立ちました。
「良っしゃあ! なるたけ楽して手軽に建てたるでー!」
と、大ブタ丸は頬をパンパンと叩きながら、志の低い叫びを上げます。
「ふふふ、私の知性を駆使して、適当にそれっぽい家を建てて見せましょう!」
と、中ブタ丸は眼鏡をクイッと上げながら、まるで知性を感じさせない宣言をします。
「一生懸命頑張って、良い家を建てるぞ!」
と、子ブタ丸は特にひねりがないながらも、一番やる気に満ちた目標を掲げま
す。
早速、作業開始です。三匹は各々に動き始めました。
「「「やった! 完成だ!」」」
もう終わりました。いくら何でも早すぎます。恐るべきブタ達の建築技術です。
まあ、ご機嫌な三匹の姿を見れば、余計な突っ込みなど野暮と言うものなのかも知れません。ここは素直に喜んでおきましょう。
「オレはオオカミ! 腹が減ったから、子ブタが食べたいぞ!」
いやだから、展開が早すぎます。「巧遅より拙速の方がエライっしょ」と謳った孫子もビックリの早さです。
まあ、それは良いです。突然現れたオオカミに、
「ド、ドヒャーッ!! これはピンチやでぇっ!!」
と大ブタ丸。驚いた時のリアクションとしては、「ドヒャーッ」は古過ぎます。
「オオカミ!? オオカミナンデ!?」
と中ブタ丸。そんな驚き方をすると、何かが出て殺しそうですから注意して下さい。
「うわあっ!! 逃げろっ!!」
と子ブタ丸。面白みはありませんが、実に正しい反応です。
三匹は慌てて、それぞれの家に逃げ込みます。それを追うオオカミは、手始めに大ブタ丸の家に狙いを付けました。
「あ、あっち行けー、オオカミ! ワイは美味しくないでー!」
「美味しいかどうかは食べてから判断してやる! この程度の家など、オレが吹き飛ばしてやるぜ!」
そう言ってオオカミは大きく息を吸い込みます。そして、肺に溜め込んだ空気を一気に吹き付けました。
その風圧たるや、かなりのものです。オオカミの息は、千切れ飛んだ草を舞わせながら、大ブタ丸の家に襲い掛かりました。
「はっはー! 藁で造った家など、オレの息の前には無力……」
言い掛けて、止まります。
大ブタ丸の家は、ビクともしていませんでした。
「あ、あれ……? 何で……?」
「ふふんっ! 誰が藁で家造ったなんて言うたんや! ワイの家はな――」
戸惑うオオカミに、大ブタ丸は勝ち誇ったように叫びます。
「――オスミウム製の家なんやで!!」
「何じゃそら!?」
オスミウム。原子番号76の元素で、世界一比重の大きい金属です。具体的には同体積の水の約22倍重いです。鉄が水の約8倍の重さである事を考えると、どのようなものかが分かると思います。
当然、その重量は藁とは比べものにもなりません。あと、手軽に家を建てる事には向いてません。
「どうやー! 吹き飛ばせるもんなら吹き飛ばして見いやー!」
「ぐぬぬ……」
窓から身を乗り出し挑発する大ブタ丸を、オオカミは歯噛みしながら睨み付けます。
「……て言うか身を乗り出しているんなら、引っ張り出せば良いだけだよな」
「あーれーっ!?」
調子に乗って初歩的なミスを犯した大ブタ丸を、オオカミは引きずり出しまし
た。
「食われてたまるかいなー!」
「うわっ! こら、暴れるな!」
大ブタ丸は全力で抵抗し、オオカミの拘束から何とか脱出出来ました。そのま
ま必死になって走り、中ブタ丸の造った家に転がり込みます。
「助けてー、中ブタ丸ー!」
「良いでしょう。私の建てた家の凄さを、オオカミ共々思い知りなさい!」
ここぞとばかりに眼鏡をキラリと光らせ、中ブタ丸は叫びます。そうこうしている内に、オオカミがやって来ました。
「今度は逃がさんぞ! この程度の家なんて、オレが叩き壊してやるぜ!」
そう言ってオオカミは、一旦距離を取ります。そして全力で駆け出し、体当たりを仕掛けました。
その勢いたるや風を裂かんばかりです。足元の土を蹴立てながら、中ブタ丸の家へ弾丸の如く襲い掛かりました。
「はっはー! 木で造った家など、オレの体当たりの前には無力……痛ったあーーっ!?」
はね返され、悶絶します。
中ブタ丸の家は、ビクともしませんでした。
「痛たた……。な、何で……?」
「ふふふ、誰が木で家を造ったなんて言ったんですか! 私の家は――」
よろめきながら立ち上がるオオカミに、中ブタ丸は勝ち誇ったように叫びます。
「――カルビン製の家なんですよ!!」
「いや、知らねえよ!?」
カルビン。炭素原子を鎖状に繋げた物質で、この世で最も硬いと言われていま
す。具体的には、かのダイヤモンドの3倍もの硬さを誇ります。ちなみに、ダイヤモンドよりも硬い物質は、天然の鉱石にもロンズデーライト等が存在します。いつの間にやら、硬さ世界一の座から転落していたダイヤモンドなのでありました。
当然、その頑丈さは木とは比べ物になりません。あと、量産化の目処すら立っていないため、適当に建てる事には向いていません。
「いかがですか! 壊せるものなら、壊してみなさい!」
「むぐぐ……」
ふんぞり返って挑発する中ブタ丸に、オオカミはわなわなとその身を震わせま
す。
中ブタ丸は、窓から身を乗り出すような失策は犯しません。窓ガラスも防弾性の代物らしく、試しにオオカミが石を投げ付けても、全く割れる気配がありません。もちろん、ドアにはキッチリと鍵を掛けています。
これなら完璧です。オオカミも、もはや諦めるしかないでしょう。
「宅急便でーす。鍵開けて下さーい」
「はーい、ただいまー」
「アンタら兄弟、実はアホだろ?」
「ひ、卑怯ですよ!?」
しょっぱい演技に騙された中ブタ丸がドアを開けた瞬間、オオカミは体をドアの隙間に滑り込ませました。こう言う事もあるので、特に海外へ旅行に行った時、ホテルの部屋のチェーン錠は掛けておきましょう。
「あ、あかーん! それ逃げろー!」
「私を置いて行かないで下さーい!」
「あ、こら! 逃がすかー!」
室内に侵入された時点で勝ち目はないと踏んだ大ブタ丸が、慌てて窓から逃げ出します。中ブタ丸もそれに続き、最後にオオカミが追い掛けます。
「「助けてー、子ブタ丸ー!」」
「うん、分かった!」
子ブタ丸は叫び、兄二匹を匿います。それから間を置かず、オオカミがやって来ました。
「さあ、次はどんな家だ! 今度こそ、ぶっ壊してやるぜ!」
何だか趣旨が変わっているような気がしますが、とにかくオオカミは気合十分です。腕をグルグルと回しながら、子ブタ丸の家を見据えました。
「…………て言うか、家どこだ?」
見据えようにも、肝心の家が見当たりません。広い野原にブタ三匹が立ち尽くしているだけです。
「ああ、うん。それはね――」
呆然とするオオカミに、子ブタ丸は語ります。
「――このノートPCの中に収まっているよ」
「まさかの二次元!?」
子ブタ丸が開いたノートPCの画面には、ゲーム内に作られた子ブタ丸自慢の家が映し出されていまし
た。いわゆる『サンドボックス型』と呼ばれる、自身で集めた素材を駆使して自由に『ものづくり』が楽しめるタイプのゲームです。ぶっちゃけ、マ◯クラです。
「ほら、ここ見て。この辺の作りには特にこだわったんだよ」
「いや聞いてないし、そもそもオレ、この手のゲームは酔いやすいんだよ!?」
家と呼ぶには規模も内外装も壮大過ぎる作品を、子ブタ丸は喜々として見せびらかします。主観視点の3D画面が遠慮会釈なくグリングリン動き回る光景に、オオカミは悲鳴を上げました。『3D酔い』と呼ばれる乗り物酔いに似た症状で、駄目な人は本当に駄目なのです。
「ち……ちくしょー、覚えてろー!」
吐き気を堪えながらそう言い捨て、とうとうオオカミは逃げ去って行きました。
「やった! オオカミを追い払ったぞ!」
見事に危機を乗り越えた子ブタ丸は、大喜びです。
「ええやんけ! 流石ワイの弟や!」
「ふふふ、今回ばかりはその実力を認めざるを得ませんね」
二匹の兄も、微妙に上から目線で褒め称えます。
こうして、三兄弟に平和が戻って来ましたとさ。
めでたし、めでたし。




