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浦島太郎~飛翔編~

 昔々あるところに、浦島太郎と言う漁師の青年が住んでいました。


 ある日、「今日もガンガン釣るぜー」と砂浜を歩いていると、一匹の亀が子供達に取り囲まれている場面を目撃しました。


「こらこら君達、亀をイジメちゃいけないぞ」

 浦島が子供達へ声を掛けます。すると、


「ん? 兄ちゃん、これは別にイジメている訳じゃないよ?」

 子供達の内の一人が、そう答えました。


「じゃ、何をしてるんだい?」

「うん、無限1UPごっこ」

「実質イジメと変わらないね」


 世の中には『亀を延々踏み続けて自身の総数を増やす』と言う技術が存在していますが、それは悪の亀一族に祖国を侵略された配管工にのみ許される、特別な技術なのです。皆さんは極力真似をしないで下さい。


「ほら、お小遣いをあげるから、亀を離してあげなさい」

 そう言って浦島は、金銭での解決を図ります。大人ですね。


 棚ボタラッキー的にお小遣いをゲットした子供達は、大喜びで亀を解放し、立ち去って行きました。


「い、いやー助かった。そこの人、ありがとうございます」

「大丈夫だったかい」


 ペコリと一礼する亀に向かって、浦島は声を掛けます。なお、亀が人語を話す件については特に触れない模様です。大人ですね。


「後日、お礼に伺いますね」と言い残し、亀は海へと帰って行きました。






 数日後。


「ああ居た居た、こないだの人。あなたに助けてもらった亀です」

 浦島が海に出て漁をしていると、何時ぞやの亀君が水面から顔を覗かせ、話し掛けて来ました。


「僕は普段、海の底にある竜宮城と言うところに住んでいるのですけれども、今回の件を主である乙姫様に伝えたましたら『ぜひともお礼がしたい』との事でした。案内しますので、僕の背中に乗って下さい」

 そう言って亀君はその背をぷかりと浮かべます。


「本当かい!? いやあ、ありがとう!」

 太郎は喜んで亀君の背中に乗りました。


「じゃあ、しっかり掴まってて下さいねー。……あ、あと」

「ん?」


「人間は海中で呼吸出来ないと思いますけど、そこは気合で我慢して下さい」

「いや無理だよ!?」


 ちなみに、人間の潜水時間の限界は、道具なしで二〜三分と言われています。


「それと、水圧で肺が潰されると思いますけど、そこは根性で我慢して下さい」

「て言うかさ、招待客に気合や根性を要求する事が、まず間違ってると思うんだけど!?」


 ちなみに、人間の体細胞は大部分が水分であるため、生身であっても四千メートルくらいまでは水圧で潰れません。潰れないだけで、快適であるとは言ってませんが。


「じゃ、早速行きましょうか」

「いや、やっぱ降ろして!? って、もうヘソの辺りまで沈んでるし!? ちょっと亀君、待った待った待ゴボガボ!?」


 口が海中に沈んでしまっては、言葉を伝える事も出来ません。嫌でも気合と根性を発揮せざるを得ない浦島なのでした。






「はーい、到着ですよー」

「……良く生き延びたな、俺……」

 息も絶え絶え、浦島は呟きます。思いの外、気合と根性は万能でした。


「しかし……これが竜宮城か……」

 浦島と亀君の眼前には、それはそれは豪華で美しい御殿ごてんが海底にそびえ立っていました。きらびやかなその佇まいに、これまでの苦労が吹っ飛ぶ思いでした。


 何よりも素晴らしいのは、周辺に不思議な力が働いているため、普通に呼吸も会話も出来て水圧の心配も要らない事です。普通って素敵だと、浦島は思いました。


「乙姫様ー。お話した人間を連れて来ましたよー」

 亀君がそう言うと、大きな門がゆっくりと開いて行きます。そして奥から、一人の美しい女性が姿を現しました。


「ようこそいらっしゃいました。私が竜宮城の主、乙姫です。この間は亀を助けて頂き、本当にありがとうございます」

 そう言って乙姫様は優雅に一礼します。そして、浦島を広間へと案内しました。


「お礼に、宴の席を用意致しました。どうぞお楽しみ下さい」

 乙姫様の合図と共に、魚達が浦島の元へ豪勢な料理を次から次へと運んで来ました。


「おお!? これは美味そうだ!」

 浦島は感嘆します。ジューシーな肉料理に、みずみずしい野菜を使ったサラダ、香ばしい湯気を立ち昇らせるスープ。見ているだけでヨダレが出て来るようです。


 ……ところで、魚達が「たーんと食べて下さいね」と並べて行く料理の中に、普通に魚料理も混ざっていますが、竜宮城的にはOKなのでしょうか。まあ、タコ焼き屋のチラシに『タコ焼きを作るタコ』のイラストが描かれている事がありますから、それと同じようなノリで大丈夫なのでしょう。多分。恐らく。


 閑話休題。浦島が料理を食べていると、音楽と共にタイやヒラメが踊り始めました。ハートに響く音とキレッキレな動きのダンスは、浦島のテンションをガンガン上げて行きます。食事もそのままに彼は舞台へと上がり、一緒になって踊り狂います。


「ここは正に天国だよ……! 超楽しい、もっとここに居たい!」

「どうぞどうぞ、今晩は泊まって行って下さいな!」


 一緒になってラインダンスを踊りながら、浦島と乙姫様はそう叫ぶのでした。






 居過ぎました。気が付けば、三年経っていました。


「あ、あのさ乙姫様。流石にそろそろ帰らなくちゃいけないかなー、って……」

 ある日、意を決した浦島は乙姫様にそう伝えました。すると、


「い、いえいえ太郎さん。何でしたら、ずっとここで暮らしても良いんですよ的な何かがどうたらこうたら……」


 あからさまに顔を明後日の方向に向けながら、乙姫様はそう返しました。そりゃもう全身から、やらかしちゃった人間特有の『やっべ、この状況凄いピンチ』オーラを醸し出しながら。


 不審に思いつつも、浦島は「家族や友人が心配しているだろうし」と帰る意思を曲げません。何故だか必死になって留まるよう説得していた乙姫様も、遂に折れました。


「少しお待ち下さい」と席を外した乙姫様が帰って来た時、その手には黒光りする漆器の箱が抱えられていました。


「これは『玉手箱』と言います。これを太郎さんにお渡しますけど、絶対に開けないで下さいね」

「……? 何故です?」

「絶対です。絶っっっ対ですよ」


 笑顔の奥から必死さがにじみ出る乙姫様の様子に、それ以上浦島は追求する事を止めました。そして来た時と同じく、亀君の背に乗って地上へと帰りました。潜水具を借りたので、帰りはそこそこ快適でした。






「ここが俺の住んでた村……? たった三年で変わり過ぎてないか……?」

 砂浜に降り立つなり、浦島は違和感を感じます。地形こそ故郷の海岸に違いありませんが、家屋や樹木の配置等、その風景はガラリと変わっていました。


 不安を感じた浦島が、周辺住民へと聞き込みを行います。その結果判明したのは――


「……何てこった。俺が竜宮城で暮らした三年の間に、こっちでは七百年も過ぎているじゃないか!!」

 にわかには信じがたい、しかし周囲の状況からもはや否定しようがない事実を前に、浦島は衝撃に打ちのめされます。


「……そ、そうだ、玉手箱! これを開けてみれば、何とかなるかも……!」

 言うなり浦島は玉手箱の紐を解きます。『絶対に開けるな』と言う乙姫様の忠言も、七百年ショックを前に彼の頭からすっかり抜け落ちてしまっています。


 蓋に手を掛け、そのまま開け放ち――


「うわっ!? な、何だ!?」

 瞬間、玉手箱の中から、モクモクと白い煙が立ち昇りました。浦島の視界が、あっと言う間に遮られてしまいます。


「あああああっ!? 開けちゃいましたかーーっ!!」

 煙が晴れると共に、亀君の叫びが聞こえて来ました。浦島を地上に送り届けて、すぐに海へと帰ったはずでしたが。


「ど、どうしたんだい亀君。帰ったんじゃないのか?」

「いえ、乙姫様からの手紙を渡し忘れちゃいまして……。でも、少し遅かったみたいで……」

 気まずそうに亀君が手紙を差し出すのを、浦島は首をひねって受け取り、読み始めました。


『浦島太郎さんへ。直接言うのは罪悪感が大きいので、手紙で伝えさせて頂きま

す。

 帰ったらすぐに気が付く事だと思いますが、竜宮城と地上では時間の流れが大きく異なっています。来た時にすぐこの事を伝えるべきだったのですが、大はしゃぎする太郎さんを前に切り出す機会を逸してしまいまして、いつの間にやら引き返せない状況になってしまいまして……』


 読みながら、竜宮城での日々を思い返します。確かに『サイコー! 明日も歌って踊るぞー!』と言っている時に、乙姫様が何か言おうとしてやっぱり止める、と言う事が何度かあった記憶があります。


『お渡しした玉手箱には、太郎さんが本来取るはずだった『年齢』が封じてあります。それを開けない限り太郎さんが歳を取る事はありませんが、開けた瞬間一気に歳を取ります。七百年分ですので、ぶっちゃけ数分も生きられないくらいに老いるでしょう』


「なるほど、なるほど。つまり玉手箱を開けちゃった俺は今ヨボヨボの老人になっていて、あと数分で死ぬ運命ええええええええええええええええええええっ!?」


 浦島は手鏡を取り出し、急いで己の顔を確認します。鏡の向こうには、シワだらけの顔と一本残らず白髪となった頭の、完膚なきまでに老人と化した自身の顔が映し出されていました。


「な、何という事なんじゃ……。これが、ワシなのか……」

「嘆きつつも、口調変えるくらいには冷静なんですね……」

 亀君からの突っ込みはスルーし、浦島は手紙の続きを読みます。


『その玉手箱を開けずに正しく使えば、竜宮城へと戻って来る事も出来ます。こうなった責任は私にあるので、その場合ずっと面倒を見るつもりです。ですが、どうするかは太郎さんにお任せします。

 最後に。本っっっ当にごめんなさい。 乙姫より』


 手紙を読み終えた浦島は、一つ大きなため息を付きます。確かに、乙姫様にも責任があるかも知れませんが、故郷の事を忘れて三年も暮らしていた自分にも責任があると、彼は思っていました。


 竜宮城へと戻る事が出来るという玉手箱も、開けてしまいました。手紙の内容から察するに、これでは戻る事も出来ないのでしょう。


「しかし、ワシはもう死ぬのか。実際にはまだ二十代なのに……」

「あー、それでしたら……」

 うなだれる浦島に、亀君が提案をします。


「鶴になりましょうよ、浦島さん。鶴の寿命は千年と言いますから、単純計算であと三百年は生きられる事になりますよ」

「おお、なるほど! じゃあ早速、鶴になろう!」


 そう叫ぶや否や、浦島は一羽の美しい鶴へとその姿を変えます。そうして亀君に見送られながら、何処いずこかの空へと飛び立って行きました。






 童話や昔話と言ったものには、何らかのメッセージ性が含まれる事もあります。幼年向けの教育的内容である事もしばしばですが、時折人生において大切な事柄が示唆されている事もあります


 今回見た『浦島太郎』からも、学ぶべき大切な事が存在します。私達はこのメッセージをしっかりと受け止め、心に留めるべきではないでしょうか。


 そう――『困ったら鶴になれ』と言う、大切なメッセージを。


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素晴らしい教訓! 笑 なるほど、鶴になればまだまだ生きられるんですね…
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