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予選の物語2

 7月19日(日)


 今日は予選の第2回戦だ。今日の相手は並樹高校だ。この高校は基本3回戦くらいまでしか進んでいない中堅校である。


 だからなのか今日の先発投手はエースの滝川先輩ではなく橋本先輩だった。まあ、オーダーとしては前回の試合とほとんど変わっていない。強いてあげるのなら6番と7番が入れ替わったくらいである。


 それでも一応オーダーを記入しておこうと思う。


 1番ショート千代田先輩。右投げ両打ち

 2番レフト名護先輩。右投げ右打ち

 3番サード黒石先輩。右投げ右打ち

 4番ファースト神戸先輩。右投げ左打ち

 5番キャッチャー小田原先輩。右投げ右打ち

 6番ピッチャー橋本先輩。右投げ左打ち

 7番ライト福岡先輩。右投げ右打ち

 8番セカンド松山先輩。右投げ左打ち

 9番センター日野先輩。右投げ右打ち


 まあ、こんな感じである。というか惜しいな。もう少しで左打者と右打者が交互に並ぶジグザグ打線だったのに。けどまあ比較的バランスの良い打線ではあるよな。


 しかしまたもやベンチか。1回戦ではコールドを決めるホームランを打ったのだけどあれだけじゃアピールとしては不十分だったのかもしれない。


「今日の試合としては橋本は公式戦という空気に慣れろ。そうだな……とりあえず6回3失点以内を目指せ」

「はい!」

「さて打線としては前回同様に大量得点を期待する。ベンチメンバーもいつでも行けるように準備しておけ」

「「「はい!」」」


 監督の言葉からしてチャンスはすぐに来るだろう。まあ、打線が爆発しちゃったら出番はなさそうだけど。さて、気を取り直してプレイボールだ。


 今回は裏の攻撃だ。つまりはまずは守備から入ることになる。


 マウンドに橋本先輩が上がる。なんだかものすごく緊張した面持ちだな。まあそれもそうかもしれない。橋本先輩は今回初めてベンチメンバーに選ばれており公式戦はこれが初めてらしいからな。


 まあ、今回は乱打戦の予感がする。どうにか橋本先輩には頑張ってもらいたいものである。


「プレイボール!」


 審判が試合開始を告げる。ああ、とうとう始まってしまったか。橋本先輩大丈夫かよ。俺達、ベンチメンバーが見つめる中、橋本先輩が第1球目を投げた。


「ボール!」


 初級はボールとなった。だけどきわどいとこに行ってるし早めにストライクが取れれば案外とんとんといくかもしれない。


 第2球目を投げる。2球目はすっぽ抜けたのか明らかなボールで0ストライク2ボール。バッター有利なカウントだけどここはど真ん中でもいいからストライクが欲しいところだな。


 第3球目はインコースに行ったがここも外れて0ストライク3ボール。次、ボールなら先頭打者を四球で歩かせる最悪な展開だ。


 4球目は変化球を投げたがこれも明らかなボール球で先頭を四球で1塁に歩かせてしまった。


「まずはストライクだ!打たれても気にすんな!」


 内野から橋本先輩に激励が飛んでいるが緊張の色がますます濃くなるばかりだ。


「あれは逆効果になってないか?」

「そうだな。とりあえず大量失点も覚悟しないとだな」


 監督も同じようなことを思っていたようだ。けどまあ、まだ点を取られたわけじゃないし何とかここから立ち直って欲しいものだ。


「ボール!」


「ボール!」


「ボール!」


「ボール!」


「フォアボール!」


 しかしそんな俺の思いとは裏腹に橋本先輩は2番にも四球を与えて無死1,2塁のピンチを招いた。これ以上の四球はマジでご法度だろう。


 橋本先輩も同じことを考えたのだろう。相手の3番に対して完全に置きに行ったボールを投げた。そんな甘い球を逃してもらえるはずもなく完璧に捕らえられた。


 打球はどんどん伸びていってフェンスにダイレクトだ。その間に2塁ランナーが帰って1点先制されてしまった。しかも無死2,3塁のピンチである。しかもここで相手の4番とかアウトすぎる。


 しかしここでキャッチャーの小田原先輩は立ち上がった。まさか敬遠すか!俺は目を見開いて小田原先輩を見ていた。ここで敬遠なんてしたらさらに失点の可能性が増えるぞ。


 とにかく4番敬遠で無死満塁。ここで相手は5番打者だ。


 橋本先輩は初球ど真ん中に投げた。これでストライク。ようやくカウントを取れたって感じだ。2球目はカーブで引っかけさせた。


 しかしそのせいで定位置で守っていた内野手がダッシュする羽目になり1つのアウトしか取れなかった。しかも相手に2点目を献上するおまけ付きで。


 だけど橋本先輩からしたらこのアウトは何よりも価値のある物だろう。


「ようやく1アウトを取ったか」


 監督も少し安堵したようである。


 次に対戦するのは6番。6番に対しても攻めの投球を見せて2ストライク2ボール。そこからの5球目を投じる。


 投げたのはストレート。これに対して6番はジャストミートしたがフェンス手前で失速。ライトのグラブ内に収まった。


「よし!」


 ランナーがそれぞれタッチアップで進塁、ホームインして0-3の2アウト3塁とされてるものの橋本先輩らしい投球が見られるようになってきた。


 続く7番。1ストライク0ボールからの2球目、軽くバットに当てられた打球は内野の頭を越えてセンター前に落ちた。これで4点差となってしまったがこっからなら大丈夫だろう。


 8番をセカンドゴロに打ち取って長かった1回の表が終わった。


「橋本。最初こそバタついたが5番に対してから良くなっていた。その投球を続けろ」

「はい!」

「さて4点差だ。だがこの打線なら簡単にひっくり返せる点差だ。さあ、全力で打っていけ!」

「「「はい!」」」


 普通なら4点差ってのは結構厳しいものなんだけどな。なぜだか全然ピンチに見えない。


「よっしゃー!」


 先頭打者の千代田先輩が初球打ちでレフト前ヒット。早速無死1塁の状況を作り出した。


「良いぞ!」


 2番の名護先輩も意表をついたセーフティーバントであっという間に無死1,2塁のチャンスだ。


「さすがはうちの打線だな」


 得点を取ったわけでもないのに監督はご満悦である。まあ、ここまであっさりチャンスを作ってくれるのはありがたいからな。


 3番の黒石先輩は1ストライク3ボールから5球目を打った。打球は三塁線へ強烈なのが飛んでいく。


 抜けた!と思ったが3塁手が横っ飛びで打球を止めた。だけど黒石先輩がジャストミートした打球を簡単に取れるはずもなく打球をショートの方へ弾いた。


 あんな横っ飛びからショート方向へ弾いたことに驚きだがショートがボールを取るころにはオールセーフで満塁である。ここで我らが主砲、神戸先輩の登場だ。


「ホームランで同点だな」


 俺は誰に聞かれることのない声量でそう言った。


 神戸先輩は相手の球筋をキッチリ見極め0ストライク3ボールまで来た。これは押し出しもあるな。


「うおりゃあ!」


 そんな声が聞こえてきた。俺が神戸先輩のほうを見ると既にガッツポーズをしながら1塁を回っていた。塁審は手をぐるぐるとまわしている。


 つまりは同点の満塁ホームランだ。これで試合は振り出し、むしろ一気にこちらが優位に立った。なんせ橋本先輩は復調の兆しを見せたが相手はそうじゃない。単純な実力不足でこうなっているからな。


 俺の読み通り小田原先輩は凡退したものの借りを返さんとばかりに橋本先輩はレフトへ勝ち越しのソロホームランを放った。これがチーム第3号。


 前回はコールド勝ちもホームランは俺の1本だけだったのに今日は打って変わってホームラン攻勢だな。もう2本を打っちゃてるぜ。


 だけどこの後は続けて凡退し結局5点どまり。まあ、普通5点も取ったら上出来だし大量得点回ビッグイニングと呼ばれるのだが相手投手の出来から察するにもう2,3点はとれていたはずである。


けれど橋本先輩がここからギアを上げるのならリードは1点で十分である。2回の表は三者凡退、3回もランナーは背負ったが無失点。かなり上がってきたご様子だ。


 だけど打線の方はチャンスを作りながらも無得点という初戦の最後の方にてこずった感を思い出させる試合運びだな。


 4回の表、2アウトからヒットと四球で2アウト1,2塁のピンチを迎えて2番と相対する。ここで踏ん張ってくれよ橋本先輩。


 俺の願いが届いたのかフルカウントから12球目。相手のバットが空を切った。空振り三振でピンチを脱出である。だがこの時点で球数70球越えとかなり多めだ。


 やはり最初の四球連発が響いている。初回だけで25球投げてるからな。これがかなり効いている。もちろん相手も簡単に凡退せずくらいついてきたってのもあるけれどやはりなんとか早期決着にしたいものである。


 じゃないといつ崩れてもおかしくない。もちろんリリーフ投手も準備して控えているが監督は6回までは橋本先輩で行きたいようであるし何とか点差を広げてほしいものである。


 しかし4回裏も無得点だった。初回に5点も取っておきながらなんで追加点が入らないんだよ。もんもんとしながらも橋本先輩は5回の表をキッチリ抑えた。


 しかし打線は完全に沈黙してしまいこの試合初の三者凡退となってしまった。そして橋本先輩は既定の6回のマウンドに上がる。ここを抑えれば監督は投手交代で滝川先輩を指名するだろう。


 だとしたらこの試合は余裕で勝てる。橋本先輩でも何とか抑えることが出来たのだから滝川先輩の球が打てるはずない。


 キーン!


 快音が響いたかと思うと打球はあっという間にレフト前へ転がっていった。三遊間を破るヒットだ。これで無死1塁。


「はぁ……はぁ……」


 橋本先輩は球数が90球を越えてスタミナが尽きかけている。やはりここはもう代えた方が良いんじゃないかとも思うんだけど監督は動かない。あくまで橋本先輩に任せる気だ。


 キーン!


 また快音が響く。今度は一二塁間への強いゴロだ。これをセカンドを守っている松山先輩が取って2塁へ投げた。送球はギリギリで間に合い2塁フォースアウト。しかし併殺はとれず1死1塁だ。


「あと2つ。絶対抑えてやる!」


 橋本先輩が渾身の1球を投げる。打者は橋本先輩の気迫に押されイージーフライを上げてしまう。これを小田原先輩がキャッチして2死。あとアウト1つでエースのご登場だぜ。


 しかし相手もそう簡単にエースへのバトンを渡させてくれない。1塁走者がすかさず盗塁を決めて2死2塁と一打同点のチャンスを作ると続く打者が内野安打で1,3塁のピンチとなってしまう。


 ここで迎えるのは相手の1番打者、リードオフマンだ。1番というのは俊足でミートが上手く選球眼も良い。なので疲労の溜まった橋本先輩からしたら4番よりも怖い相手だと思う。


 なぜなら内野安打でも1点だし見送られて四球も嫌だ。しかもミートが上手いので三振が少ない。エラー1つしてはいけない状況でこの打者は最悪の相手だ。


「うおおおおおお!」


 まずは初球――137キロのストレートだ。相手の1番打者は思いっきり引っ張てファール。今のはファールになってくれたもののあとちょっとでフェアゾーンという打球だった。危ない危ない。


 2球目はスライダーを見送られてボールだ。コース的にはものすごく振りたいであろうコースなのに悠然と見送られた。


 3球目は変化球がすっぽ抜けてボール。今の小田原先輩よく取ったな。後ろにそらしてたら同点だったぞ。


「打たせろ!」

「任せろ!」


 先輩達が橋本先輩に声をかけている。これで気合を入れ直したのか4球目は枠いっぱいに使った最高のストレートで2ストライク2ボール。カウント的には追い込んだ。


 その後、2球ファールにされて7球目。選択したのは緩いチェンジアップ。ストレートを続けてたので球種はいいと思う。だけどコースがど真ん中だ!


 キーン!


 打球はライトへ飛んでいく。ライトはバックしてこちらを向く。そしてグラブに収まった。ライトライナーで3アウトチェンジだ。今のは逆にあたりが良かったおかげでアウトになったな。


 7回からはエースの滝川先輩が登板し7,8,9の3回を無安打5奪三振のパーフェクトピッチングだった。結局、打線はあの後も1点も取れなかったし俺の出番もなかったわけだけど何とか5対4で逃げ切った。


 まったく2回戦目だというのにヒヤヒヤさせてくれる。


 ちなみに最終的な試合結果はこんな感じだ。


       1 2 3 4 5 6 7 8 9 計

 相手チーム 4 0 0 0 0 0 0 0 0 4

 自分チーム 5 0 0 0 0 0 0 0 × 5


 さてさて3回戦こそは俺の出番があることを祈っておくか。そう思いながら2回戦終了後帰路についた。


 運動能力が1下がりました。


 まあ、試合でてないし仕方がないか……けどこのダウンはなんか理不尽……。

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