お菓子の物語
7月15日(水)
俺が学校に行くと廊下に人だかりが出来ていた。その理由は明白である。昨日書いたひまわりの絵が廊下に張り出されたのだ。もちろん俺の分も含めて。
「昨日までこんなのあったか?」
「いや、なかった。きっと誰かが書いたのを張ったんだよ」
「だったら大丈夫なのかな。生徒会の人に剥がされちゃうんじゃ……」
まったく期末テストが終わってあとは夏休みを待つばかりだからと言ってどんだけ陽気に騒いでるんだよ。
しかしまさかここまで人を集めるとは思ってなかった。まあ、確かにこのひまわりの絵はレベルが高い(俺を除いて)。だけどそこまで注目されることになるとは思っても見なかった。
「あ、おはよう」
「おはよう。それで突然なんだが昨日の絵がものすごく注目されてるぞ」
「え、本当!?わー、凄い!」
美咲は普通に感動してるようだった。まあそりゃあ上手くかけた人はこういう反応になるよね。俺はため息をつきながら教室へ向かう。
「なぁなぁ、壁に張られてる奴見たか」
「ああ、ひまわりの絵だろ」
「完成度高いよな」
教室内でも昨日の絵のことでの話が行われている。よく耳を澄ませると特に俺の話題は出てないようだ。良かった良かった。
「けど1枚だけクソへたくそな絵があったよな」
「ああ、俺も笑っちまったよ」
……良くなかった。普通に話題にされて笑われていた。クラスメイトにばれてるとか俺はこれからどうすれば良いんだよ。だが話の様子から誰が書いたかまではばれていないようだ。
「おはよう!」
「おはよう!ねえねえあそこに張られてる絵、見た?」
「見た見た。どれもすごいけど1枚だけ変な絵があったよね」
ああ……もうやめてくれ。俺の精神的ライフは既に0だ。というかもしかしてひまわりの絵が注目されてるのって俺の描いた絵のせいってことか?完全に墓穴掘ったのか。
ガンッ!
あまりの恥ずかしさに俺は頭を思いっきり机に頭をぶつけてしまう。もういっそ俺のこと殺せよ!そして俺は新たなゲーム人生を送るんだ!
「おい、逢坂が頭を打ち付けたぞ……」
「大丈夫なのか?」
「なんか顔が赤くない?」
「それってもしかしてあの絵って……」
なんか完全にミスった。今の行動は完全に俺が書いたと白状したようなものじゃん。なんてことをしてしまったんだ。昨日も散々笑われたのに今日も笑われる羽目になるのか。
「どうかしましたの?元気がないようですけれど」
「森か。笑いたきゃ笑えよ!」
「いったい何ですの!?」
どうやら森は混乱しているようだ。そりゃそうか。恐らく森はなぜ俺がこんな状況になってるのか知らないんだ。って知らないのか?
「なあ、もしかして知らないのか?」
「何がですの?」
「え、ホラ、あそこにかかっているひまわりの絵」
俺が指さすと森はひまわりの方へ駆けよっていき、数秒ずつすべてのひまわりの絵を見てから帰ってきた。
「どれも素晴らしい絵ですわね」
「そうか……」
「それでひまわりの絵と逢坂さんが落ち込んでる理由は何か関係があるんですの?」
「いや、知らないのならそのままでいい。不必要に知ろうとしないでくれ」
俺の言葉に不思議そうにしながらも首を縦に振ってくれた。ああ、今この瞬間森がとんでもなくいい奴に見えた。俺は今までこんな良い奴をいじって遊んでいたのか。これは1分は反省しないとな。
「そんなに落ち込んでいるのならこれを差し上げますわ」
そう言って森が俺の机に置いたのはポテチップと言うお菓子だ。ちなみに味はうす塩である。うん、これおいしいけどさ、森ってれっきとしたお嬢様だよね。なんでこんな菓子食ってんの!?
ちなみに菓子とは甘味や塩味など味覚強調し、あるいは食感など触覚に工夫し、各種の匂いで嗅覚など食味感覚の嗜好品として製造、調理された食品のことだ。一般に穀類の粉を練り焼くあるいは蒸すなどしたビスケットや饅頭、糖質を主体としたキャンディやチョコレート類、アイスクリームなどの冷凍菓子などを総合し、菓子と分類されている。
つまり菓子には様々な種類があって奥が深いということだ。俺は別に興味があるわけではないが良くみんなが食べていたのでいろいろな菓子を食べたことがある。
まあ、食べ過ぎは良くないだろうがたまになら食べても良いという気持ちにさせられる食品であった。なので普段は食べないが体育がある日など疲れたり激しい運動をした日などはお菓子を食べることが多い。
「ありがたくいただくよ」
と言いつつも今はまだ登校してきた段階で朝食を食べてから1時間ほどしかたっていない。なのでポテチップをカバンの中に突っ込む。
「どうしてそう言いながら普通にカバンにしまえるんですの!?」
「え、だってまだ1時間目も始まってないし今食べたらダメだろ」
「え、零君。食べないの?」
隣にはいつの間にか美咲がいて話に入ってくる。しかもなんかすごい動揺している。いったい何が美咲の動揺を誘ったんだ。
「美咲。どうかしたのか?」
「だって零君がお菓子食べないとか言い出すから」
「いや、普通こんな朝から食べないよね?」
俺は森に同意を求める。すると森は視線を逸らすだけで何も答えない。森も美咲と同じで朝からお菓子を食べたい派か。
「もしかしてコレ食べたいとか?」
俺はそう言いながらポテチップを取り出す。そしたらあからさまに反応した。これはビンゴだな。
「よし、ならば俺が出す問題に答えることができたらこのポテチップをやろう」
「本当!?」
ものすごい食いつきようだな。正直、美咲が美少女じゃなければ完全に引いてたわ。
「それわたくしがあげたお菓子ですわよ!?」
「まあまあ。それじゃ第1問!世界で初めてお菓子が作られるようになったのは何年頃?」
これは答えられないだろう。俺だって愛さんに教えてもらってなければ全く持ってわからなかった問題だ。この問題解けたら菓子王と呼んでやってもい言ってくらいだ。
「平安時代かな」
「きっと中世くらいですわ」
2人とも答えが出揃う。
「残念。答えは紀元前3000~500年前の古代エジプト時代だ」
ちなみにこの時代に小麦粉でパンを作るようになりそのパンづくりの技術に甘味源としてのデーツ(ナツメヤシ)や果実と動物の乳などが融合して次第に菓子らしきものに発展したのだ。
いや本当凄い昔だよな。紀元前って2000年以上前だぞ。そんなに歴史があったんだな。
ちなみに日本のお菓子の歴史は奈良時代に遣隋使、遣唐使により唐からお菓子とその製法が伝わってきたのだ。これまでの簡単な穀物の加工品に比べ、味・形・製法がすぐれ、唐菓子に工夫を加えた独自の菓子が創り出されていった。またこの時代の末期に砂糖が輸入され始めたらしい。
だが菓子という言葉自体はもっと昔からあるのだ。菓子というのは果子という言葉がもとになっていて果物のことだったらしい。今でも果物のことを水菓子と言ったりするがこれが由来だったのかと愛さんが教えてくれた時は思ったものである。
「お菓子ってそんな昔からあるんだね」
「知りませんでしたわ」
「俺も愛さんに聞くまで知らなかったよ」
ともかくお菓子というのはそれだけ伝統のある物だということだな。まあ昔のお菓子とは全く持って違うのだろうけど。
「それじゃあ第2問目だね」
「えっ?問題は1問だけだぞ」
「えー!さっき第1問って言ったじゃん」
そう言って頬を膨らませる美咲。なんだか可愛いな。この可愛さに免じてもう1問だけ出してやるか。
「分かったよ。それじゃあ第2問だ。お菓子は大きく分けるとたった2つしか種類がありません。その2つの種類とは何でしょう?」
これはかなり難易度を下げた問題だ。これならば美咲や森でも解けると思う。
「分かった!アイスとポテチップだ!」
「これは和菓子と洋菓子ですわね」
「森の正解だ」
まあ、どちらか片方が答えれるとは思っていたけどまさかの森か。そして美咲の答えがちょっとダメずぎる。アイスとポテチップってなんだよ。そんな分類聞いたことねえよ。
「和菓子と洋菓子って何?」
まさかそこから説明が必要だったのか。お菓子好きのくせにそんなことも知らないとはな。正直、俺の想像の斜め上をいっていた。
「和菓子とは明治以前、有史以来の我が国独自のお菓子、奈良・平安時代に中国の唐から渡来してきたお菓子、安土・桃山時代に南蛮等より渡来して定着、育てられた菓子類を総称しているのですわ」
「詳しいな」
しかしならなぜ先ほどの問題に答えることができなかったのか謎だ。
「それに対して洋菓子とは明治維新以降西欧文化とともに、導入され、普及した菓子類を総称して言うのですわ。これは厳密には少し違うそうですけど」
へー、和菓子と洋菓子については知ってたけど厳密には少し違うんだ。そんなの初めて知った。
「へー、凄いね」
「ああ、俺もものすごい驚いている」
「そうでしょう!」
「じゃあ和菓子と洋菓子をさらに分類した奴も知ってるのか?」
俺の問いかけに森が固まった。これはもしかして知らないな。というか覚えてることに偏りが出ている気がするのは俺だけだろうか?いや、そう思うのは俺だけじゃないはずだ。知ってることはとことん知ってるのに知らないことになるとまるっきりのお手上げ状態だしな。
「それは存じませんわ」
明らかに気落ちした様子で知らないことを認めた。予想通りだな。それじゃあ森の代わりに説明すると実は和菓子と洋菓子をさらに分類すると水分を30%以上含むものは生菓子、水分が10~30%のものは半生菓子、水分が10%以下のものが干菓子ということを踏まえて和生菓子、和半生菓子、和干菓子、洋生菓子、洋半生菓子、洋干菓子の6つに分けられるのだ。
ここから打菓子やらもち菓子、スポンジケーキ類、スナック類と様々な種類に分けることが出来るのであるが多いので割愛する。気になる人は検索してみてくれ。
と言うよりかは俺が覚えきれていない。愛さんならすべての種類を今ここで言えるのだろうが俺はそこまで賢くないしな。というか愛さんはなんで覚えてるんだろうな。こんなの絶対とは行かなくても滅多に使わない知識であることは確かなのに。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴る。どうやら美咲たちの朝からお菓子を食べるという目標は失敗に終わったようである。せっかく正解したのにドンマイとしか言いようがないな。
「じゃあ、席に戻るよ」
「失礼しますわ」
美咲と森は何というか忘れてるんじゃないのか?俺はついついそんなことを思ったのであった。
◇
すべての授業が終りあっという間に放課後になった。結局美咲たちがポテチップを話題に出すことは1度もなくどうやら完全に忘れ去られているようだった。
朝はメチャクチャ食いついてきたくせにこの豹変というか変わりようというか物忘れの激しさというか、この2人はいろいろとすごいよな。
「零君。帰ろう!」
「ああ。そうだな」
俺は美咲と一緒に帰る。しかし部活もなく生徒会関係もなくこうしてすぐに帰れるのは久しぶりな気がする。なんというか何もないって素晴らしいな。
「それじゃあね」
「ああ。また明日」
分かれ道に差し掛かり挨拶を交わす。一緒に帰るときはいつもこんな感じだ。俺は美咲と別れた後はまっすぐ寮への道を歩いてたのだが一軒の店を見つけた。そこは本当に小さな駄菓子屋だった。
普段ならこんなところに立ち寄ることなんてなかった。だけど今日はお菓子の話をしただろうからか無性にお菓子を食べたくなった。
立ち寄ってみるか。
俺は扉を開け中に入る。中はいかにもな古びた感じだ。まあここで逆に最新の家で駄菓子を売られててもイメージが違いすぎて入る気にはなれないけどな。
中に入って品物を見ていくとどれもこれも安い。しかも子供のころに食べたような懐かしいものまで売ってる。さすがは昔ながらの店という感じだ。
せっかく早く帰っているのにここで時間をつぶしてしまっては意味がないのでパパッと選ぶことにしよう。
俺は適当に駄菓子を数個購入するとそのまま家へ帰った。
夕ご飯の後に森からもらったポテチップと駄菓子屋で買ったお菓子を食べた。久しぶりのお菓子はおいしかった。それでも朝から食べる気にはやっぱりなれないがまた食べたいとう気持ちにはなった。
全くお菓子というものは昔と全然変わってないじゃないか。俺はそう思った。
◇
余談ではあるが朝はとても話題になっていたひまわりの絵についての噂は放課後にはなくなっており、見物人こそいなくならいけど俺が下手な絵を書いたことは誰にもばれなさそうだ。
つまりは俺さえ気を付けていれば大丈夫ということである。




