ひまわりの物語
7月14日(火)
「やったぜぇぇぇぇ!!」
期末テスト最終日。最後の教科のテストが終わるとあたりは歓喜に包まれた。正直、ウザいと思うがテストがまとめて帰ってくるまでの辛抱だ。
どうせ、この中から数人、または数十人がテスト返却の時に落ち込むことになるのだ。まあ、逆に毎回赤点ギリギリの人だと赤点取ったら「うわぁぁぁぁ!」とか言って回避したらしたで「よっしゃぁぁぁ!」と言うのだけどな。
ちなみに俺は欠点を心配する必要はない。ものすごく簡単だったしな。多分今回もトップ争いをしているのだろう。
「零君。やっと終わったね」
「ああ、本当にな」
これでようやく野球に集中できるな。それに今週の日曜には2回戦が迫ってるしな。
「みなさんは今回の出来はどうでしたの?」
「なんか久しぶりだな」
「で、どうでしたの?」
俺達に話しかけてきたのはクラスメイトのお嬢様、森だ。もう忘れてる人もいるかもしれないので説明を入れておく。あと、俺の発言無視すんな。
「私はまあまあかな。いつもと同じくらいだと思う」
「俺も」
「わたくしは今回はばっちりでしたわ。今回こそはトップを取ってやりますわ」
森ってそんなキャラだっけ?正直、この学園でトップを取る=全教科満点を取ることだぞ。俺に加えて本物の天才である愛さんとか恵とかがいるからな。
「つまりは全教科満点取れる自信があるのか?」
「そこまではないですわ!?ですが!全教科90点以上の自信はあります!」
これ確実にトップ取れない奴だよね。多分というか愛さんなら確実に取りこぼしなんてしないだろう。それに他のプレイヤーの皆さんも凡ミスなどで1,2点失うかもしれないけど確実に平均95以上は取ってくるからな。
「そう言えば零君は先週の土曜日に試合だったんだよね?どうだったの?」
「え、普通に5回コールドだよ」
「それに貴方の出番はありましたの?」
「一応5回に代打で出場してホームラン打って試合を決めたぞ」
しかし今思い返しても俺がチーム第1号を打てるとは思っても見なかった。まあ、ここはゲーム内、こういうご都合主義が起こっても不思議ではないのだけど。
ピンポンパンポン♪
『1年1組逢坂零君。至急、生徒会室まで来てください』
軽快な音が鳴った後、放送での呼び出しがかかった。というか俺に何させる気だよ。今日はテスト頑張ったご褒美として自分自身に何か漫画を買って一気に読破しようと思ってたのに。
「零君。呼び出されているよ」
「行かなくてもよろしいんですの?」
「嫌な予感がするからできれば行きたくないんだよな」
そうは言ってみたもののここで生徒会室に行かなければ後でもっとめんどいことが待ってるので渋々ながらも生徒会室へと足を向ける。本当、これじゃまるで生徒会役員のようじゃないか!
まあ、実際にそうではあるんだけど……。
◇
生徒会室で俺を待っていたのは生徒会長である七草御影、そしてこの学校の校長である八戸夜桜だった。そう言えば校長に会うのも久しぶりだったな。
「で、何の用かと思えばただ単にそれを見せたかっただけですか?」
「せっかく校長先生が持ってきてくれましたので」
「どうだい?好感度上がったかい?」
「いえ、むしろ下がったような気がします」
そんな!と落ち込む校長をよそに目の前に置かれているそれを――ひまわりを眺める。
ヒマワリ……キク科の一年草であり日回りと表記されることもあり、また、ニチリンソウ(日輪草)、ヒグルマ(日車)、向日葵を音読みしてヒュウガアオイ、とも呼ばれる。花言葉は「私はあなただけを見つめる」だ。
というか俺、思うんだけどこの「私はあなただけを見つめる」という花言葉ってロマンチックなようにも聞こえるけど実質ストーカーみたいなものだよね。
「しかしこのヒマワリ、どうしたんですか?」
「私がもらってきたのだ」
「へー」
まあ、大阪ではヒマワリというのはめったに見られないしこういうのもいいかもしれない。ケチをつけるとすれば兵庫県にヒマワリの生産地があるので日帰りでも別に見れるっちゃ見れるよなって感じであるが。
とにかくせっかくヒマワリが生で見られるので何かすべきではないだろうか?
俺はそんなことを考える。周りを見渡して確認できたヒマワリは全部で3つ。いや3輪と言うべきか。ともかく大規模なことは出来ないが知り合い集めて写生大会なり写真撮影なりいろいろなことが出来るのではないだろうか。
「それにしても期末テストも終わったし何かイベントをやりたいんだけどね」
「なかなかアイディアが出てこないですよね」
そう言って俺に聞こえるようにわざとらしくため息をつく会長と校長。学校の2大権力者がそろいもそろって何やってんだよ。これって要するに俺に案を出させようとしてるだろう。
俺も何かやりたいと思ってたから別に良いんだけどさ。何でもかんでも俺に頼るのやめてくんない。今日は漫画を読むという立派な予定しかなかったけど、ガチで抜けられない用事が出来てたらどうする気だったの。
「そうですね。デッサン大会とかはどうでしょうか?今日、数名で書いたヒマワリの絵を廊下とかに展示するんですよ」
「それはいい案ですね!」
「早速やろう!」
すぐさま食いついた2人に俺は苦笑いするしかなかった。そして会長はデッサンに参加する人を集めに、校長はデッサン用具を用意するためにすぐさま動き出した。
無駄に行動力高いんだよな。この人達……。
◇
なんというか会長が集めたのはいつものメンバーだった。すなわち一色恵、四ツ原楓、六角愛、桜美咲、そしてなぜか最近イベントごとに姿を現すようになった天野雷斗。
この5人に俺と会長と校長を足した8人でデッサンをすることとなった。
そう言えばみんなはゴッホが描いたひまわりという作品はご存じだろうか?
ゴッホは花瓶に活けられた向日葵をモチーフとする複数の絵画を描いたのだ。その数は7つ。そして現存するものは6つと言われている。
ではその6つというのはどんな作品なのか、みんながデッサンに勤しんでいる間に説明しようと思う。
まずは最初に制作されたという3本のひまわりが書かれた絵だ。これはアメリカの人が個人で持っていると言われている。
そして2枚目は背景がロイヤルブルーで描かれた、通称"芦屋のヒマワリ"と呼ばれる幻の「ヒマワリ」である。当時金2万円(現在の約2億円)で購入。1920年に大阪の実業家 山本顧弥太氏が武者小路実篤ら白樺派の依頼。1945年8月6日に阪神大空襲によって焼失したのだという。
割とどうでもいいことなんだけど武者小路ってすごい名前だよね。ネットで初めて見た時、こんな名前あるんだとか思ったもん。そしてすごい中二ネームじゃん。
おっと、武者小路の名前について語っている場合ではなかったな。次は3枚目の説明だ。3枚目は「明るい色が明るい色に重なっており、これを一番良いものにしたい。もっと描きこんでいくつもりだ」とテオ宛ての手紙に書かれてたそうな。現在はドイツのミュンヘンにあるノイナ・ピナコテークという美術館が所蔵している。
4枚目はひまわりの強い生命力と逞しいボリューム感を表現するために絵具を厚く塗り重ね描かれたが、それは同時に作品中に彫刻のような立体感を生み出すことにもなったという作品だ。そしてゴッホ自身が気に入っていた12本のひまわりをもとに製作した作品とも言われている。現在はイギリスのロンドンにあるナショナルギャラリーという美術館が所蔵しているようだ。
5枚目は1987年3月に安田火災海上(現・損害保険ジャパン日本興亜)が3992万1750ドル(当時のレートで約58億円)で購入した(当時の代表取締役の後藤康男が購入を推進したと言われる)。贋作ではないかという意見(1997年10月英新聞サンデータイムスの報道ではエミール・シェフネッケルの筆ではないかと推測している)があったが、1999年の研究調査により真筆と断定されたらしい。その他贋作説もあるが、やはりファン・ゴッホ美術館の学芸員・修復技官らの調査によって真作であるとの報告が為されているとのことだ。
そしてこの5枚目はなんと東京にある東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館が所蔵しているのだ。まあ、説明の時に1度言ってるから繰り返し言う必要はなかったのだけど。
あんまり興味はないけど機会があれば行ってみたいものだ。興味がないって言ってる時点で行く気がないと言っていることはスルーしておいてね。だって、今はみんなが無駄に真剣にヒマワリの絵を書いているのだから嘘でも言っておかないとだろ?
第一俺自身はこんなデッサンに参加したくなかったんだよな。それを会長と校長が無理やり参加させてくるから仕方なくやってるんだよ。本当なら今頃は寮で漫画を読んでいる頃だろうに。
閑話休題。
ひまわりの話に戻ろう。え~っと確か5枚目まで話したというか説明したんだっけ?うん、確かそうだったはずだ。
じゃあ次は6枚目の説明だ。6枚目はゴッホが病院から「黄色い家」に戻って、東京作品を模写したものと考えられている。現在はオランダのアステルダムにあるゴッホ美術館が所蔵している。以上!
説明少な!と思うかもしれないが調べてもこれだけしか出てこなかったんだよ。なのでおまけ説明として黄色い家について説明しておこうと思う。
黄色い家はゴッホによって描かれた絵画。油彩。。「アルルのゴッホの家」と記載されていることがある。 ゴッホ美術館所蔵。ゴッホはアルル在住時にその拠点となる家を借りた。この家の2階が居室であった。居室の様子はファンゴッホの寝室に描いている。また、この家(部屋)を飾るための絵(例えばひまわり)を多く描いているとのことだ。
これである程度理解できたと思うので最後の7枚目を説明させてもらうとしよう。7枚目はアムステルダム作品と同時期に、ミュンヘン作品を模写したものとされている。現在はアメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィアにある、全米有数の規模をもつ美術館が所蔵している。
以上がゴッホが描いたひまわりの説明となる。
「出来た!」
「こっちも出来たわ」
さて、ちょうどいいことにみんなの絵がかき上がってきたようだ。美咲や恵は既に書き終えているし、後ろから覗き込んだ限りではみんなも終わりが近づいているようだ。
俺は全員が書きあがるまであと少しだなと思いながらただひたすらに待つのであった。
◇
30分後。
最後の1人が書き上げた。これで全員が書き上げたことになる。あとは展示すれば終わりなのだが当然というか予想できた事態に俺はひたすら後悔していた。
すなわち――
「零君。どんな絵を書いたのか見せてよ!」
「そうよ。零も見せないさいよ」
「どうした?見せるのが怖いのか?」
絵の講評会である。誰が言い出したのか思い出すことは出来ないが自然とそうなった。既に他の人達の講評会は終わっている。そして全員が上手かった。
プレイヤーの方々はもともとゲーム制作会社にいたのだし模写が上手くても何ら不思議ではない。しかしこっちの人達が予想以上にうまいのだ。そしてそれは全くの計算外である。
俺としては俺と同様に見せたくないという人を味方に引き込み、見せるのを断固拒否するつもりだったのだがまさかの全員が見せるという事態になり俺はものすごく困っているのだ。
俺は一応、画力はあるつもりだ。しかしそれは簡単なものやアニメ画に限定される。つまりこういう複雑な模写は苦手だということだ。
「逢坂君。諦めましょう?」
「そうだぞ。1人だけ見せないのはズルい」
会長が諭すように、校長が子供のように説得してくる。つーか逆じゃね?という突っ込みもこの場では何の意味もなさない。つーかそもそもなんでこんなことになってるんだ?
俺はただ放送に呼ばれたからここにいるだけで、会長と校長が頼み込んでくるから提案しただけだ。自分からやりたいだなんて一言も言ってない。
それに何かしたいとは思ったけどデッサンをしたいとは言ってない。コイツ等を呼ぶだなんて言ってない。だから俺は悪くない。故に見せるのを拒んでも構わない。
「いいから見せなさい!」
だというのに恵が無理やり俺の絵を奪い取った。そしてそれを机の上に置き覗き込むようにして俺の描いた絵を見ている。
「ぷっ」
誰が最初に笑い出したのかはわからないが生徒会室が笑いに包まれた。そして無慈悲な一言が放たれる。
「下手すぎでしょ!」
「だから見せたくなかったんだ!」
俺は生徒会室で1人絶叫する羽目になるのであった。




