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設定の物語

 6月30日(火)


 俺の部屋に一通の手紙が届いた。差出人は愛さんだ。何の用だろうと思い手紙を開ける。中には今夜7時にグランド集合と書かれていた。


 夜の学校に集合とかよっぽど誰にも聞かれたくない話なのか。そう思いながらも学校へ行く準備をする。


 今は朝なので集合までにはかなり時間があるのだ。なので今日の予定としては普通に学校に行ってなんだかんだ理由を付けて下校時刻の18時まで居座って1時間を校内で隠れて過ごすということになりそうだな。


「それじゃあ行ってきます」


 そう言って寮を出ていつも通りの通学路を歩き学校へやってきた。時間は既に8時20分。もうすぐ始業のチャイムが鳴る。


「おはよう。零君」


「おはようございます」


 美咲と森が挨拶をしてくれる。軽く返して自分の席に座って1時間目の準備をする。今日の1時間目は映像実習だ。結構撮影も進んでもうすぐラストシーンってとこだ。


 さてと俺は主役だし今日も一日頑張りますか。


 ◇


 あっという間に放課後になった。生徒は部活やら居残りやらで結構な人数が残ってはいるが昼間の学校と比べると人が少ない。


 俺は部活に参加して時間をつぶす。ここでの練習は結構楽しい。なぜなら俺が1番上手いからだ。それに練習の最後には3イニングマッチの練習試合を行うのが恒例になってきていてレギュラー組に混じって練習で来てるからな。


 この練習試合では毎回チームメイトやポジションが変わる。それだけに公式戦とかの真剣勝負とはまた違った勝負を楽しめる。


 俺は赤チームで2番中堅手だった。普段打つことのない打順だったので難しかったが楽しかった。ちなみに試合は0対0のスコアレスドローだった。


 俺は1打数1安打1犠打という内容だった。試合が終わるころには時計の短針は6のとこまできており約束の時間まであと1時間と迫った。


 人影も少しずつ少なくなって残ってるのは野球部、サッカー部といった運動部と全国常連の吹奏楽部ぐらいだ。


 グラブやボールといったものを片付けグランドを整備する。正直、野球部の練習で最後まで残ったのってこれがはじめてな気がする。


 いつも何らかの理由を付けて片付け前には早退してたからな。まあ実際に夕食の準備という用事があるのは確かなんだけどな。


 野球部の面々もそのことを知っており早退しても文句を言う人はいない。むしろ自分で料理するとかスゲーなって感じで尊敬されている。


 運動部が料理をする姿って想像できないもんな。この尊敬はむしろ普通なのかもしれない。


 練習が終わり帰るふりをしてもう1度校内へ戻る。その際には誰にも見つからないように細心の注意を払った。


 そして約束の7時まで待った。7時になると呼ばれたであろう人物がこぞって姿を現した。


 一色恵、二神翔、三上颯、四ツ原奏、五月雨快、六角愛そして俺、逢坂零を含めた7人だ。このメンバーが集められたってことはゲーム制作者のみでの話し合いをするということだ。


「それにしても翔と話すのも久しぶりだな」


「だな。俺はサッカー部でインターハイ出場するしこれからもどんどん忙しくなると思うから零とはそこまで遊んだりする余裕はないからな」


 1年レギュラーでインターハイ出場ってすげえな。もともと才能があってゲームの設定的にレギュラー確実とはいえ1年からインターハイ出場かよ。


「逢坂も久しぶりだな」


 話しかけてきたのは三上だ。もうコイツに後輩君とは言えそうにないしな。


「みんなの前でもそのキャラで行くのな」


「な、何のことだ。俺は初めからこうだった」


 あーはいはい。そうだったね。俺のイメージではいつもいつも後輩君と呼ばれていじめられてた……じゃない、いじられてた気ががするんだけどな。


「再会はその辺にして本題に入ろう。というか同じ学校に在籍してるのに再会ってどういうことなんだ?」


 ちょっと愛さん。本題に入るんじゃなかったんですか?なんであなたまでこっちサイドに入ってきてるんですか。そして恵と奏ちゃんは何普通に話してるの。基本いつも話してるじゃん。


「だって翔が忙しかったからね」


 そう言うのは社長だ。まあ社長とは本屋のバイトやってるとよく合うし三上はたまに絡んでくるし本当に交流がなかったのは翔だけなんだよな。


「そうそう。愛さんだって知ってるでだろ?こいつがインターハイ出場を決めたのを」


 三上が親指で翔を指さしている。なんか行動の一つ一つが気障になったな。こんなの三上のキャラじゃない。俺は悲しいよ。


「そういうことか。それでは謎も解けたことだし本題に入ろう」


 いや謎って俺と翔の会話聞いてたんなら謎でも何でもないだろう。真っ先にインターハイ出場言ってたんじゃん。


 そしてようやく本題突入か。本当にいつまで待たせるんだよって感じだったもんな。


「で、本題って何なの?」


「そうです。こんな時間に学校のグランドに集めて何の話なんですか?」


 恵と奏ちゃんが質問する。これは愛さんから何も言われてないことに若干の怒りを感じてるな。


「すまない。黙っていたことは謝る」


 愛さんにもそれがわかっていたのか真っ先に謝罪した。まあ長い付き合いだからこういうことは互いに敏感なんだろう。


「それで本題っていうのはなんだ?」


 もう質問はいいよ。翔は少し引っ込もうか。


「君たちは今日は何の日か知っているかい?」


「今日ですか?」


「別に普通の平日だけど……」


 愛さんの質問に奏ちゃんと恵は首をひねる。ええーわかんないの。俺たちにとっては結構重要な日なんだけどな。


「このゲームを始めて3カ月がたったってことだろ?」


 俺が確認するように言うと愛さんは頷いた。その様子を見てああっと納得したような顔を見せる恵と奏ちゃん。


「まあ正確に3カ月たったわけではないからわからないのは無理ないのかもしれないが4月からゲームを始めて今日が6月の最終日だ」


「そう言われると確かに3カ月たってるな」


「全然気づかなかったな」


 翔と三上もたった今気づいたかのようなことを言っている。気づいてたのってもしかして俺と愛さんだけなのか。


「俺はもちろん気づいてたとも」


 そう言ってるのは社長だが汗が凄いし嘘だな。社長は知らなかったにもかかわらず知ってた風を装うとしている。


 皆もそれがわかってるからなのかものすごい冷ややかな視線を向けている。社長はその視線に気づき思いっきりたじろいだ。


「それで愛さんはどうして集めたんですか?別にゲームを始めて3カ月を祝おうとしてるわけではないんでしょう?」


「もちろんその通りだ。今日は設定を変えようと思ってみんなを呼んだんだ」


「設定?」


 俺が聞き返すと1度大きく息を吸い込み愛さんが語りだした。


「このゲームを始めたのは試運転のためだ。私達が楽しむことも大事だが役割を忘れてはいないだろうな?」


 そう言えばそういう目的でこのゲームを始めたんだっけ。一応毎日記録を付けてはいたがそのことはすっかり忘れていたな。


「もちろんだよ」


 恵は忘れてなかったのか。さすがはゲーム内で生徒会をやるだけのことはあるな。まあ生徒会はそんなに関係ないか。


「それで普通の日常の生活はだいぶデータが取れたと思う。そこで今の設定から変えて新しい設定で学園生活を送ろうと思っている」


 学園生活って設定はそのまま行くんだ。まあ入学から卒業までの3年間をプレイするという話だったから本筋を変えるのは良くないか。


 そう言えば最後に設定を変えたのって時間割を変えて以来だもんな。そろそろ設定を変えた方が良いのかもしれない。


「それでどんな設定を変えるの?」


「それなんだよ。世界観から変えるのもありだし少し設定を変えるだけどもいいんだよ」


「世界観を変えるってどういうことだ?」


 翔も俺と同じことを思っていたのか愛さんに質問した。これについては俺も気になってたので愛さんの言葉に耳を傾ける。


「つまりは学園だったらいいわけだから魔王などのファンタジー要素を入れたりロボとか機械要素を入れたりといろいろと方法はあるんだ」


 バーチャル人生ゲームってそんなことも出来たのか。正直、ファンタジー要素っていれてみたいんだけどダメかな。


「俺としては別に今のままでも不自由はないが設定を変えた場合クラスメイトとかはどうなるんだ?」


 三上がそんなことを質問する。確かにその可能性には思いいたってなかった。もし世界観を買えたとして美咲たちの好感度がリセットされるのなら世界観なんて変えなくていい。


「それなら心配は無用だ。友人関係は全く変わらない」


「だったら三上は可哀想だな。せっかく新しく友達を作るチャンスだったのにな」


「二神!?俺になんか恨みでもあるのか!?」


「別に。俺は本当のことを言っただけだ」


 なんか翔と三上の追いかけっこが始まった。グランドなので走り回っても問題はないがいったいどこまで走っていくつもりなのだろうか。


 図星なのか良くわからん反応だ。だが三上のことだし本当のような気がする。少なくとも女友達はいなさそうだ。卓球部だしな。


 あっ卓球部は関係ないか。人によったら卓球部でも結構モテモテになったりするしやっぱり三上がダメってことだな。


 俺が一人で勝手に納得してると三上と翔の争いが終わったのか2人が戻ってきた。どうやら追いかけっこは終了したみたいだ。


「それでどうする?」


「そうだな。世界観はこのままでもいいんじゃないか」


 俺としてはファンタジー世界に憧れはするがそれは発売されてからゆっくりやろう。今回は学園を卒業することが終了条件になってるのでファンタジー世界にしても魔術学園になるとかそんなとこだろ。


 それなら発売されてから自分の好きな設定で遊ぶ方が良いに決まっている。実際設定次第では俺でもハーレムを作れるのだから新しく始めてもハーレムを作れるはずだ。


 なので今は美咲たちとこの学園生活を楽しみたい。それに夏といえば海、夏祭り、高校野球、キャンプ、旅行等々楽しみはたくさんだ。


 その前に期末テストという敵が立ちふさがりはするが俺なら問題ない。というかこの場にいる全員なら余裕だろう。


「そうね」


「零さんがそう言うのなら」


 恵と奏ちゃんは俺に賛同してくれた。


「俺は別の世界観にしてみたい」


「俺も」


「こっちも面白そうだよね」


 翔、三上、社長の3人は世界観を変えるに賛成のようだ。これで3対3。判断は愛さんにゆだねられることになった。


「そうだね。なら今回の世界観の変更は見送りにしよう」


「それならこの世界間のままどんな設定を変えるか決めないとな」


 愛さんが俺達に賛同してくれたので世界観の変更は見送りとなった。なので今度はどんな設定を変えるのか決めないといけない。


「だったら危険度をもう少し上げてもいいんじゃないか?」


「なぜだ?」


 翔の提案に三上が口を挟む。なんでこの2人は関係が悪化してるんだろうな。


「さすがに犯罪が一件もないってのはいいことなんだろうが現代日本は、現実世界はそうじゃない。だからその時の感覚を取り戻すためにある程度の犯罪は起きていたほうがいい」


 翔の意見にも一理あるな。ここで犯罪の警戒をしない平和な感覚で行けばゲームが終了し現実世界に戻ってきたときに何か犯罪に遭う可能性が高いしな。


「なるほど」


「翔さんって意外に頭いいんですね」


 恵と奏ちゃんも納得している。けど奏ちゃんよ。一言余計ではないか。


「確かに。では危険度を真ん中に合わせておく」


 そう言ってパネルを操作する。このパネルは愛さんか社長だけが操作でいるプログラムだ。発売したらゲームの持ち主にだけパネルを操作できるようにするらしい。


「ほかに変えたい設定はあるか?」


「もう少し運動レベルを上げてもいいと思う。今のままじゃ差がありすぎる」


「そうだな。では運動レベルを高校1年レベルに設定しておく」


 これでほとんど差はなくなった。けど僅かに俺達が上回るようなそんな感じだ。天才とか言われる奴なら俺達と互角に戦えるくらいである。


「勉強のレベルは変えなくてもいいか?」


「うん」


「学生は勉強とは言うけどまた勉強漬けの日々は嫌だよ」


 満場一致の反対で勉強のレベルはそのままとなった。どんだけみんな勉強したくないんだよ。ああ俺も賛同したから人のことは言えないけど。


「それではこれでいいかい?」


「「ああ」」


 俺と翔が同時に答える。あとに続くようにみんなが頷いた。さて明日からはいつも以上に現実に近づくことにあるのか。だけど人間関係は変わらいので続けて楽しい学園生活を送れそうだ。


 さていよいよ夏本番。いったいどんな出来事が待ってるのやら。

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