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妹の物語

 同日22時。


 俺は夜にもかかわらず女子寮に忍び込んでいた。なぜかというと昼間の出来事が原因である。オープンキャンパスで美咲から告げられた一言。これが頭から離れない。


『零君って妹いたんだね』


 これはどういうことだ?俺には妹なんていないしここはゲーム内なのだから尚更妹がいるのはおかしい。そう考えた俺は愛さんに話を聞くべく危険を冒して女子寮に潜入しているのだ。


 女子寮はほとんど男子寮と同じ作りをしている。なので迷うことはない。だけど見付かった瞬間THE・ENDである。最悪ゲームオーバーになりかけるだろう。


 俺は慎重を期して女子寮へ足を踏み入れた。なんかこれだけで罪悪感がわいてくる。確かに校則には完璧に違反してるのだが昼間は男子が遊びに来てたりするのでアレなのだが夜は誰も来ないからな。


「愛さんの部屋は確か……」


 俺は部屋番号を見ながら歩を進めていく。そしてようやく愛さんの部屋へたどり着いた。誰かに見付かりたくはないのでインターホンを押した後にすぐに隠れる。


 なんだかピンポンダッシュをやってる気分である。けど実際はそんなお気楽なものではなく俺の学園生活がかかっているのである。愛さんがドアを開ける音がするとすかさず部屋の前に立った。


「こんな時間にどうしたんだい?」


「実は相談したいことが……」


「取りあえずあがってくれ。見つかっては大変だろう」


「ありがとうございます」

 

 こうして俺は愛さんの部屋に足を踏み入れた。というか何気に愛さんの部屋に来るのって初めてだな。愛さんの部屋は可愛いぬいぐるみとかを飾りながらも本棚を見るとそういう気分が失せてしまう。


 本棚には大量の参考書とかゲーム作成の本とかが置かれている。なんだか女子高生の部屋じゃない気がする。まあ実年齢はだいぶ年をとってるのだけどせっかく、ゲームで若返ったのだからこの学園生活を楽しんで欲しい。


 と思ったものの愛さんて何気にこの生活謳歌してるよな。俺以上に楽しんでる気がする。むしろ俺がもっと楽しむべきだな。


「それで今日はどうしたんだい?」


「実は美咲が不思議なことを言い出し始めまして……」


「不思議なことを?」


「はい。‘俺に妹がいる’って言ってきたんですよ」


「何!?それは本当か?」


 なんだか凄い食いついてきたな。さっきまでは仕方ないから相談に乗ってやる的な雰囲気を醸し出してたのに。


「なにか心当たりがあるんですか?」


「ああ。私が密かに組み込んだプログラム、妹ルート」


「い、妹ルート?」


「そうだ。中には妹に好意を抱く変態がいるだろう?」


「ま、まあいますね」


「その人向けに千分の一の確率で妹が出来るプログラムにしたんだよ」


「つまり俺は千分の一の確率なのに当たってしまったと……?」


「そういうことになるね」


 まじか……。そんな天文学的な確率で俺に妹が……。けど俺まだ妹に会ったことねえよ。いったいどこにいるんだよ。


「とにかく相談のってくれてありがとうございました」


「今度妹に会えたときに紹介でもしてくれたらいいさ」


 なんかそれスゲー嫌なんですけど。何を言われるか分からない。とにかく妹と会わなければ大丈夫だろう。紹介する必要なしだろ。


「それでは俺はこれで帰ります」


「ああ。見回りに見付からないようにね」


 そうか。帰るってことはこっそり女子寮から脱出しないとけないのか。難しいな。何が難しいかというとここから出るのが1番難しいんだよな。


とは思いつつも部屋をそっと出る。やっぱり年頃の男女が一つ屋根の下ってのは不味いと思うんだ。まあ俺に女の子を襲う勇気なんて持ち合わせてはないけどな。俺はどこまで言ってもヘタレだし。


 俺は細心の注意を払いながら女子寮を後にした。結果的に言うと見回りには見つからずに男子寮に帰ってこれた。やっぱり決め手は俺の隠密さと素早さが高かったことだと思う。


 男子寮に帰ってきたあとはゆっくり休んだ。妹がいる理由がわかっただけでも大きな収穫だったからぐっすり眠れるな。


 ◇


 6月28日(日)


 さてさて今日はお休みだ。オープンキャンパスの代休というのはないので今週の休みは今日だけということになる。


「何をしようか……」


 朝食や着替えをすませ真剣に悩む。本は既に読破済みだし、俺が見ているアニメは今日の25時もとい明日の午前1時だし、遊ぶ約束をしてるわけでもない。


 今日は本格的に暇になりそうだな。けど昨日オープンキャンに行ったから今日は外に出たくないしな。何かのアニメを全話見直すか。


 だとしたら何がいいかな?もう1度見たくなるようなアニメというのは限られてくるし。そういえばゲームってやってない気がする。


 一応機種は結構あるのだがこのバーチャル人生ゲームを始めてからゲームをやった記憶がない。やっぱり心のどこかでゲーム内でゲームをするのはおかしいとでも考えていたのかもしれないな。


 久しぶりにやるか。まずはどのゲームをするか決めないとな。俺がよくやっていたのは野球のゲームとサッカーのゲームだ。


 そうだな。野球にしようか。確かペナントモードが半分くらいしか進んでなかったはずだ。よしそうと決まれば早速―――


 ピンポーン。


 なんというかもう驚かない。俺の場合こういうことはよくあった。何かをやろうとした瞬間来客が訪れるこの不幸っぷり。


 今日は誰が来たんだ?美咲か恵かはたまた愛さんか。来る可能性があるのはこの3人くらいだ。美咲は単純に遊びに来るし恵は生徒会の仕事を持ち込んでくる。愛さんは昨日の話の続きって可能性だ。


「今開けまーす」


 俺はゲームをそのままにして扉を開けた。するとそこに立っていたのは予想外の人物だった。黒髪ツインテールで人の良さそうな笑みを浮かべている見た目15歳くらいの少女。


「久しぶりだね。お兄ちゃん」


 お兄ちゃん?もしかして昨日オープンキャンパスに来てたという俺の妹か。だとしたら容姿は年齢と同じってことだな。


 ってそうじゃなくて。俺、この子の名前知らねえ。当然だがこれはゲーム内であり俺からしたら初対面なんだよ。これでなんで名前知らねえんだよとか言われても困るし。


「ひ、久しぶりだね。昨日はうちの高校に来てたんだって?」


「そうだよ。お兄ちゃんの通ってる学校って日本有数の名門校だしオープンキャンパスに来る人も多いしね」


 そういう設定にしてるって話は以前に聞いた。だからってわざわざ俺の部屋に寄ることはないじゃん。そのまま帰ればよかったじゃん。


「それでどうしてここにいるんだ?オープンキャンパスは昨日だけだぞ」


「知ってるよ。せっかくお兄ちゃんの通ってる高校まで来たんだから久しぶりに顔みたいなって思ってさ」


「けどまだ3カ月だろ?」


「まあ、そうなんだけど来られるの嫌だった?」


「そんなことはないぞ」


 そう言って物の内心では帰れと思っている。だって妹との思い出なんて1つもないしそもそも名前すらわかんねえし。これって本当に大丈夫なの!?


 何とかして自然に名前を聞きださないとおちおち喋ることも出来やしない。思い出の方は“そういうこともあったな”とか“そんなことあったっけ”とか“そんな昔のこと覚えてないよ”の3パターンで回避できる。


「あ、そうだ。俺の友達に紹介したいから呼んでいいか?」


「えー。せっかくお兄ちゃんに会えたんだからもうちょっとくらい2人切りでもいいじゃん」


 可愛く言ってくるがそうでもしないとあなたの名前聞けないでしょう。何とか妥協してくれよ。お兄ちゃんがすっごく困ってるんだぞ。


「分かったよ。それじゃあ部屋に上がるか?」


「うん!」


 満面な笑みを浮かべた妹は部屋の中へと入っていった。マジでどうしよう。俺は胃を押えながら部屋の中へと入っていく。


「わーこのゲーム懐かしい。よくやったよね」


 そう言いながら手に持ってるのは先ほど俺がやろうとしてたゲームだ。そうだこの手なら名前を聞かずにできるかもしれない。


「そうだな。久しぶりに一戦交えるか?」


「そうだね。レベルアップした私の力、見せてあげるよ」


 良し乗ってきた。この野球ゲームは完全再現してくれるので9回裏までありかなり時間がかかる。これで一気に時間をつぶす。


 ゲームを起動し好きな球団を選ぶ。俺はもちろん大阪人として虎軍を選ぶ。妹は獅子軍だ。


 まずは自分でスタメンとか先発投手とか誰をベンチ入りさせるのかを決める。俺のスタメンは最新のスタメンで先発投手はエースだ。


 逆に妹は自分の好きなように打線を組んでいる。先発投手も名前の知らない奴だ。


 というか俺の場合虎軍以外どんな選手がいるのかあまり分かってない。こうサイクル本塁打とか打点王になったとか日本記録を樹立したとかそんな選手しか知らない。


 これが虎軍になると控え野手からスタメンまで全員わかるんだけどな。なんなら選手全員の誕生日も言うことができるぞ。まあこんな特技いらないけどな。


『さあ試合が始まりました。今日の対戦は虎軍対獅子軍。注目の対戦です』


 テレビから実況・解説の声が流れてくる。こういうところも忠実に再現してることから野球ファンには人気の高いゲームだ。


『マウンド上には虎軍のエース藤波。対する獅子軍の1番は春山』


「お兄ちゃん悪いけど勝たせてもらうよ」


「嫌だね。俺が勝つ」


 とにかく試合が始まった。俺と妹は一進一退の攻防を繰り広げた。初回俺が3者連続三振を奪うと妹は打たせて取るピッチングで3者凡退。


 2回に1アウト3塁のピンチを迎えるがライナーゲッツーでこのピンチも脱出。その裏に2アウト2塁のチャンスを作るも打ち取られた。


 3回は両者3者凡退で3回終わって0対0。全くの互角である。このゲームはやりこんだ記憶があるのに同点か。これは妹も相当やりこんでるな。


「お兄ちゃんなかなかやるね」


「そっちこそ」


「けど私は負けないよ」


 4回にノーアウト満塁のピンチを迎えた。俺は妹の裏を読む配球でこの回のピンチも脱出した。


「なんであれで点が入らないの」


「ふっ。俺の実力だ」


 4回裏は3者凡退。あっさり攻撃が終了した。いやいや普通ピンチの後にはチャンスってくるもんじゃないの!?


「お兄ちゃん攻撃よわ」


「うるさいな」


 5回の表はランナーを出すも盗塁刺殺などで3人で攻撃終了。その裏、2アウト1,2塁で2回以来のチャンスを迎えた。俺はこのチャンスをものして1対0。ついに均衡が破れた。


「よっしゃ先制」


「甘いよお兄ちゃん。一点差くらいすぐに逆転できるよ」


 その言葉通り6回の表に一気に逆転され1対4。なんでこうなるかなぁ。その裏に妹のミスで1点取って2対4にするが反撃はそこまでだった。


 7回は両者無得点で8回の表。今度は1アウト2,3塁のピンチを迎えた。ここで俺は満塁策を取って塁を埋めた。


「お兄ちゃんズルい」


「うるさい。これも戦略だ」


 その次の打者を併殺に打ち取ってピンチを脱出した。その裏1アウト1,3塁のチャンスを作る。俺はこのチャンスを確実に点に結び付け3対4の一点差に迫った。


「まずいよ~」


「ここが勝負どころだな」


 その後もチャンスを作って2アウト1,3塁で代打の切り札を使った。ここですかさず投手を抑えに交代する妹。


 多分ここで点が入らなければ俺は負けるな。ここが1番の勝負どころだ。


「いっくよー」


「いつでもこい!」


 フルカウントからの12球目をヒットにして同点に追いついた。けど走塁をミスって同点どまりで攻撃終了。勝負は9回へ移行する。


 俺もここで抑えの投手を起用する。しかし2アウト3塁のピンチ。妹の代打攻勢に負けて1点謙譲。その裏を0に抑えられ妹に屈辱的な敗北をきっすることとなった。


「お兄ちゃん弱いなー」


「っく。ここぞとばかりに攻めてくるな」


「だって仕方ないじゃん。私このゲームでなかなか勝てなかったし」


 そうなのか。ここで1つ情報が手に入ったな。しかし以前名前はわからずじまいか。何か手掛かりはないものかな。


 そう言えば妹はオープンキャンパスに行ったって言ってたな。だったらその名簿の中に俺と同じ苗字を探せば一発じゃん。なんでこんな簡単な方法に気づかなかったんだ。


 俺は妹がトイレに行ってる隙を狙って木の運名簿を確認する。ここには昨日、うちの高校に来た全生徒の名簿だから絶対どっかに……。


 あった。


『逢坂百』


 これが妹の名前か。とりあえず最大の案件は片づけたな。


「それじゃあ私はそろそろ帰るよ。またねお兄ちゃん」


「おう。いつでも遊びに来い。待ってるからな。もも


「やっと名前呼んでくれたね」


 そう言って妹は今日1番の笑みを浮かべたのだった。


やばい……忙しすぎる……。

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