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台風の物語

 6月10日(水)


 今日は台風が直撃するらしい。ニュースで連日、沖縄とか台風の被害が甚大な地域が映し出されている。たとえ規模の小さい台風でも大きい台風でもいい。


 学生である俺達にとって重要なこと。それは暴風警報ないし特別警報が出て学校が休みになることだ。しかし台風は俺達の期待を裏切った。


 四国や中国地方は暴風警報が出てながらここ、大阪では暴風警報が出なかったのだ。外は早くも大雨が降り続いているし大雨警報なら何時間も前から出ている。


 なのに暴風警報が出ないとはどういうことだ。別に暴風じゃなくても良い。大雨特別警報でもいいから出てくれよ。


 そう言って何度もスマホとテレビの気象庁が発表する警報情報と睨めっこしていた。時刻は午前6時半。7時の段階で暴風警報ないし特別警報がでれば休校になる。


 俺にとっては平日2連休となる。ここだけの話、一昨日校長たち女子を家に送り届けるために学校と女子の家を大量往復した功績が認められ昨日は俺だけ休みになったのだ。


 表向きには風という事になってるが、公欠扱いなので成績には響かないのだ。このことは俺と校長だけの秘密である。


 いや~校長半端ねえわ。本当しんどかったから助かった。そして現在は1日リフレッシュして今日も休みになるかという瀬戸際なのである。


 どうか暴風警報ないし特別警報が出てください。神様お願いします。どうか俺に平日2連休をお与えください。本当にいるのかもわからない神に祈りをささげる。


30分後。俺達お地獄へ叩き落とす断末魔がなった。7時を示すアラームだ。結局、警報は出なかった。外を見るとこれでもかと雨が降りしきってる。


 あと1時間もしたら暴風警報か特別警報が絶対出てるな。雨足強まってるし。俺は進行の遅い台風を恨みながらかばんを持ち傘を持ち寮を出る。


 まだ7時ではあるがこういう天気の時はどうなるかわからないから早めに家を出ておく。それに着替えもかばんに入れておく。


 そしてさらに用心の為雨がっぱを着ていく。もうこれ完全防備じゃね。雨なんかこわくないぜ。いざレッツゴー!


 ◇


学校に着くころには俺はびしょびしょになっていた。いったいなぜだ。防水設備は完璧だったはずだ。いったい何がどうなってこうなったんだ!?


 思い出せ。思い出すんだ。


 確かあれは家を出てすぐだった。スリップした車が突っ込んできて俺をそれは避けたが、車が跳ねた水をもろにかぶったんだ。


 しかしそれは雨がっぱで防いだハズ。問題はその後か。雨がっぱがびしょ濡れになり1度公園で雨宿りしながら脱いだんだ。そしてそのまま傘をさして学校に向かった。


 要するに雨が風のせいで俺にかかったという話か。傘は全くの無意味だったという話か。


「零君どうしたの!?びしょ濡れだよ!?」


「美咲か。いや、いろいろあったんだよ」


 俺が振り向くと俺と同じくびしょ濡れになりブラウスがすけ下着が見えている美咲が立っていた。なっ。これは不意打ち過ぎる。


「つーか美咲もびしょ濡れだな」


「そうなんだよ。登校するだけでひと苦労だったよ」


 まだ気づいてないのか?これだと他の男子にも見られてる可能性があるってことだよな。それは断固阻止しなければ。


 しかし俺が見たことを隠し通せなおかつ美咲にブラウスが透けてることを知らせる方法は何かないものか……。


「それにしてもひどいなこの雨は」


「そうだね」


「この雨だと女子は大変そうだな」


「なにが?」


「ブラウスが透けて下着が見えたりこの風でスカートが捲れたり」


 これでどうだ。若干危ない奴の発言だがこれでさすがに気づいただろう。


「確かにそうだよね。気をつけなくっちゃ」


 気を付けるの今!早く気づいて美咲!もうすでに透けちゃってるから!下着が見えちゃってるから!速く隠してくれ。どこを見ればいいのかわかんなくなる!


「……今気づいて欲しかったんだけどな」


「零君何か言った?」


「いや……」


 これは援軍を呼ぶしかないな。恵か奏ちゃんか愛さんか会長かここは森でも良いから誰か来てくれ。


「逢坂、桜さん。おはよう」


「あ、三上君。久しぶりだね」


「久しぶりだな。三上」


 美咲と後輩君の間に体を入れ美咲の体を隠す。


 ったく。お前はお呼びじゃねえんだよ。さっさとどっか行け。そして2度と帰って来んな。もし美咲の下着を見たら殺すからな。


「ちょっと逢坂。邪魔なんだけど」


「零君?三上君が見えないよ」


「もうチャイムなんぞ。さっさと行け」


 俺はシッシッと虫を払うようにして追い払う。後輩君は1度舌打ちをして自分のクラスへ向かう。まだ時間的には余裕があるが、何とか撒いたな。


「零君どうしてあんなことしたの?」


「この際だから言うけど見えてるんだよ」


「何が?」


 無言で胸のあたりを示す。するとようやく美咲も事の重大さに気づいたのか顔を真っ赤にして胸元を隠す。うわ~なんかエロい。


「零さんこんなところで何をやってるんですか?」


「奏ちゃんか。いやちょっと、な」


「ちょっとなんですか?美咲ちゃんを辱めるのがちょっとなんですか?」


 見られてたー!これはマズい状況になってきた。一昨日の大活躍とは真逆の大失態だよこれ。俺は一体どうしたらいいんだ。


「いや……その……すいませんでした」


「分かったら二度とこんなことしちゃだめですよ」


「はい……」


 なんで怒られたんだろ?俺は美咲に透けてることを気づかせただけなのに。後輩君に見えない様にブロックをしたというのに。視線という名のシュートコースを消す完璧なブロックだったのに。


 それにしてもこの雨の影響なのか早目に学校に来てしまおうという人が多い気がする。そして全員がびしょ濡れになって入ってきてる気がする。


 しかしこの豪雨でなんで特別警報でないんだよ。なんでこの風で暴風警報がでないんだよ。そんなことを未練たらしくブツブツと呟いていた。


「それより奏ちゃんは大丈夫だったのか?」


「ええ。私タクシーで来たんで」


 このブルジョワが!!学校に登校するだけでタクシーだと!?ふざけんなよ。どれだけお金が必要になると思ってんだ!?お嬢様な森ならまだわかる。お嬢様だし、で済ますこともできる。


 しかし奏ちゃんがタクシーってそんな金どこから出てきたんだよ!?そんなに金あるんだったら少しくらい俺に恵んでくれても良かったじゃないか!?


「零さんは今、私がなんでお金をそんなに持っているのかと疑問を抱きましたね?」


「奏ちゃんはエスパーなの!?」


「それぐらいわかりますよ。零さんはいろいろ単純なんで」


また単純とか言われたよ。俺ってそんなにわかりやすい?詐欺にかかりやすい?あ、詐欺は関係ねえや。とにかくこの言われようは甚だ不本意である。俺だってポーカーフェイスぐらいできるよ。ポーカーやったら勝てるよ多分。


「それでどうしてそんなに金持ってんだよ?」


「男子寮の人達に貢いでもらいました。そして交換条件に零さんの弱点教えました」


「何してくれてんの!?つーかその金、俺を売って稼いだ金だよね!?俺に分け前よこせ!」


「怒るとこそこですか。私はてっきり弱点を教えたこと怒られるんじゃないかと思ってたんですけど」


「それもあるけどばらされたものはしょうがない。失った時間は戻ってこないからな。しかし金なら戻ってくるだろ」


「途中までは良いこと言ってたんですけど最後にそこれ言っちゃいますか」


「とにかく分け前よこせ」


「さっきのタクシー代で全部使っちゃいました」


「何してくれてんの!?」


「零さん、その突っ込み2回目です」


「そこはどうでもいい!」


「あの……零君。奏ちゃん。落ち着こう。ね?」


 美咲が止めに入ってくるが俺と奏ちゃんは止まらない。互いにメンチを切り合い火花を散らしあう。普通、俺の情報売って得た金をすべて使うか!?そんなことするならびしょ濡れになって学校来いよ。濡れ透けを披露しながら学校来いよ。


「えっと零君?そこまで怒らなくていいんじゃない?」


「美咲、止めないでくれ。ここで奏ちゃんを止めないと更なる被害が出る」


「許して下さいよ。心の狭い人ですね」


「それ奏ちゃんが言う?俺の弱みを男子寮連中に言いふらした奏ちゃんが」


「そもそも奏ちゃんって零君のどんな弱みバラしたの?」


「確かに……」


 美咲の一言で一旦、俺と奏ちゃんの戦いは中断される。確かに美咲の言うことも一理ある。漏らした情報によるな。それを知ってから怒っても遅くはないだろう。


「それで何の情報を漏らしたんだ?」


「零さんが中学二年生の時に中二病だったこととかです」


「それ駄目な奴じゃん!何黒歴史バラしてんだ!どうしてくれんだ。もう取り返し付かねえよ。俺が記憶から抹消してたことをよくも思い出させてくれたな」


「零君って中二病だったの?」


「うわーーーー!中二って言うな!」


「中二に中二病だったならセーフじゃないのかな」


「そうですよ零さん。中二ならセーフですよ」


「完全アウトだろ!これは思い出した時が1番つらいんだよ!こんなこと男子連中にばらされたらどんな手でくるかわかんねえぞ」


 とんでもないことをしてくださったな。しかも黒歴史をばらされるとか嫌いな食べ物とか好きな人がばれたとき以上に大ダメージだよ。


「君たちは天候が大荒れでも元気だな」


 この声は会長。そうだ。会長に何とかしてもらえば何とかなる。


「会長、相談が―――」


 振り向いた時いつもの凛とした雰囲気はなくきれいな銀髪はやつれていた。全身がびしょ濡れになっていた。そして見事に透けていた。俺はそんな会長の姿に何も言えなくなってしまった。


「会長、いったいどうしたんですか」


「すでにボロボロじゃないですか」


 美咲と奏ちゃんが会長の身を案じる。周りの生徒たちも会長の変わり果てた姿に一瞬足を止めチラ見して自分たちの教室に行ってる。


「逢坂君、相談って何ですか?」


「いや、今は良いです。今は安静にしててください」


 なんとか会長を保健室に送り届けなぜか1年の教室ではなく玄関に戻ってきてしまった。玄関からはびしょ濡れになった生徒たちがそれぞれの教室へと向かってる。


 時刻は8時前。しかし愛さんと恵の姿が見えない。今はそんなことはどうでもいいことだ。問題は奏ちゃんがばらしたという黒歴史の方。


「零さんそこまで怒らなくても良いじゃないですか。零さんに何かあった時は絶対に助太刀しますから」


「分かった。今日は幸いこの台風の影響で男子連中も元気がないからな」


「さすが零さんです。そんな優しい零さんは大好きですよ」


 そう言って抱き付いてくる。俺はため息を吐きながらこの台風がどこにも行かないことを願うばかりだった。どうせ、熱帯低気圧となって消えていく運命なんだけどな。


 その後、結局授業中に台風は過ぎ去ってしまった。恵と愛さんはなんと朝はものすごい雨になることを見越して昨晩のうちに学校に来ていたらしい。


 たまたま恵が生徒会室の鍵を持っていたのが昨晩のうちに登校する決め手となったらしい。行動力が無駄にすごい。そして暴風警報または特別警報が出ないと読み切ったこともそうだし、豪雨の中登校する羽目になる可能性を当てた推理力がすさまじい。


 会長の体調は台風は全く関係なく寝不足から来たものだった。1時間目を保健室で寝てたことによって元気を取り戻した。森は普通に風邪をひいて休みだった。


 俺的には森は高級車で学校に乗り込んでくると思ってたんだけどな。予想が外れてしまった。校長は自家用車で来てた。


 あの容姿で免許が取れたとかビックリ過ぎるんだけど。というか車持ってんなら一昨日車で来ればよかったじゃん。一昨日は降水確率高かったじゃん。


 さて雨も止んだことだしそろそろ帰るか。俺が学校から出て空を見上げると今朝の天気が嘘みたいに晴れわたり、虹が見えていた。


 あ~もうどうせ学校あるなら朝から晴れとけや。そうしたら黒歴史バラされることもなかったのに!そう呟き寮までの道を歩いていく。


 ◇


 寮の部屋にたどり着いたとき俺はびしょ濡れになっていた。なんでだー!帰るとき晴れてたじゃん。虹も出てたじゃん。濡れる要素なかったじゃん!


 記憶を探るとだんだん思い出してきた。確かあれはもうすぐ寮に着くという時だった。車が走っていてちょうどすれ違った時に車が水たまりの水を跳ねたんだ。


 そしてその水をもろにかぶってしまった俺はびしょ濡れになったというわけか。ハハハ。辛すぎて笑いが止まらねえ。


 今日はなんて日なんだ。朝から警報が出ずびしょ濡れになってまで学校に行き、黒歴史をばらされ、帰りにもびしょ濡れになる。


 まじで今日は不幸だ!


印象力が1上がった。



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