雨の物語
6月8日(月)
今日から学校だ。憂鬱だな。体育祭が終わりやり切った感を出した後の学校がめんどくさい。しかも体育祭が終わって3日目なのにいまだ疲れが抜けない。昨日いろんなトラブルに巻き込まれたから疲れたままというのは分かっているのだが、疲れを抱えたまま学校に行きたくないわ。
けれど朝は容赦なくやってくる。俺の耳元でなるアラームが俺の意識を無理やり浮上させる。憂鬱とした気分を抱えたまま起き上がる。アラームを止め朝ごはんであるパンを焼く。パンが焼きあがるまで俺はずっとボーっと立ち尽くしていた。
「あ~学校行きたくねえ」
思わず声が出てしまう。パンが焼きあがる。焼きあがったパンにバターを塗りたくる。良し完成だ。完成したパンと飲み物を机の上に置く。椅子に座りリモコンを使いテレビをつける。
テレビの画面にはニュース画面が映し出されている。どうやら沖縄に大型の台風がやってきているらしい。進路的には明後日に大阪直撃だ。でもまあ幾度となく台風直撃と言われてながら学校が休校になった記憶がないし大丈夫だろ。
ともかく今日は台風の影響で降水確率が高いから傘を持って出かけるか。窓から見る以上は曇り空だが雨が降りそうな様子はないのだが念には念を、だ。
パンを食べ終わると制服に着替え登校時間までのんびりする。外は少し風が出てきたようだ。さっきから窓ががたがた言ってる。
俺はテレビを消すと荷物と傘を持ち、家を出る。曇り空の上に風が出ているので6月にしては涼しい。10分ほどかけて学校に到着する。
正門のところで会長に出会う。会長は早くも夏用の制服を着ていて涼しそうである。
「逢坂君。おはようございます」
「会長。おはようございます」
「あら、傘を持ってきたんですか?雨は降りそうにありませんが……」
「降水確率が高かったんで一応持ってきとこうと思いまして」
「そうなんですか。それじゃあ生徒会の仕事がありますので」
「頑張って下さい」
「逢坂君は『生徒会長補佐』なんですからいつでも手伝ってくれて良いんですよ」
「か、考えときます」
そう言って会長と別れる。そこから自分の教室へ行く。教室に入るとどことなく空気が重い。ほとんどの人は登校してきてるのに口数が少ないせいだろう。そのかわりいつにもまして寝ている人が多い。
みんな体育祭の疲れが抜けきっていないようだ。いつもは元気な美咲も今日ばかりは机に伏している。教室に来る前にほとんど人に出会わなかったのでどこのクラスもこんな状態なんだろう。
そんな俺達の様子を見ても授業スピードは変わらない。俺からしてみれば簡単なので1,2時間寝てようと全く問題がないのだが他の人達は違う。懸命に睡魔と闘い乗り切っていた。
昼休みには地獄絵図とかした。ほとんどの人が昼ご飯も食べずに寝ている。それに呼応するかのように外の天気も悪くなり始めていた。
風は先ほどより確実に強くなり、曇りでも明るかった空が暗くなり始めているのだ。他クラスでも外に出ようとする人は誰もいなかった。
午後からの授業では、明らかに寝ている人が増えた。そのたびに先生の怒鳴り声が頭に響く。そのたびにイライラしてくる。こっちは疲れてるというのに。
放課後に突入するころには全員がぐったりしていた。窓の外を見るとパラパラと小雨が降り始めていた。今、帰れば少し濡れるだけで済んだかもしれないが、疲れによる眠気と先生の怒鳴り声のせいで溜まったイライラのせいで当分動く気にはなれなかった。
そして17時ごろにようやく帰ろうと校門に行くと外は土砂降りの雨だった。朝は雨が降る気配はなかったためほとんどの人が傘を持っておらず校門にたまっていた。
校門にいる人の中に恵、愛さん、奏ちゃん、会長、森の5人がいた。全員が空を見上げている。しかし雨は一向にやむ気配を見せない。それどころかさらに雨脚が強まったようにすら見える。
「うわぁ~凄い雨だ」
帰り支度をした美咲が校門にやってくる。美咲は校門に着くなり空を見上げる。そして自分の持っているかばんと空を交互に見る。まさかそのまま帰るつもりか?
俺はこの状況で傘を出すとどういうことになるのか分からないので傘を出せずにいた。そのまま雨宿りをしていると仕事を終えた校長までやってくる始末だ。
「雨がひどいね。これはしばらく雨宿りするしかないか……」
校長がため息をつく。ふと顔を上げた校長と目が合ってしまう。あ、やば。
「逢坂君じゃないか!?なんだい君も傘がなくて帰れないのかい?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」
「もしかしてあれかい?傘は持ってるけどみんなが傘を持ってないから出しづらいと?」
「うっそれは……」
「持ってるんだね?」
「え、零君、傘持ってるの?」
この言葉に一斉に注目を浴びてしまう。視線にも何種類かがある。1つは傘を奪おうかという獣の視線。2つ目は貸してくれるんじゃないかと期待のこもった視線。3つ目は相合傘をしたいという不純な視線。
追い詰められた俺は後ずさりする。しかし恵と会長の生徒会コンビが逃げ道を塞ぐ。
「零、逃げられると思ってるの?」
「逢坂君。私を家まで送ってくれませんか?」
「そんなことしたら一斉にきちゃうでしょ!?今のところ誰一人傘に入れてないから手を出してこないだけで一人に特別扱いするとドバーッときちゃうからさ」
言い訳じみたことを話している間にもジリジリと詰め寄られる。しかしこのまま無為に時間を過ごすよりかは全員を家に送っていたほうが速いかもしれない。
「分かった。ここにいるやつ全員家まで送ってやる!だから詰め寄ってくるのはやめよう!」
この言葉に歓声が上がる。唯一の救いはこの場にいるのが女子だけだという事か。俺達が雨宿りしてる間に男子は雨などに負けんとか言って走って帰っていた。社長や翔、後輩君はさすがというか傘を持ってきていた。
とりあえず家の近い子から順に送っていく。途中コンビニによって傘を買ったりして女の子に渡していった。このせいでお金がかなり無くなっていく。バイト代は入っているがそこまで多くないのに。
でもまあ全員の好感度を5ずつくらい上げていったからモテモテになる日は近いかもしれないな。もう何度目かの校門に戻ってくる。
残っているのは恵、愛さん、奏ちゃん、森、会長、校長、美咲の7人だ。結局いつもの7人が残ってしまった。まあ校長は新種であるが。なんか新種っていうと珍獣みたいだな。
とにかくまずは会長を家に送る。会長は俺にピトッとくっついてくる。
「傘を忘れて良かったかもです。こうして逢坂君に合法的にくっつくことが出来るんですから」
「勘弁してくださいよ。今日、いったい何人を家に送って行ったと思ってるんですか」
「ごめんなさい。つい嬉しくなっちゃって」
最近の会長は直球ばかり投げてくるようになったな。この前まではこんなことはなかったのに。そして会長の家に着く。会長の家は高級マンションの一室で1人暮らしらしい。かー羨ましい。
2人目は森だった。家の距離としては結構離れているのだが、森はれっきとした本物のお嬢様になってしまったのでいろいろ忙しいらしい。
「逢坂さん。助かりましたわ」
「そりゃあどうも」
森はしきりにくっついているのとは反対の肩を見てくる。おいおいなんか嫌な予感がするのは俺だけか?
「濡れていませんか?」
「大丈夫だよ、これくらい」
「駄目です。わたくしのせいで逢坂さんに風邪をひかれては困ります」
そう言って森は体を密着させて来る。いったい何なんだ?モテキ到来なのか?会長もくっついてきたし、ほかの子とも結構いい雰囲気だったし。
「ちょっ!?森!?」
「こうでもしないと逢坂さんが濡れてしまうので仕方なくですわ」
「そうかい」
俺は諦めた。ここでヘタに抵抗するよりなすが儘にされたほうが短く済みそうだったからだ。しばらく歩き森の棲んでいる家、というかお屋敷に到着する。
「デカー」
「わたくしの父様は富豪ですからね」
「本当にお金持ちだったんだな」
「わたくしを見直しまして」
「ああ。単純にスゲーって思う」
門の所に行くと傘を持ったメイドさんが出迎えてくれた。年齢はまだ20前後の若いメイドさんだなんか雰囲気が3年のドジっ子先輩に似ている。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「花蓮。ただいま帰りましたわ」
「ところでお嬢様。そちらのお方は」
「わたくしをここまで送って下さったクラスメイトですわ」
「初めまして。花蓮と申します。お嬢様を送っていただきありがとうございます」
「いえいえ、当然のことをしたまでですよ」
その後、お礼にお茶でもと誘われたが断った。まだまだ家に送らなきゃいけないからな。
3人目は奏ちゃんだった。プレイヤーは全員女子寮に住んでいるのである程度楽だ。
「零さん。ありがとうございます」
「別にいいよ。どうせ他にもたくさんの人を送らなきゃならなかったんだ。今更1人少なくなったって何も変わらないさ」
「普通そういうのって1人増えたところでじゃないんですか?」
「どっちも似たようなものだからいいんだよ」
「そういうものですか」
「そういうものだ」
奏ちゃんは小柄なので俺にくっつかずともどちらかが濡れるという事はなかった。奏ちゃんを寮に送り届けた後、急いで校門にまで戻ってくくる。
次は愛さんだ。愛さんも案の定くっついてきた。
「助かったよ。逢坂君が傘を持っていなければ盛大にびしょ濡れになるところだった」
「それは良かったです」
「なんか棒読みだね」
「そりゃあそうですよ。一体何回、学校と他人の家を往復してると思ってるんですか!?」
「それについてはすまないと思ってるよ」
「もういいですよ。結構役得ですし」
「だろ?お礼のつもりでサービスしてるんだよ」
「それわざとだったんですか!?」
「当たり前じゃないか。安心したまえ。こんなこと君にしかやらないから」
「そうですか」
俺は盛大に棒読みで答えてやった。しかし内心では心臓漠々である。胸が当たってるし、俺にだけとか言うし。本当に困ったものだ。
「しかし体育祭でずいぶんと女の子のハートを射止めたようだね」
「何ですかそれ!?校長もそんなこと言ってましたけど」
「このゲームは一夫多妻制になってるからね。諦める人ってのがいないんだよね」
「それはなんとなくわかります。けど俺がモテてるってのは一体どこ情報ですか!?」
「学校中の噂で聞いたんだ。とにかく女の子のハートを射止めるのはほどほどにしておけよ」
「いや、ほどほどにってどういうこと!?俺なんも聞いたことねえよ!?」
愛さんは寮に着くなり走って部屋へ行ってしまった。結局情報を何一つ聞けなかったし。俺がモテモテなんてあるわけがない。
5人目は恵だ。恵も俺にくっついてきたのだが顔を真っ赤にして1言もしゃべらない。いつもの恵みと違い調子が狂う。
「おい恵。大丈夫か」
「にゃ、にゃにが?」
駄目だこれ。呂律が回っていない。俺達は無言のまま歩いていく。雨はいまだ止むそぶりを見せない。ザーザーと雨粒が傘に当たりはじけ飛ぶ。
しばらく歩き続け寮にまでやってきた。恵は俺から離れ自分の部屋へ帰っていく。
「零、ちょっと待って!」
学校に戻ろうとした矢先、恵が俺を呼び止める。振り返ると部屋からとってきた自分の傘を差して立っていた。
「なんだ?」
「ありがとう。これだけは言っておきたかったんだ」
「どういたしまして」
すでに暗くなった道を戻り今度は美咲を家に送っていく。校長は残った人の中で唯一の大人という事で最後に回てもらった。
「零君と相合傘が出来るなんて今日は最高だよ」
美咲が抱き付きながらそんなことを言う。
「そうれは良かったな。なぁ、俺がモテてるって話を聞いたんだけど本当なのかな?」
「そりゃあそうだよ。リレーのアンカーを務め1位でゴールしたり、学年1位の成績を取ったりしていてモテないと思ったら大間違いだよ」
「そういうものなのか?」
「そうだよ。だからそんな人気者の零君を1人占めできるのが嬉しいんだよ」
「そうか……」
先ほどの恵とは対照的に俺の方が顔を真っ赤にしてしまう。美咲は相変わらずの平常運転だ。その後は雑談などを交わしながら暗い道を歩いていく。
美咲を家に送り届け学校に戻ってくると校長が待っていた。
「次は私だな」
そう言って背中に飛び乗ってきた。ちょ!子供か!
「校長、子供みたいなことしないでください」
「良いじゃないか。最後まで待ってたんだからこれくらいのご褒美があっても」
「仕方ないですね」
校長をおんぶしながら家まで送っていく。校長の家は一戸建てで1人暮らしらしい。なんでも親が結婚するのなら家は必要ねとか言って買ったらしい。そのこともあり校長は結婚を急いでたようだ。
そこからようやく自分の寮に帰ってくることが出来た。時刻はもう21時。飯も食べないまま風呂にだけ入り10時頃には完全にダウンしてしまった。明日は何事もありませんように。
印象力が5上がった。




