逃走の物語
お待たせいたしました。今日から連載再開です。これからは1週間に1度か2週間に1度の更新ペースとなります。ご了承ください。基本として土曜日に更新できたらと思ってます。
6月7日(日)
体育祭の翌々日。俺は街に繰り出していた。しかもこそこそとあたりを見渡しながら。周りの人達はそんな俺を不審そうな目で見て通り過ぎていく。俺は今とある場所へ向かっているのだ。知り合いに見つかっていけないという条件付きで。
◇
事の起こりは3時間ほど前にさかのぼる。俺は体育祭で疲れた体を休ませるために布団にもぐりこんでいた。時刻は既に9時。いつもなら起きている時間だ。俺が2度寝をしようと目を閉じかけたときである。スマホが音楽を奏でだす。この音は着信だな。俺はいまだ疲れの抜けきっていない体を奮い立たせ通話ボタンを押す。
『逢坂か?異世界だけど』
「どうかしたのか?電話してくるなんて珍しいじゃないか」
『例の物が用意できたから今日あたりどうかなと思ってさ』
「本当か!?それ!?」
『ああ』
「どこに行けばいいんだ?」
『うちの高校に来てくれないか?今、プリント中なんだ』
「わかった。たしかデザイン専門学校だったよな?」
『そうだ。それじゃあ待ってるよ』
「ああ。後でな」
俺は疲れを忘れて出かける準備をする。準備が終わると軽くご飯を食べる。腹が減っては戦は出来ぬということわざがあるように急ぎたい気持ちを抑えご飯はキッチリ食べる。食べ終えると家を出る。異世界君が通うデザイン専門学校は普通に歩いていけば40分ほどで着く。しかし例の物を美咲たち女性陣に見つかりたくはない。というわけで知り合いに見つかってはいけないお出かけが始まったのである。
家から出てわずか3分でピンチに陥っていた。美咲が歩いていたのだ。俺は曲がり角に隠れる。どうやら美咲は俺の家へ向かっているようだな。まあ家じゃなくて寮なんだけど。このままでは見つかってしまうので通常のルートから外れることを承知で裏道へ入る。
俺はそこまで裏道に詳しくない。しかし俺にはスマホがある。スマホの地図アプリで道を確認しながら少しずつ目的地へ近づいていく。しかしここで再び道を変えることを余儀なくさせられた。恵が歩いている。手にはエコバックを持っていることから目的地は商店街か。俺はさらにルートから離れる。くっ急ぎたいときになんてこった。
美咲と恵をやり過ごし、かなりデザイン専門学校に近づいてきた。それでもまだ中間地点といったところである。今日は日曜という事もあり人の多い大通りは避けたいということでスマホを使って裏道を通って進んでいたのだが、いつの間にか大通りに出てしまった。
「まずいな」
「何がまずいんだい?」
俺が振り返るとそこには愛さんがいた。ゲッ!見つかった!
「いや、なんでもないよ。愛さんはどうしてこんなところに?」
「買い物だよ。零君こそこんなところにいるなんて珍しいね」
俺がどこへ向かっているのかはばれていないようだ。なら話術でごまかし通す。
「いや体育祭も終わってから家に引きこもってたから散歩でもして体を動かそうと思ったんですよ」
「なるほど。なら私はもう行くよ。また明日、学校で会おう」
「はい。また明日」
よしよし。うまくごまかせたぞ。これで3人か。この調子だと後会いそうなのは奏ちゃん、会長の2人くらいかな。この2人に注意しておけば何とかなるだろう。それに大通りに出てしまったのなら人ごみに紛れて行動したほうが見つかりにくいかもしれない。
人ごみに紛れること10分。ここでまたアクシデント発生だ。なんと森が何人かの女子生徒とともに歩いていたのだ。森は予想してなかったな。あいつは会長の信者だから見つかったらメンドクサイことになりそうだ。仕方がなく近くのショッピングモールに入る。かなりの大型ショッピングモールで日曜ときたらそりゃあもう人が多い。
奥に入って人ごみから抜け出せたもののここから出入口を目指すのは至難の業である。さてどうしようか。館内地図を持ってどこかに通れそうな出入口を捜すも見つからない。どこも人でごった返している。こうなったら覚悟を決めて突っ込むしかないか。なんとか人ごみをかき分け出入口が近づいてきたころまたもや邪魔が入る。
「あら、逢坂さん。体育祭素晴らしいご活躍でしたね」
「森か。こんなところで会うなんて奇遇だな」
「そうですね。逢坂さんがこんなところにいらっしゃるのは珍しいですね」
「散歩の休憩がてらこの店に入ったのは良いけど、見た通りの人の量でな。出るに出られなくなってしまったんだよ」
「まあ、そうでしたの。でしたらわたくしについて来てくださいな」
そう言って森は俺の腕を引っ張っていく。いったいどこへ連れていく気なんだ?森が俺をつれてきたのは別館の駐車場だった。
「ここの駐車場はすべて機械に管理を任せておりまして誰もいないんですの」
「え~とつまり?」
「ここを通れば外へ出られる筈ですわ」
「監視カメラは!?」
俺は思わず絶叫する。ふつう機械に任せてるところとか絶対に監視カメラあるだろ。何を平然としてるんだよ。監視カメラに映ってたら通ったのばれちゃうだろ。
「忘れてましたわ」
「勘弁してくれ……」
結局ふりだしに戻ってしまった。というか森が話しかけたりしなければ人ごみをかき分けて出ることが出来たんですけど!
俺達が本館へ戻ると人がいなくなっていた。もちろん1人もいないってことはないけどさっきまで大量にいた人がいなくなっていたのだ。いったいどういう事だ。
『ただいまより3階、服飾店にてバーゲンセールを行います。お買い求めの方はお急ぎください』
バーゲンか。とにかく助かった。
「森、手伝ってくれてありがとな」
「……当然ですわ!」
俺にお礼を言われたのが意外だったのか呆けていたが数舜後には元の森に戻っていた。まあなんの役にも立たなかったけど手伝ってくれたことは素直に嬉しかった。ともかくなんとかショッピングモールを脱出することに成功した。
後は誰にも会わないことを願いながら進んでいく。残り5分くらいの距離でたしか大神さんだっけ、異世界君の彼女に出会った。本当に美人だ。巨乳だしなにより鮮やかな黒髪に目を奪われる。何も知らないやつは頭のいいお嬢様と思い込むだろう。まあ実際賢いんだろうけど、俺と異世界君と愛さんとのカップル対抗クイズ大会では1番レベルが低かったので賢いというイメージがない。
「大神さん。久しぶり」
「これは逢坂さん。お久しぶりです」
「こんなところで何してるの?」
「暇なのでブラブラと散歩していたのです」
「そうなんだ。これから異世界君の所に行くんだけど大神さんはどうする?」
「今日は遠慮しておきます。旅人はいろいろと忙しそうですから」
「そっか。じゃあ行くよ」
「それではまた会いましょう」
懐かしい再会もあり、ようやくデザイン専門学校にたどり着いた。異世界君は正門のところで待っていてくれた。
「遅かったじゃないか」
「悪い悪い。いろいろトラブルがあってさ」
「まあ、いいか。こっちだよ」
異世界君についていき校舎内へ入る。そしてたどり着いたのはコンピュータールームだ。中に入ると1台以外は止まっている。日曜だし登校してきてる人はほとんどいないのだろう。唯一電源が入っているパソコンをのぞき込むと編集済みの写真が何枚も表示されていた。その隣にはすでにプリント済みの写真が積みあがっている。
「例の物は?」
「コイツだ」
そう言ってSDカードを渡してくる。俺はそれをポケットの中に大事にしまう。その後はしばらくデザイン専門学校の授業で撮ったと思われるCM、ドラマ、写真を見せてもらった。
「面白いな」
「だろ?この学校はマジで楽しいぞ。たまにめんどくさいことしなきゃだけど」
「はは。とにかくありがとうな」
「気にするな。俺達、友達だろう」
「ああ。それじゃそろそろ帰るよ。悪いな。忙しいところ」
「別に。呼んだのは俺の方だから気にすんなよ」
「サンキュー」
「そうだ。お土産にこれ持っていてくれ」
そう言って写真の束を渡してくれる。分厚さから言って100枚はあるだろう。
「良いのか?」
「そのために用意してたんだ。受け取ってくれ。自分の分ならすでにプリント済みだからさ」
「何から何までありがとう」
「それじゃあ気を付けて帰れよ」
「分かってるよ」
写真の束を異世界君が用意してくれた封筒に入れ持ち帰る。しかし気が緩んだ頃にピンチはやってくるもの。俺はもう大丈夫だと思い大手を振って歩いていたところに会長と出くわしてしまう。
「逢坂君。奇遇ですね」
「会長。今日はどうしたんですか?」
「生徒会の仕事を終えて帰ろうと思ったんだけどなぜかこっちの方に行ったほうが良い気がしたしたんですよ」
「何ですかそれ」
「でも結果的に正解でしたね。逢坂君に会えましたし」
「ちょっ!こんなところで言わないでください!」
あたりを見渡す。どうやら誰もいないようだ。良かった。会長の信者に聞かれたらどうなっていたか分からないぞ。
「ところでその荷物はなんですか?」
「知り合いからの預かりものですよ」
「そうなんですか」
「ええ。そろそろ帰りたいので失礼します」
「待ってください。逢坂君も帰るなら一緒に帰りましょう」
な、なんだってー。今日の会長は一体どうしたんだ。いつになく強気だ。野球部的には変化球投手が直球連発してくるような感じだぞ。
「わ、わかりました」
しぶしぶ了承し会長と一緒に帰ることになった。しかしこの選択が更なるトラブルを呼ぶ。
だいぶ俺達が通う学校に近ずいた時、校門から八戸校長先生が出てくる。
「み、御影ちゃんが男とデートしてる」
「先生!別にデートってわけじゃ……」
校長の言葉に慌てふためく会長。会長、その反応はまったく説得力ないです。
「校長先生、あまり生徒をからかわないほうがよろしいのでは?」
「別にからかってなどいない。ただ嫉妬しているだけだ」
生徒に嫉妬する校長っていったい……。
「いやそれでも会長困ってますし、やめときましょう」
「逢坂君……」
「君は確か仮装レースに出場していた逢坂零君だね」
「はい。そうですが何か?」
「君はたくさんの女の子を侍らしているそうじゃないか?」
「別に侍らしてなど……」
「何々謙遜しなくてもいいさ。私のお願いを聞いてくれたらね」
「なに校長が生徒を脅してるんですか!?」
「先生、それはさすがにまずくないですか?」
「ほら、会長もこう言ってますしあきらめましょう」
「嫌だ。それでお願いというのはな、私を君のハーレムに入れてくれないか?」
「いきなり何を言ってるんですか!?」
「そうですよ!逢坂君は私の物です」
「そうじゃないだろ!?」
突っ込みつかれた。しかしこの校長はいきなり何言ってんだよ。まったく。しかし話も聞かず門前払いでは納得がいかないだろう。話だけは聞いてやるか。
「理由を聞いても良いですか?」
「うん。私って幼児体型だろ?」
「否定はしません」
「そこは嘘でも否定しろよ!」
「自分で嘘って言ってますやん」
「そこはおいといて、この幼児体系のせいで結婚相手がなかなか見つからないんだよ」
「はぁ。それで?」
「私は結婚したい。しかし誰でもいいというわけではない。しかしこの幼児体型ではマニアックな趣味の持ち主しか結婚してくれないだろう」
「確かに」
「そこで君の話を聞いたんだ。たくさんの女の子を侍らせなおかつそれでも人気が高い君の話を。現に君は私の話を切り捨てず話を聞いてくれたからね」
「なるほど。理由は分かりました。して俺が人気というのは?」
「気づいてないのかい?うちの高校で君はかなり人気だよ。運動神経抜群で成績優秀なのにみんなに優しいって」
あー確かに。運動能力も学力も中学レベルにしてるせいでハイスペックの持ち主になってるもんな。
「考えときます」
「おおっそうか。いい返事を期待してるよ」
なんとかやり過ごした。後は家に帰るだけだな。そういえば奏ちゃんだけ見かけてないな。
その後は会長と別れ何事もなく寮へ帰ってきた。
「おかえり、零」
「おかえり、零君」
「おかえりなさい、零さん」
そこにいたのは恵、美咲、奏ちゃんだった。
最後の最後で大ピンチだな。
「零さん、その封筒なんですか?」
「知り合いからの預かり物だよ」
「零君。ちょっと見せて」
「いや俺のじゃないし」
「いいから見せなさい」
封筒を取られる。マズい!あの中には体育祭の写真が、美咲たちのコスプレ写真が、あのドジっ子先輩のパンチラ写真が入ってるのに!
「本当のようね」
「へ?」
封筒を返してもらい中を見る。すると写真のほかにも紙が1枚入っていてそれには「写真を預かってくれてありがとう」と書かれていた。さすが異世界君。ここまで読んでいたとは。
俺は異世界君に助けられた形で見事に写真をゲットしたのであった。
体育祭の写真を手に入れた。ステータスにはなんも関係ないけど。




